「米中貿易戦争は回避される」国際交渉人がそう判断した根拠

まぐまぐニュース! / 2018年4月20日 18時16分

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トランプ大統領による鉄鋼製品を始めとする関税措置により、火蓋が切って落とされたかのように報道される米中貿易戦争。世界一・二の大国は、このまま本格的な「戦闘状態」に突入してしまうのでしょうか。元国連紛争調停官で国際交渉人などの顔を持つ島田久仁彦さんは、自身のメルマガ『最後の調停官 島田久仁彦の『無敵の交渉・コミュニケーション術』』の中で、米中両国の要人たちの発言等を分析し、「交渉人の目線」で米中貿易戦争の今後を予見します。

時事問題ギリギリ解説:米中貿易戦争の行方とその影響

アメリカ・トランプ大統領が予てよりアメリカが抱える累積貿易赤字を、中国、日本、欧州諸国などの対米貿易政策と待遇の不均衡の責任と批判してきましたが、ついに本格的な措置に乗り出す気配を見せました。

日本も対象になってしまった鉄鋼製品を始めとする関税措置は、その一例ですが、やはり規模でもその威力でも、無視でないのは、米中間の貿易戦争ともいえる対抗措置の応酬でしょう。

トランプ政権が、4月初旬に中国からの輸入に対しての制裁措置の“可能性”に言及したことに端を発し、そして通商法第301条をベースに、中国に対して知的財産権の侵害を訴える動きに出ました。中国もすぐさま米国製品の輸入に対しての制裁を発表し、対抗する姿勢を示しました。

そして、その後、トランプ大統領は、500億米ドル規模と言われた当初の制裁規模に加えて、1,000億ドル規模の制裁を追加する可能性に言及し、中国もすぐに追加の対抗措置の可能性をほのめかしています。もし、このまま、世界第一位と二位の経済国間で、貿易制裁の応酬が続き、制裁が実際に発動されたら、世界経済に与える影響は決して小さくはないでしょう。

日本の河野外務大臣も「両国に自制を求め、常識的な行動をとることを望む」と発言していますし、世耕経済産業大臣も「パートナーとして両国に引き続き働きかけをする」と、問題を深刻にとらえているようです。

米中両国経済への負の影響は否めませんが、それ以上に悪影響を被るのは、タイやフィリピン、インドネシアといった米中両国と貿易関係がありそれぞれの国家経済の基幹となっているような東南アジア諸国でしょう。そして、日本の経済も例外ではないかもしれません。

もし、恐れているシナリオが事実になってしまったら、好調を保っている東アジア、東南アジア経済の成長をはじめ、世界経済の復調にも水を差すことになりえません。各国の政府・メディアはこぞってその恐怖の可能性について発言しています。

しかし、本当にそのようなシナリオになるでしょうか。私は、まず現時点では、心配はないと考えています。まず、事の発端を作り出したトランプ政権側も、ナバロ国家通商会議議長やロス商務長官が「まだ、詳細は精査中で、発表に対して、市場は過剰に反応しないでほしい」と、わざわざ発言し、騒動の火消しに躍起になっています。

また狙い撃ちされた中国側も、政府高官が、私達がメディアでよく見る“深刻な顔で”はなく、笑顔を湛えつつ、中国からの報復の可能性について言及しており、決して本気に捉えている様子はありません。あくまでも「もしもの場合、中国もこういった報復措置を取る」とできるだけ具体的には返答しつつも、実際に恐れたシナリオが実現することは考えづらいと考えているようです。これは、中国政府内でもシェアされている見解のようですし、対象となる各産業セクターの幹部たちも、あまり現時点では真面目に捉えてはいないとのことです(もちろん、ワーストシナリオへの対処については策を練っているようですが)。言い換えれば、「貿易戦争」というよりは、「米中間の貿易小競り合い」というところでしょうか。

その私の印象をより強めたのが、4月10日に習近平国家主席が行ったボーアオアジアフォーラムで行った基調講演の内容です。私なりにまとめると、主な内容は以下の4点かと思います。

  1. 市場参入:銀行、証券、保険の外資持ち株比率制限の緩和、保険市場の開放、自動車業の外資持ち株比率制限の緩和
  2. 投資環境の改善:知的財産権保護の強化、外資企業の国民待遇およびネガティブリスト管理制度の全面的実施
  3. 知的財産権の尊重:「国家知的財産権局」の再建、関連法律の整備
  4. 輸入拡大の継続:自動車の輸入関税の大幅な引き下げ、WTOの「政府調達に関する協定」加入への取り組み強化、11月に上海で開催予定の「中国国際輸入博覧会」の重要性

さらに、これらの政策は口だけで終わらせるのではなく、「これらの政策を早急に実行に移す」とも強調していたのが印象的でした。

そして、聞いていて耳に残ったキーワードは、「開放」「多国間」「平和」で、これらは何度も繰り返され、それらは、かなり米国からの“挑発”を意識し、それに対して中国は国際ルール特にWTOに沿った対応を断固して取る、という点を強調した講演だったように思えます。これに対し、トランプ大統領がどのような反応を示すのかが興味深いと考えています。

大事なことは、今回の米中の“小競り合い”をまともに捉え、不安を煽るのではなく、あくまでも静観の姿勢を保ちつつ、考え得るワーストシナリオに念のため備えておく、という姿勢かと考えます。そう考えると、ナバロ氏やロス長官の火消しコメントも、そう現実とずれた内容ではないのではないでしょうか。

実際に、シリア問題や北朝鮮をめぐる問題が複雑さを増す中、軍事面のお話だけではなく、経済でも、多方面で戦いを挑むということは戦略上致命的なエラーです。米中両国とも、すでに沈静化のための協議は行っているようですが、日本をはじめとする周辺国・関係国も、両国が行っているチキンレースをまともに捉えず、Business as Usualを淡々と続けておくことが肝要かと考えます。

image by: Flickr

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