ドイツに大声で激怒するトランプが「最大最強の味方」を失う日

まぐまぐニュース! / 2018年7月17日 4時30分

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7月11日、NATO加盟国の首脳会議で米トランプ大統領はドイツを名指しで非難しました。これは、アメリカがNATO全加盟国の国防支出の7割近くを占めるのに対して、ドイツなど他の加盟国の負担が少なすぎることに腹を立てたのです。こうしたドイツと米国の関係悪化について、国際関係ジャーナリストの北野幸伯さんは、自身の無料メルマガ『ロシア政治経済ジャーナル』で、非難の理由はわかるとしながらも「対中露のために、米欧は協調路線を目指すべきだ」と論じています。

米欧関係を破壊するトランプ

ブリュッセルで7月11日、NATO首脳会議がはじまりました。ベルギーを訪れたトランプさん。早速、NATO加盟国、特にドイツを大声で非難しました。

トランプ大統領はイエンス・ストルテンベルグ(Jens Stoltenberg)NATO事務総長との朝食会の冒頭、儀礼的なものにするという慣行を破り、ドイツをはじめとする加盟国が費用を負担していないと激しく非難。

(AFP=時事 7月11日)

なぜ、トランプさんは、NATO加盟国、特にドイツに腹を立てているのでしょうか? 問題は二つです。

一つ目、トランプは、他のNATO加盟国の負担が少なすぎると主張している。毎日新聞7月11日。

NATOは2014年、対ロシア関係の緊張高まりを受け、24年までにすべての加盟国が国防費をGDP比で2%以上に引き上げる目標を設定した。しかし18年中に達成が見込まれるのは、加盟29カ国のうち米英やロシアに近い東欧中心の計8カ国のみだ。これに対し、米国はNATO全加盟国の国防支出の7割近くを占める。

アメリカはNATO全加盟国の国防支出の7割近くを占める。これは、ムカつく要因ですね。トランプさんが、「他の加盟国は、安保タダ乗りだ!」と考えるのも仕方ありません。それで、トランプさんは、この件でたくさんツイートしています。

こうした点に不満を持つトランプ氏は首脳会議前日の10日、「NATO加盟国はもっと多く、米国はより少なく払うべきだ。とても不公平だ」と主張するなど、通商問題も絡めながら欧州の加盟国を批判するツイートを繰り返した。(同上)

アメリカは、欧州を守っているのに、彼らは実質何もしないし、金も出さない。不公平だと思わないか?」

こういうロジックは、わかりやすく庶民受けするのでしょう。トランプさん、選挙戦中ずいぶん日本をたたいていました。その時は、「日本が攻められたら、アメリカは、日本を助けなければならない。しかし、アメリカが攻められたら、日本は何もしなくていいんだ。これは、不公平だと思わないか?」というと、支持者の皆さんが「いえ~~~す!!!!」と大声で叫んでいました。

そして、トランプさんの主要なターゲットは、欧州最大の経済大国ドイツです。なぜ?

とりわけトランプ氏が標的とするのは欧州最大の経済大国ドイツだ。ドイツの国防費はGDP比約1.2%で、24年までの引き上げ目標も1.5%にとどまる。(同上)

なるほど~。ドイツは、GDP世界4位、欧州1の経済大国。エマニュエル・トッドさんは、「EUは実質ドイツ帝国だ!」と断言している。それほどパワーのある国なのに、国防費は、GDPの1.2%しかない(ちなみにアメリカの軍事費は、GDP比で3.1%。日本は、約1%)。

ガスパイプラインをめぐる対立

そして、トランプさんは、もう一つドイツに憤っています

トランプ大統領は、ロシアからドイツに天然ガスを供給するパイプライン計画「ノルド・ストリーム2(Nord Stream II)」に言及し、「ドイツはロシアによる捕らわれの身となっている。膨大なエネルギーをロシアから得ているからだ」と発言。続けて「世界中の誰もが、このことについて話している。われわれがドイツを守るために数十億ドルも払っているというのに、ドイツは数十億ドルをロシアに支払っていると」「ドイツはロシアに完全に支配されている」と語った。

(AFP=時事 7月11日)

ドイツはロシアに完全に支配されている」そうです。何の話でしょうか? 「ノルド・ストリーム2」とは? 少し、補足しておきましょう。

欧州が、ロシアのガスに依存していることは、よく知られた事実です(総輸入量の約4割、総消費量の約3割)。ところで、ロシアのガスは、どういうルートで欧州まで届くのでしょうか? 主なルートは、「ウクライナ経由」のパイプラインでした。

ところが、ウクライナで04年革命が起こり、親欧米・反ロシアのユーシェンコさんが大統領になった。その後、ロシアとウクライナは、しばしばガス料金問題で対立。「ロシアが、ウクライナへのガス供給を止めた!」というニュースを覚えている人も多いでしょう。

ロシアは、「反ロのウクライナを迂回して、直接欧州にガスを届ける方法はないか?」と模索しはじめた。そしてできたのが、ロシアとドイツを直接結ぶ海底パイプラインノルド・ストリーム」です(2011年稼働)。

「これはいい!」ということで、ロシア、ドイツ、フランスは「ノルド・ストリーム2をつくろう!」ということになった。そして、2019年完成にむけて、プロジェクトが進んでいるのです。

もう一度、AFP=時事の記事を見てみましょう。

トランプ大統領は、ロシアからドイツに天然ガスを供給するパイプライン計画「ノルド・ストリーム2(Nord Stream II)」に言及し、「ドイツはロシアによる捕らわれの身となっている。膨大なエネルギーをロシアから得ているからだ」と発言。続けて「世界中の誰もが、このことについて話している。われわれがドイツを守るために数十億ドルも払っているというのに、ドイツは数十億ドルをロシアに支払っていると」「ドイツはロシアに完全に支配されている」と語った。

アメリカは、「ノルド・ストリーム2に反対。「安全保障上の理由だ」としています。つまり、ドイツ、欧州のロシアガス依存度が高まるのは脅威だと。

それに、「ウクライナが外されて貧乏になる」という理由もありますね。2014年2月まで、ウクライナの大統領は、親ロシアのヤヌコビッチさんでした。しかし、今のポロシェンコさんは、バリバリ親米反ロシア。それでも、ロシアのガスを欧州に流す「トランジット料」はほしい。アメリカは、親米ウクライナが貧しくなるのを防ぎたい。

さらに、シェール革命で世界1の資源大国に浮上したアメリカが、「欧州に液化天然ガスを売りたい」という事情もあります。というわけで、トランプさんは、「ノルド・ストリーム2」に反対しています。

このプロジェクトを推進しているメルケルさんは、どういう反応だったのでしょうか?

ドイツのアンゲラ・メルケル(Angela Merkel)首相は一連の非難に対し、ドイツは「独立して決断」を下していると反論した。共産圏の旧東ドイツで育ったメルケル首相は、緊張感が漂うNATO首脳会議の会場に到着すると、「私自身もドイツの一部がソビエト連邦に支配されるという経験をしている」と語り、「今日、ドイツ連邦共和国として自由の下に統合し、その結果として、われわれ自身が独立して政策をつくり出し、われわれ自身で独立して決断を下すことができることがとてもうれしい」と述べた。(同上)

つまり、「トランプのいうことなんか、きかないわ!」ということですね。

トランプ外交は、アメリカを弱める

トランプさんのロジック、皆さん、どう思われますか? 少なくとも「一理あるな」と思われるのではないでしょうか? そうなのですが、これらの問題を「大声」でいうのは、どうだろうかと思います(大声でいうことで、支持率を上げたいのでしょう)。世界中に、「俺は欧州にケンカ売ってるんだぜ!」と宣言しているようなものです。

今の世界情勢を、少し見てみましょう。1991年末、ソ連が崩壊し、米ソ二極時代は終わりました。そして、「アメリカ一極時代」がはじまった。しかし、この時代は、08年の「100年に1度の大不況」で終わりました。

今は、「米中二極時代」です。自覚しているしていないはともかく、アメリカと中国が世界の覇権を争っている。どっちが勝つのでしょうか?

実をいうと、勝敗は、「その他の大国の動向で決まることが多いのです。「その他の大国」とは? 日本、EU(国ではないが)、ロシア、インドなどなど。そして、EUはアメリカにとって最重要のパートナー」であるはずです。

なぜ? まずEU(イギリスも含む)は、世界GDPの約22%を占めています。2017年時点で約17兆ドル。アメリカは同年、約19兆ドル。米欧あわせて、36兆ドル。アメリカ最大のライバル中国のGDPは、12兆ドル。かなり追い上げていますが、それでも欧米の3分の1にすぎません。欧米に日本を加えれば、世界GDPの半分に達します。

米中で深刻な対立が起こったとしましょう。日欧米が一体化して中国に制裁すれば、中国経済を破壊することができるでしょう(日欧米は、クリミア併合後、一体化してロシア制裁を行っている)。

そして、アメリカと欧州は、29か国からなる巨大軍事ブロックNATOを有している。さらに、欧州の情報戦の強さもあなどれません。欧州は、「世界でもっとも人権を重視する地域」という評価を得ている。それで、欧州から発信される情報は、無条件で「真実」と認識されがちなのです。そして、なんといっても、欧米は「民主主義、自由、人権」といった価値観を共有している。

トランプは、「最大最強の味方を非難することで、欧米関係を破壊しています。結果、欧州は、中国の方にますます接近している。そういう意味で、トランプ外交で、アメリカは弱くなっています。

image by: Evan El-Amin / Shutterstock.com

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