煮え切らぬ北方領土問題の着地点は「国境なき四島共同管理」か?

まぐまぐニュース! / 2019年2月6日 20時44分

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2019年1月22日、安倍首相とプーチン大統領による首脳会談が開かれました。今回、かなりの進展が期待されていた首脳会談ですが、フタを開けてみれば“肩すかし”を食らった感があるようです。果たして今回の協議は進展なのか、後退なのか。メルマガ『竹内睦泰と読者で作る「未来へとつながる歴史、政治、文化座談会」』の著者、竹内睦泰さんが分析しています。

日露交渉の着地点

安倍政権下では通算25回目です。内容を外務省HPから抜粋要約(一部補足)しておきます。

平和条約締結問題

シンガポールでの合意(1956年の日ソ共同宣言を基礎として平和条約交渉を加速させる)を踏まえた具体的な交渉が開始、率直かつ真剣な議論が行われたことを歓迎。2月中に外相間の次回の交渉、首脳特別代表間の交渉も行い、交渉を更に前進させるよう指示。

北方四島における共同経済活動

両首脳は早期実現のために共同作業を着実かつ迅速に進展させるよう、事務方に指示することで一致。

幅広い分野での二国間協力

防衛交流・安全保障、議員間交流等のさらなる推進と加速。「政治対話」では、6月の大阪G20サミットに併せて日露首脳会談と日露交流年閉会式を行うことで一致。

いまはクールダウンの時期

そのためでしょう、メディアでは「進展せず」「焦る首相」「後退」といった否定的な表現が踊ります。自民党内部からは「いったん交渉を打ち切るべき」との強硬論が出ているとも報じられています(1/29毎日新聞)。

しかし、水面下ではかなりのところまで交渉が進展していると見るべきです。交渉の着地点はほぼ定まっているものの、いまは表に出す時期ではないと両首脳が判断しているのでしょう。

ここしばらくはクールダウンし、水面下でさらに内容を詰めながら機が熟すのを待つ。その時期は2020東京オリンピックが終わってから、安倍首相の自民党総裁としての任期が満了する2021年9月までのどこかであると予想します。

着地点としての予想3プラン

では、平和条約交渉の行方、その核心部分となる北方領土問題の着地点とは?3つのプランA、B、Cとして示します。

*プランA「二島返還」

*プランB「四島共同管理特別区」

*プランC「四島一括返還」

いずれのプランも「平和条約締結後に」との前提条件が付き、それぞれ派生形があります。可能性として一番高いと私が考えるのはプランB「四島共同管理特別区」です。

プランCは私の願望と期待を込めてのものですが、両首脳の頭の中には、そのシミュレーションも含まれていると思います。

以下の私の推論の根拠となるものは、現在に至る交渉過程で表に出ている情報、そして表には出ない裏情報(名を明かせない関係筋からの一次情報)です。それぞれのプランについて見ていきます。

PlanA「二島返還」双方にメリットなし!

▼日本国民の合意が得られない

プランAは、1956年の日ソ共同宣言を「ほぼ忠実に」履行する内容を基本とします。すなわち「平和条約締結後の二島(色丹島、歯舞諸島)返還」に準じます。

戦後一貫して四島一括返還を求めてきた日本政府、日本国民としては到底飲める案ではありません。日ソ共同宣言から64年間、紆余曲折がありながらも、日本政府が粘り強く交渉を継続してきたのは、「二島返還で決着させない」とする国民の強い意思を受けてのものです。

安倍首相も、そのことを充分すぎるほどわかった上でロシア側との交渉に臨んでいるはずです。

▼プーチン大統領の“爆弾発言”

しかし、最近になって「二島返還もやむなし」との声が国民の間に広がりつつあるのが気がかりです。

きっかけのひとつに挙げられるのが、昨年「ウラジオストク東方経済フォーラム」の公開討論おけるプーチン大統領の“爆弾発言”です(2018/9/12)。

いま思い付いた」と前置きしたプーチン大統領は、「あらゆる前提条件を付けずに、年末までに平和条約を結ぼう」と安倍首相に呼びかけたのです。

▼にわかに台頭した「二島返還論」

安倍首相がその場での返答を避けたことから、日本のマスコミは「領土問題、事実上の棚上げか?!」と大騒ぎました。

菅義偉(すがよしひで)内閣官房長官はすぐさま「北方四島の帰属問題を解決して平和条約締結」との従来通りの政府方針を述べて否定します。

これを契機にさまざまな憶測を呼ぶことになります。

その2カ月後、シンガポールでの日露首脳会談(2018/11/14)で、「1956年宣言を基礎として平和条約交渉を加速させる」ことが安倍・プーチン両首脳の間で確認されます。

ここにきて、「二島返還」とその派生形の「一島返還+α」「二島返還+α」論がにわかに台頭します。

▼情報操作、世論誘導を疑う

昨年12月に実施された産経・FNNの合同世論調査では、「四島一括返還少数派に転落しています。

・「歯舞・色丹の2島だけの返還でよい」7.7パーセント

・「歯舞・色丹二島返還先行、国後・択捉引き続き協議」50.0%

・「四島一括返還」30.8%

https://www.sankei.com/politics/news/181210/plt1812100019-n1.html

「これまでの交渉経緯から四島返還は不可能。であれば、ここは妥協して実現可能な範囲で決着すべき」と考える人が急増したということでしょうか? 必ずしもそうではないでしょう。

穿った見方かもしれませんが、「四島一括返還」では都合が悪い勢力による情報操作世論誘導が行われているように思えます。心当たりがありますが、ここには書きません。

▼ロシアの国内事情による焦り

ロシア側にとって、北方領土問題は日本からの経済協力を取り付けるための重要な外交カードです。日本からの経済支援によってロシア経済を活性化させることが一義的な課題となります。

ただ「二島返還」で決着させれば、日本国民の大きな反発を招き、ようやく前進し始めた日露間の経済協力、人的交流などが停滞します。ロシアにとって困ったことになります。

ロシアの国内事情を見てみましょう。

ロシアによるクリミア侵攻・併合(2014)により発動されたロシアへの経済制裁(米、EU、日本など)が、ここにきてボディーブローのように効き始めているのです。

https://www.nhk.or.jp/kokusaihoudou/archive/2018/05/0521.html

▼ロシア側のメリットは小さい

ロシア国内におけるプーチン大統領の支持率は、一昨年あたりから急激に落ち込んでいます

直接的には年金改革に対する国民の反発によるものですが、ロシア経済の地盤沈下が背景にあるのは言うまでもありません。

プーチン大統領にとって平和条約交渉の加速は、

1. 日本から額の大きい経済援助・協力を引き出す

2. アメリカやEUの風当たりを和らげる(経済制裁の緩和)

の2つの狙いがあります。

その両方を壊すことになりかねない「二島返還」は、ロシア側に大きなメリットがありません。

以上より、プランAの可能性はかなり低いと考えます。

PlanB「四島共同管理特別区」win-win関係、可能性大!

▼「二島返還+α」との比較

現在よく聞かれるのが、プランAの派生形「二島返還+α」案です。内容は人よって若干異なりますが、基本的に、

「まず色丹、歯舞の返還を先行させて国境線を確定し、残り二島はその後の経済交流の成果を踏まえて交渉を継続させる」

という“二段構え”の内容です。「+α」は、残りの島ではなく、共同経済活動や人的交流を意味しています。

対するプランBは、もっとシンプルかつダイナミックです。「四島主権の半分」を回復して四島共同管理にすることで、「+α」の部分となる共同経済活動の規模が一気に拡大します。

▼名を半分捨て、実を倍以上取る

「二島返還+α」では、いったん国後、択捉の主権回復を諦め、かわりに色丹、歯舞の“小さな主権”を回復します。あとは「+α」の進展を見ながら20年、30年(あるいはそれ以上)かけて残り二島の主権回復を目指す方針です。

「名を捨てて実を取る戦法」ですが、これはさすがに疲弊します。先々の世代が「もう現状維持でかまわない」と匙を投げてしまうことも充分に想定されます。

プランB「四島共同管理特別区」は、四島一括返還とはいきませんが、それでも四島同時にその半分の主権を回復できるのは大きな成果です。「名を半分捨て、実を倍以上取る戦法」です。

もちろん、それなりの対価をロシアに提供しなければなりません。「四島主権の半分を売り渡した」と解釈されない仕組み作りに工夫が必要ですが、それは「二島返還+α」も同様です。

国内経済の立て直しが急務のプーチン大統領にとって、共同経済活動の範囲を一気に広げられるプランBのほうが、得られる利幅も格段に大きくなります。

総合的に考えれば、プランBは日露双方にとってwin-winの関係、お互いに大きなメリットを得られるのです。

▼国境線の確定をめぐる比較

1956年の共同宣言で残されたテーマが「領土・国境の確定」です。領土返還に先駆けて平和条約を締結するには、当然のこと国境の確定を避けて通ることができません。

その点で言うと、「二島返還+α」で確定させた国境線は、その後の交渉を難しくさせる“トゲ”として残り続けます。

過去の歴史を振り返れば明白なことですが、いったん国境が確定されるや、それを動かすのは容易ではありません。「二島返還+α」の弱点はここにもあります。

「日露共同管理特別区」では、北方四島を細長い楕円形で囲む特別区域線を想定します。暫定的・流動的な要素を多く含むため、国境線と違って柔軟に変更しやすい面があります。

もちろん、平和条約の条文では「特別区域線」はあくまでも暫定的であり、将来的に両政府両国民の合意のもとに変更できる余地を残しておきます。

▼「四島一括共同管理」をロシアが提案

さて、そもそも論としてプランBを「あり得ない」「お花畑」と思われる方もいらっしゃるでしょう。しかし、突拍子もない案ではありません。

実際、過去に「共同管理は何回か提案がなされています。しかも、最初はロシア側からの提案です。

あまり知られていませんが、1998年、ロシアでの日露首脳会談でエリツィン大統領が小渕恵三首相に向け、北方四島を一括して共同管理する案を示しています。

日本側は歯舞、色丹まで共同管理とすることに難色を示し、この話は立ち消えになりましたが、四島を一括して共同管理する“幻の案”が、実は20年前に存在していたのです。

日露交渉に長年携わってきたプーチン大統領やラブロフ外相、そして安倍首相や外務省がそれを知らないはずがありません。

▼「共同管理」をめぐる発信

国際法の権威である村瀬信也氏(上智大学名誉教授、国連国際法委員会委員)は、かつて「歯舞・色丹・国後三島の主権を日本に帰属させ、択捉島を『雑居地』として両国政府の共同管理下に置く」とする案を示しました(2010/1/7毎日新聞)。

そのモデルとして挙げたのが、南太平洋のニューヘブリデスです(1906~1980英仏共同統治)。

また、森喜朗元首相は2014年の講演で北方領土問題について触れ、「特別区域にして両国で経営するやり方もある」とし、先の村瀬氏の提案と同じく「四島のうちのどれかを共同管理とする案」を含めて交渉すべきだと発言しています。

いずれもプランBの派生形と言えるでしょう。

▼両首脳、問題解決への強い決意

日露関係の歴史を振り返ると、日露和親条約(1855)のあとに樺太が日露両国に属する雑居地となっています

当時は帝政ロシアが南下政策の一環として樺太占領を目論んでいたため、各地で小競り合いや紛争が勃発しました。そのため、明治政府は事実上の無法地帯となった樺太からの撤退(千島列島との交換)を余儀なくされました。

しかし、時代は変わっています。何回かの冷却期間を経て、いまの日露は戦後もっとも良好な関係にあると言えます。長年にわたって安倍・プーチン両首脳の個人的な信頼関係が築かれ、粘り強い交渉が続けられてきた結果です。

両首脳とも、自分たちの世代で平和条約を締結し、領土問題を解決するという強い決意を持って交渉に臨んでいます。私たちも、たかだか1回の首脳会談でガタガタ言わずもう少し長い目で交渉を見守っていくべきでしょう。

▼「新しいアプローチ」の提案

今後の日露交渉のカギを握るのが、「今までの発想にとらわれない『新しいアプローチ』で交渉を精力的に進めていく」との合意(2016/5/7日露首脳会談)です。

実はそれ以前の2009年、ロシアのメドベージェフ大統領が麻生太郎首相との会談で、これと同じ「新たな、独創的で、型にはまらないアプローチ」を提案しています。

「新しいアプローチ」の中味については、日本政府からの具体的な説明がありません。そのため、現在、日本のメディアは好き勝手に報じています

▼これまでにない独創的な案とは?

「経済貿易関係の強化」「幅広い分野での交流加速」、あるいは先の「二島返還+α」もそうですが、どれも「今までの発想にとらわれない」と言えるほどの斬新さはありません。

では「四島共同管理特別区」はどうでしょう?

「新しいアプローチ」に合意したあとの2016年10月、日本政府が日露両国による共同管理案を検討しているとの報道がありました(日経新聞2016/10/17)。

たいした話題にはなりませんでしたが、記事には「歯舞・色丹は日本に返還し、国後・択捉は共同統治とする案を軸に調整に入りたい方針」、「4島全域や歯舞・色丹、国後の3島を共同統治の対象とする案も用意する」とあります。

四島一括のインパクトの大きさは、二島や三島の比ではありません。日本人には、悲願としての北方『四島』返還がしっかり刷り込まれているからです。

「四島一括返還不可能論」が台頭する中、プランBこそ今までの発想にとらわれない新しいアプローチ」ではないでしょうか。

▼中味はトップシークレット

ここにきて日本政府は、事あるごとに「粘り強く交渉を続けていく」と表明し、交渉の長期化を示唆しています。交渉の加速を煽るメディアや国民に向け、もっと冷静・慎重になるよう促していると見るべきでしょう。

こうした政府の発言を捉えて「交渉手詰まり」とマスコミは報じますが、「新しいアプローチ」の中味は当然トップシークレットです。“グレート善幸”(バックナンバーVOL.4参照)の国家機密度レベルは4ですが、こちらの機密度レベルはそれとは比較できないほど「重すぎる国家機密です。

安倍、プーチン両首脳(プラス最も信頼されている数人)しか知り得ない情報であることは確実です。

▼「静けさ」に予感される電撃合意

しばらくは「不気味な静けさ」が続くことでしょう。今年はラグビーW杯、来年は東京オリンピックが日本で開催されます。メディアや国民の目が政治から逸らされている間、水面下での交渉が着々と進んでいくと思われます。

歴史的に何か大きなことが発表されるときは、たいてい電撃的です。全世界に激震が走った「米中電撃和解」(1971ニクソン大統領の訪中発表)もそうでした。日本政府に通知されたのは、発表のわずか数十分前です。

▼「真相」がわかるのは10年後

確実に達成すべき大きな計画を遂行するには、その内容が外に漏れないよう秘密裏に事を進める必要があります。

日露首脳会談での「二人きりの内緒話」(テタテ)の内容は、どうでもいい情報を除いて絶対に外に漏れません

今回の首脳会談でのテタテは約50分でしたが、プーチン大統領が訪日して行われた首脳会談(2016/12/15)では95分に及んでいます。

テタテの内容は、そのほぼ10年後に「いまだから言える打ち明け話」として、ごく限られた関係者の口からぽつりぽつりと表に出てくるのが通例です。

▼共同管理のノウハウ

「四島共同管理特別区」は、プランAの「二島返還」よりも複雑な行政体系になります。共同管理下での司法権、警察権、漁業権など、詰めるべき問題は広範囲に及びます。

それにはどうしても時間が必要です。ただ、共同管理(統治)の歴史は古くからあります。

近年では、ボスニア・ヘルツェゴビナ紛争(1992)において、アメリカが仲介をする形で2つの民族の共同統治による「ブルチコ行政区」が誕生しています(1995デイトン合意)。

アメリカという国は「世界の警察」を自負するだけあって、何かにつけて仲介が大好きです。当然、共同統治のノウハウも蓄積されています。日本はこうした情報やノウハウを、アメリカから得やすい立場にあります。

過去の共同統治の多くは、紛争地域に敷かれてきました。しかし、現在の北方四島はロシアの施政権下にあり、日露間において漁業権の問題以外のもめごとは一切起きていません。その点、はるかに共同管理がしやすい環境にあります。

共同管理のハードルは、思ったほど高くありません。

▼ロシア側が懸念する米軍展開

ここでアメリカに目を転じると、トランプ大統領と安倍首相はいまや“大親友”です。アメリカは、ロシアへの働きかけによって平和条約交渉をアシストする立場にあります。

実際、過去25回の日露首脳会談では、ほぼその前後で日米首脳会談や日米協議などが行われています。日露交渉に関しては当然、日米間でも緊密に連絡を取り合っています。

平和条約交渉のもう一つのネックは、領土返還後にアメリカ軍基地が置かれることへのロシア側の強い警戒感です。実際、プーチン大統領は北方領土への米軍展開を牽制してきました。

▼アメリカ側からのアシスト

ロシア側の懸念に対し、安倍首相は「日米安保条約に基づいて米軍基地を島に置くことはない」と、首脳会談で直接プーチン大統領に伝えています(2018/11/14)。

それでもプーチン大統領は、今回の会談の1カ月前、沖縄の米軍基地に言及して強い懸念を表明しています(2018/12/20)。

それを受ける形で、在日米軍トップのマルティネス司令官(中将)は、記者会見でこう発言しています。

「アメリカが北方領土に恒久的な軍事基地を置く計画はない。建設的な議論をへて、日露の両首脳が領土問題解決の方策を見いだすことを願っている」(2019/1/9日本記者クラブ)

日米間の密な連携の下でのアメリカ側のアシストです。

▼米露が懸念する中国の軍備急膨張

アメリカが関心を示すのは、北方領土問題の解決が、アジア太平洋地域の安全保障に大きく関係してくるからです。

ウクライナ情勢や中距離核戦力(INF)をめぐって米露関係の悪化が報道されていますが、極東アジア・南太平洋地域に関しては違います。ここは切り離して考える必要があります。

現在、東アジアでは中国が急速に軍事力を拡大させ、武力を背景に周辺国に重大な脅威を与えています。この状況をアメリカはもちろんのこと、ロシアも快く思っていません。

アメリカのINF破棄もロシアのINF離脱も、見えないところでミサイル兵器を量産する中国の脅威が念頭にあります。

現在のINF条約では“中国の暴走”を止められないため、中国を取り込んだ核軍縮条約の枠組を新たに作り直す。それが米露の真の狙いと見るべきです。

▼豪腕、プーチン大統領の決断力

中国とロシア(ソ連)との間では、昔から国境線をめぐってしばしば大規模な紛争が起きています。中露はもともと良い関係ではないのです。

極東地域での中露間の国境問題がようやく解決したのは2004年、これも電撃的、世界中があっと驚きました。やってのけたのはプーチン大統領です。まさに豪腕、決断したら即実行!

平和条約交渉においても、安倍首相はプーチン大統領の決断力に期待をかけています。

▼「日米+露」による中国への牽制

ロシアとしては、日本と平和条約を結ぶことによって中国を牽制できます(中国は逆に日露接近を阻止する立場)。その思惑はアメリカの極東政策とも一致します。

日米にロシアを加えた「日米+露」による中国の牽制は、アジア太平洋地域における安全保障に大きく寄与します。平和条約交渉を早めに決着させ、領土問題を「完全解決」に近い状況に持ち込むことが重要になってくるわけです。

東アジア、太平洋地域の安全保障の観点からも、プランB「四島共同管理特別区」の実現性は高いと考えます。

▼マスコミの煽りはスルーで

以上がプランBに対する私の考察ですが、国民にも受け入れやすいと思います。仮にプランBが日本国民の多くに支持されたとして、逆にロシア国民にとってはどうでしょうか。

今回の首脳会談が開かれる直前、モスクワ中心部で領土返還に反対するデモの様子が日本で大きく報じられました(1/21)。

さらに首脳会談終了後、マスコミは「北方領土返還反対77% ロシア世論調査」を大々的に報じました(1/29)。

テレビでデモの映像を見た方は、「わっ、おそロシア!」と驚かれたかもしれません。世論調査の数字に「やっぱり厳しいなぁ」と思われたかもしれません。

しかし、針小棒大に報じるのがマスコミです。いつもの煽りと思ってスルーすべきです。マスメディア(地上波、新聞)による一斉の煽りには、たいてい何か裏があると考えていいでしょう。

▼ロシア世論を変えることは可能

たとえば先のモスクワでの反対集会ですが、記事をよく読むと多くても500人程度、それもプーチン大統領を目の敵にする共産党系の愛国者団体が主催したものです。日本でもよく見かける光景ですよね。

ロシア世論にしても「引き渡しに賛成か反対か」を問う2択アンケートです。ここに「四島共同管理」を加え、そのロシア側のメリットを国民に周知して調査を行えば、また違った数字になるはずです。

現在のロシア人島民の9割が「引き渡し」に反対するのは、当然理解できます。しかし、四島共同管理によって、より豊かな暮らしが島でできるとわかれば、これも変わってくるでしょう。

▼「片思い」から「両思い」へ

よく、日露両国民は「片思いの関係」にあると言われます。ロシア国民の多くは親日的で、日本に大きな興味を持っています。逆に、多くの日本人は「おそロシア」に象徴されるように、ロシアという国やロシア人にあまり良い印象を持っていません。

しかし、それは旧ソ連時代のイメージです。ロシアに旅行した人たちは口を揃えて言います。「ロシア人は陽気でおしゃべり、どこに行っても日本人は歓迎される」と。

それもそのはずで、ロシアは中国や韓国と違って反日教育を行っていません。むしろ、私たちがロシアにもっと興味を持ち、交流を深めながら「両思いの関係を築くことが大切です。

政府ばかりに任せず、私たちにできる友好親善活動を広げていくことが、領土問題解決を後押しする力になります。

私はときどきロシア料理のお店に足を運んでボルシチを食べますが、そんな小さなことでもいいのです。

PlanC「四島一括返還」“みち”を開く外交カード

▼宙に浮いた南樺太、千島列島の帰属権

日ソ共同宣言以降、日本政府は一貫して北方四島をわが国固有の領土として主張し、四島返還を求めています。それは当然の権利ですし、その姿勢はもちろん評価すべきです。

ただ、素朴な疑問として、なぜ南樺太と千島列島をからめて交渉しないのでしょうか

もちろん、日本はサンフランシスコ条約(1951)で南樺太と千島列島を放棄しています。しかし、その帰属権は現在に至るまで宙に浮いたままです。

ここまでの日露交渉では、南樺太の「み」、千島列島の「ち」の字も出てきていません。語呂合わせではありませんが、北方領土問題を解決する“みち”として、南樺太と千島列島を加えた包括的な議論が必要だと私は考えます。

▼唯一評価できる共産党の姿勢

現在「北方領土」と言えば、条件反射的に「国後・択捉・色丹・歯舞の四島」しか頭に浮かばなくなっています。私たち国民の多くがそうですし、政府与党、野党も同じです。

おっと、共産党だけは違いました。

共産党の公式見解では「歯舞、色丹と千島列島全体が日本の歴史的な領土」としています。そして、「国後と択捉は、千島列島のなかの南千島部分」と定義します。

この定義をめぐっては、さまざまな議論があります。とりあえずそれを認めるとして、共産党の主張に耳を傾けてみます。

「ヤルタ協定の『千島引き渡し条項』やサンフランシスコ条約の『千島放棄条項』を不動の前提としないこと」を条件に「全千島を返還の対象として平和条約締結交渉を進める」

https://www.jcp.or.jp/web_policy/2001/04/post-296.html

南樺太が含まれていない以外は、正論だと思います。

▼南樺太も歴史的に日本の領土

ちなみに共産党が南樺太を「日本の歴史的な領土」として含めないのは、「領土問題解決の歴史的な基準としては、当時の領土交渉の最終的な到達点である一八七五年の樺太・千島交換条約にもとづくべき」との主張によります。

南樺太は「日露戦争の結果、日本がロシアから奪いとった」との理由で除外しているわけですが、ここは違うと思います。

領土の確定は、平和的交渉であろうが、戦争という最終的な外交手段であろうが、条約を根拠とします。

南樺太を日本の領土と確定したポーツマス条約(1905)は、少なくともサンフランシスコ平和条約まで有効です。そこで日本が樺太と千島列島を放棄したからと言って、「千島列島は日本固有の領土、でも武力で奪った南樺太は日本固有の領土ではない」という主張は筋が通りません。

ここは堂々と「南樺太も日本の歴史的な領土と主張し、その上で平和条約交渉に臨むべきです。

▼外交カードとしての南樺太、千島列島

もっとも、現実的に考えると(不本意ながら)南樺太にはすでに日本の領事館が置かれ、ロシアの実行支配を認める形になっています。得撫島以北の千島列島は、そもそも日本人の定住者がごく僅かだったので、そこまで固執する理由はありません。

しかし、どちらも法的な根拠を持つ外交カードとして使うことが可能です。交渉にあたっては、そのくらいの「したたかさ」を持つべきだと思います。

この期に及んでの「北方領土の範囲拡大」のデメリットは充分に承知しています。しかし、南樺太と千島列島を含めた交渉が水面下で継続されているとすれば、超電撃的四島一括返還も可能性がないわけではありません

▼「等分割」はロシアの伝統的お家芸

歴史的にロシア(ソ連時代を含む)の領土問題の基本的な解決策は「等分割」です。ポーランド分割しかり、中露国境策定しかり、バレンツ海水域の境界画定条約しかり。何でも折半、半分こです。

過去の日露首脳会談(2013)でも、プーチン大統領が安倍首相に向けて「過去に他国との領土問題で係争地の面積を等分する方式を採用した経緯に言及」と報じられています(2013/5/1日経新聞)

この「面積等分割法を北方四島に適用してみると、択捉島の西端あたりに国境線が引かれ、国後色丹歯舞の三島は日本領、シミュレーションでは「三島返還」です。

▼南樺太を含めれば日本に利あり!

では、南樺太と千島列島を含めて考えた場合はどうでしょう。四島返還は確実となります。

ロシアにとって北方領土は「失地回復」ではありません。ロシアによる強引なクリミア併合(2014)は、ソ連崩壊で失った領土を取り戻す失地回復政策の一環です。

失地回復で言えば、南樺太のみがそれに該当します。その意味からも、南樺太は重要な外交カードになり得るわけです。

日本政府は過去の教訓を活かして、もっとしたたかな外交戦略を身につけていってほしいところです。

紋切り型の締めになりますが、日露交渉の今後の行方を注視していきたいと思います。安倍首相の外交手腕と粘り腰プーチン大統領の決断力に期待しています。

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