鬼才・堺屋太一さん追悼。喫茶店で怒鳴りつけてしまった思い出

まぐまぐニュース! / 2019年2月27日 19時50分

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作家で経済企画庁長官、内閣官房参与などを歴任した堺屋太一さんが2月8日に亡くなられました。「負い目がある」と、堺屋さんとの思い出を綴るのは、メルマガ『NEWSを疑え!』の著者、小川和久さんです。小川さんは、週刊誌記者時代に通産省の官僚だった堺屋さんを怒鳴りつけてしまった出来事について振り返ります。

堺屋太一さんへの負い目

2月8日、作家の堺屋太一さんが亡くなりました。通産官僚時代、大阪万博をプロデュースし、オイルショックを予見した小説『油断』や第1次ベビーブーム時代を『団塊の世代』と名付け、その社会的影響を予見するなど多彩な活動で知られ、小説『平成30年』ではバブル経済後の日本の「失われた20年」の行く末をぴしゃりと言い当て、現代の予言者と呼ぶに相応しい鬼才でもありました。

その堺屋さんの通夜と告別式(16、17日)に私は参列せず、お花も出しませんでした。それは、私の中に40年にわたって引きずってきた「負い目」のようなものがあったからです。

堺屋さんとは、私が講談社「週刊現代」記者だった1976年、学生時代の友人の日経記者T君の紹介で知り合いました。当時は通産省工業技術院の課長(研究開発官)で、午後9時頃に役所に「出勤」するという昔気質の新聞記者か無頼漢のような日常で、机の傍らには一升瓶があり、夜回りの新聞記者たちと茶碗酒を酌み交わしながら議論に花を咲かせていました。

史子夫人との結婚話が耳に入り、それを「スクープ」しようとしたら、「まだ伏せておきたい」と頼まれ、了解したこともありました。その話を取材しにいったとき、記事にしない代わりのサービスだったのでしょうか、「絵描きでね、竹久夢二の絵に出てくるような女(ひと)や」と話してくれましたが、結婚報道で夫人の写真を見て、ぴったりの表現だと感心したのを憶えています。

堺屋さんが退職する半年ほど前、私は通産省幹部のスキャンダルの情報を内部告発文書でキャッチし、取材を進めていました。通産省の局長クラスの幹部が女性職員同伴で1か月ものヨーロッパ出張に出かけたのですが、その日程表を見ると公務は3日だけ。愛人同伴で出かけたカラ出張同然の観光旅行だったのです。

この取材では、通産省の広報部署が対応しきれず、会計課長の小長啓一さんが出てくることになりました。小長さんは田中角栄首相の秘書官を務め、事務次官まで上り詰めたあと、アラビア石油のトップとして日本のエネルギー政策に深く関わった人です。終戦の時、陸軍幼年学校の生徒だったこともあり、少年自衛官出身の私とはウマが合い、88歳になられたいまも、食事をしたりする機会を持っています。

その通産省スキャンダルの取材中、堺屋さんが講談社に現れて「出版社と付き合いのあるオレがリークしたと疑われるから、なんとかならないか」と言ったのです。

堺屋さんは1976年に講談社の月刊『現代』に『団塊の世代』を連載、講談社から単行本を出版したころでした。私が所属していた『週刊現代』編集部のエレベーターを挟んだ隣が月刊『現代』編集部で、堺屋さんが気にするのは当然と言えば当然のことです。

私は講談社の向かい側の喫茶店で、堺屋さん、担当編集者の豊田利男さんと会いました。いまから思えば若気の至りで、恥ずかしいかぎりですが、30歳そこそこだった私は「こんな下らない話で出てくるな。高級官僚は天下国家のことをやっていればいいんだ」と堺屋さんを怒鳴りつけてしまったのです。

しかし、堺屋さんは顔色を変えることもありませんでした。怒るかと思いきや、「あんたの言う通りや」と穏やかに返してきたのです。そして、間もなく通産省を退官しました。宮仕えの中で思うところがあったのでしょう。

当時、堺屋さんの自宅は講談社の北側の文京区関口にあり、庭の銀杏の落ち葉が隣の家の雨どいを詰まらせて困るのだと言っていたこともあります。私との一件があったあと、自宅に向かう堺屋さんと横断歩道上ですれ違ったことがあり、堺屋さんは何か言いたげなそぶりでしたが、私は会釈だけして通り過ぎてしまいました。

以来、会合などで顔を合わせる機会は何回もありましたし、堺屋さんは気さくに話しかけてくれたものですが、私のほうに「頭が上がらない」という思いがあり、堺屋さんに会いに行って話をするような機会を作らずにきてしまいました。

私の印象では、堺屋さんは軍事問題については得意ではなく、私に聞きたい様子でもありました。私のほうも軍事問題について話をし、堺屋さんの考えを聞きたいと思っていたのですが、今となっては叶わない夢となってしまいました。

負い目を引きずってきた私としては、この拙文をもってご冥福をお祈りしたいと思います。合掌。(小川和久)

image by: 内閣官房内閣広報室 [CC BY 4.0], via Wikimedia Commons

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