猪木も出演した特撮『アステカイザー』 賛否ある前代未聞のギミック「カイザーイン」とは？

■猪木「しかしアステカイザーとは一度戦ってみたいな」

　2022年10月に逝去された偉大なプロレスラー・アントニオ猪木さんのドキュメンタリー映画『アントニオ猪木をさがして』が、2023年10月6日に公開され好評を博しています。猪木さんは大人から子供まで広く愛されたヒーローでしたが、そんな猪木さんが本人役でゲスト出演した特撮ドラマがあるのをご存じでしょうか。それは『プロレスの星 アステカイザー』です。

「ワールドプロレスリング」がゴールデンタイムで放送されるほど人気だった時代の1976年、新日本プロレス全面協力で『プロレスの星　アステカイザー』（NET：現・テレビ朝日）はスタートしました。物語は、世界の格闘技界征服を目指す悪の軍団ブラック･ミストの野望を破るべく、東都プロレスのレスラー鷹羽俊（たかば・しゅん）が、正義の戦士「アステカイザー」となって戦う……というものです。

　猪木さんはその第1話に登場します。道場でスポーツ新聞記者から、興行に乱入してきたブラック・ミストについて聞かれて、けっこう長いセリフで返答しました。

「ああいうやつをのさばらせてはいけないよ、プロレスは正当な格闘技なんだ。しかし、東都プロレスも大変だな」

　そして、記者が「アステカイザーは猪木さんじゃないか？」という問いかけをすると

「オレ？　オレじゃないよ。しかしアステカイザーとは一度戦ってみたいな」

　と、返答し練習に戻ります。

　一緒に出演していたジョージ高野選手は、「セリフが棒読みだったのはおぼえてますね（笑）」と回想しています。お芝居はともかく、特撮ヒーロー番組でリアルヒーロー猪木さんを見られたことが、当時の子供たちはうれしかったはずです。番組は全26話でしたが、他にも次代を彩るヤングライオン、佐山聡選手（初代タイガーマスク）、藤原喜明選手、木戸修選手、小林邦昭選手などが出演していました。

■カイザーイン！で場外バトル！

マンガの連載もしていた『アステカイザー』。コミック『アステカイザー』（作・永井豪　画・石川賢／双葉社）

　猪木さん出演のエピソードだけでなく、当時の子供たちの間で沸き上がった「アステカイザー」に関する、ちょっとしたエピソードを振り返りたいと思います。

「アステカイザー」は原作担当が、永井豪＆石川賢先生という『ゲッターロボ』を生んだコンビでした。制作は、珍しく等身大ヒーローに挑んだ円谷プロです。この頃は実写の特撮ヒーローから、徐々にアニメヒーローへ人気が移行しつつありました。そこで新しい演出を試みたのです。

　それは「ドラマメーション」と呼ばれる技法です。実写で敵サイボーグと戦闘中、アステカイザーが「カイザーイン！」と叫ぶと、画面がセルアニメに切り替わって戦いの続きが行われるという流れでした。

　これは、実写では撮影が難しい派手な演出をアニメで表現するもので、空中殺法やサイボーグによるメカ攻撃（ミサイルなど）、さらにアステカイザーの必殺技カイザークラッシュ、カイザースライサーなどをダイナミックに映し出していました。決着がついたあとは、また実写に戻ります。

　このドラマメーションに対し、子供たちのあいだで賛否を呼ぶ「場外バトル」が起こりました。賛成意見は、「実写とアニメの2種類が見られて得した感じ」「実写であんな必殺技はできないし、やったら他ヒーローと同じに見えそう」「飽きない」などです。

　一方、反対意見は、「実写でできないことがあるなら最初からアニメにすればいい」「実写だからリアルなヒーローなのに」「絵が安っぽい」というようなものでした。

　当時はSNSなどない時代でしたが、実写とアニメのタッグマッチはインパクト絶大で、筆者の友達同士でも激論が交わされました。

　今になってネットの評価の声などを見てみると、「待ってました！　カイザーイン！」という肯定派、「実写でやってほしかった」という否定派、いろいろ見受けられます。おそらく日本のいろんな場所で、「カイザーイン！」の是非が議論されていたことでしょう。好きか嫌いかは好みの問題ですが、それだけ子供たちが真剣に「アステカイザー」を応援していた証しだと思います。みなさんは賛否どちら派でしたか？

（石原久稔）