『ゴジラ』の芹沢博士と「原爆の父」には共通点が? 戦争に翻弄された科学者たち
マグミクス / 2023年11月18日 20時10分
■北米での公開も決まった『ゴジラ-1.0』
山崎貴監督によるゴジラ生誕70周年記念映画『ゴジラ-1.0』が、話題を呼んでいます。2023年11月3日に公開され、公開から2週間で観客動員135万人、興収21億円を突破しています。
米軍の水爆実験によって被曝したゴジラが、敗戦から間もない日本に上陸。戦争を生き残った民間人たちが、ゴジラに立ち向かうというストーリーです。VFXが得意な山崎監督らしく、ゴジラが重巡洋艦「高雄」と交戦する海上シーン、ゴジラが国会議事堂を熱線で破壊するシーンなどはとても見応えがあります。
北米でも12月1日(金)から公開されることが決まりました。庵野秀明監督の『シン・ゴジラ』(2016年)の興収82.5億円を上回りそうな勢いです。
■戦争の傷を負った天才科学者・芹沢博士
神木隆之介さん、浜辺美波さんら若手キャストが出演した『ゴジラ-1.0』の注目度が高まるにつれ、シリーズ第1作『ゴジラ』(1954年)を再評価する声もあがっています。モノクロで撮影された『ゴジラ』ですが、着ぐるみとは思えない重々しさを感じさせます。ゴジラの襲撃に逃げ惑う群衆の様子も非常にリアルで、戦時中の「東京大空襲」を再現したかのような生々しさです。
第1作『ゴジラ』を撮ったのは本多猪四郎監督。中国で半年間にわたる捕虜生活を経験した帰還兵だった本多監督は、日本への帰還時に原爆によって破壊され尽くした広島の惨状も目撃しています。本多監督をはじめとする戦争体験者たちの、反戦・反核の祈りが強く伝わってくる作品となっています。
対ゴジラの切り札となる「オキシジェン・デストロイヤー」を開発した芹沢博士(平田昭彦)も、重要な存在です。かつては山根教授の娘・恵美子(河内桃子)と婚約していた芹沢博士でしたが、戦争で片目を失い、戦後は研究室に閉じこもるようになってしまいました。戦争によって、人生が大きく狂ってしまった悲劇的な科学者です。
日本を襲うゴジラは加害者であるのと同時に、水爆実験の被害者でもあります。ゴジラさえも上回る破壊力を持つ「オキシジェン・デストロイヤー」を開発してしまった芹沢博士も、戦争の犠牲者です。芹沢博士の存在が、ゴジラをより恐ろしく、より哀しいものにしています。
恵美子は一見すると清純そうなヒロインですが、元婚約者の芹沢博士がまだ自分に思いを寄せていることを知った上で、「オキシジェン・デストロイヤー」の使用を求めるというしたたかな一面を持ち合わせています。戦争や戦後の混乱期を生き延びることが、いかにきれいごとだけでは済まなかったのかを感じさせます。第1作『ゴジラ』は、やはり歴史に残る名作だと言えるでしょう。
■軍事開発競争の犠牲者となった科学者たち
2023年7月から全米公開されている『オッペンハイマー』ポスタービジュアル (C)Capital Pictures/amanaimages
芹沢博士は自分が開発した「オキシジェン・デストロイヤー」が軍事利用されることを危惧し、ゴジラと運命をともにします。この芹沢博士と共通点があることが指摘されている実在の人物がいます。米国の理論物理学者で、「原爆の父」と呼ばれたロバート・オッペンハイマー(1904年~1967年)です。
2019年に刊行された『アメリカ人の見たゴジラ 日本人の見たゴジラ』(大阪大学出版会)に、芹沢博士とオッペンハイマーとの類似性についての記述があります。
芹沢博士は「オキシジェン・デストロイヤー」を開発し、みずからの手で封印することになります。一方のオッペンハイマーは第二次世界大戦の早期終結のために「マンハッタン計画」の責任者を務め、世界初となる原爆の開発に成功します。戦争を勝利に導いた英雄としてもてはやされたオッペンハイマーですが、終戦後は水爆開発への協力を拒み、そのことからトルーマン大統領や軍の権力者たちから疎まれ、科学者としての生命を失うことになります。
終わりのない軍事開発競争の犠牲者になったという点で、芹沢博士とオッペンハイマーは通じるものがあるわけです。オッペンハイマーが公職追放されたのは1954年4月。同年11月に、第1作『ゴジラ』は公開されています。
■日本での公開が決まらない映画『オッペンハイマー』
オッペンハイマーの波乱に満ちた生涯を、クリストファー・ノーラン監督が映画化した『オッペンハイマー』は、2023年7月に米国で公開され、世界各国で大ヒットを記録しました。11月21日(火)には米国で早くもソフト版がリリースされますが、残念なことに日本では劇場公開の予定がまだ発表されていません。
日本での『オッペンハイマー』の劇場公開がなかなか決まらない要因として、日本人と米国人との原爆に対する認識の違いが大きくあるようです。米国では「戦争を早く終わらせるために、原爆の投下は必要だった」という声があります。被爆国として広島や長崎の惨劇を知る日本人は、民間人を大量殺戮し、後遺症が残り続ける核兵器の使用を肯定することはできません。
そうした歴史認識の違いを知る上でも、『オッペンハイマー』は日本でも劇場公開してほしいと思います。また、『ゴジラ-1.0』は観たけれど、まだ『ゴジラ』の第1作は観ていないという方は、これからでもぜひご覧になってください。『ゴジラ-1.0』でオマージュされた名シーンの数々に加え、戦争や大量破壊兵器の恐ろしさ、そしてゴジラの悲劇性をより実感することができるはずです。
(長野辰次)
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