「ガンダム三大悪女」呼ばわりされる「ニナ・パープルトン」 その隠された心情に迫る
マグミクス / 2024年2月15日 6時10分
■実は人気キャラだったニナ? その評価が逆転した契機とは?
「ガンダム」シリーズのなかで、ファンから特に嫌われた存在として、非公式ながら「ガンダム三大悪女」という言葉があります。特に定義があるわけではないので、人により多少その顔ぶれは変わるかもしれませんが、そうしたなかでも「彼女だけは外せない」とファンからのヘイトを集めるのが、OVA『機動戦士ガンダム0083 STARDUST MEMORY』の「二ナ・パープルトン」でしょう。
ニナは、民間企業「アナハイム・エレクトロニクス」にてモビルスーツ(MS)開発に従事する民間人で、物語開始時点においては連邦軍の「アルビオン」部隊に出向中でした。そのキャリアと21歳という年齢設定から、ケタはずれな俊英ぶりがうかがえます。
先に発言しておきますが、筆者はOVA展開当時からニナのファンです。そういった点から、これ以降の発言が偏重したものと思われるかもしれません。もちろん公平な視点から執筆していますが念のため。
ニナの評判は、最初はそれほど悪くなかった印象があります。とはいえ、第1話での上から目線で人間関係を気にしない発言から、劇中でもいわれたツンツンした感じが目立った女性でした。そうした点では可愛げのないヒロインだったかもしれません。
これが変化したのが、第2話での「きゃー! 私のガンダムが!」発言からでしょうか。筆者的にはここがツボでした。また、後に恋人となる「コウ・ウラキ」を心配してアドバイスするなど、ヒロインらしさが見え始めたのがこのあたりからでしょうか。
よく「主人公は成長するもの」だといわれますが、ニナも回を追うごとに人間的な成長を見せていました。後述しますが、ニナの発言を切り取る人は、まずこの序盤の発言を切り取る傾向にあります。確かに「ガンダム」に関する発言には、彼女の強すぎる思い入れがあるのは確かでしょう。それをニナの個性と取るか、変質的な部分と取るかは受け取り方次第です。
ちなみに筆者が昔から感じていた疑問のひとつは、「いつからニナは嫌われたのか?」という部分でした。OVA展開時はあまりそういった風潮はなく、声も人気声優の佐久間レイさんでしたから、むしろ人気はあった印象があります。
裏付けとして、当時の人気アニメキャラクターが選ばれる「三鷹市水道部」の描き下ろしポスターに、ニナはアナハイムの同僚たちと一緒に選ばれていました。このポスターを飾るのはこれまで、『ジャイアントロボ THE ANIMATION -地球が静止する日』の「銀鈴(ぎんれい)」や『新世紀エヴァンゲリオン』の「綾波レイ」、『サムライスピリッツ』の「ナコルル」といった、その時代を代表するようなキャラクターが選ばれてきています。
おそらくニナの評判が著しく急降下したのは、『0083』最終話が原因でしょうか。確かに結果的には、かつての恋人だった「アナベル・ガトー」についていき、コウを捨てたように見えます。しかし、これも冷静に紐解いていけば、そうではないことがわかるのではないでしょうか。
■ニナの裏切り? アニメではわかりづらかったその心情とは
劇場版『機動戦士ガンダム008 ジオンの残光』キービジュアル (C)サンライズ
ジオン軍残党組織「デラーズ・フリート」の作戦「星の屑」において、ガトーは確実な「コロニー落とし」を遂行するためにコロニーの中へ潜入します。そこに現れたのがニナでした。ニナがガトーを止めようとしていたところへコウが突入し、ガトーの脇腹に銃弾を命中させます。
このひん死のガトーをかばったのがニナでした。ニナは拳銃を手にするとコウに銃口を向け、ガトーと共に去っていきます。ニナとガトーの関係を知らないコウは呆然とするしかありませんでした。その後、デラーズ・フリートとの戦いが終わり、北米オークリー基地に赴任するコウ、その前に現れたニナは無言の笑顔でコウを迎えました。
この一連の流れから、ニナの悪評が生まれたと言っても過言ではありません。額面通りに受け取れば、ニナはコウを捨ててガトーとよりを戻したと思えるからです。しかしこの行動について、後に出版された小説では以下のように描写されていました。
ニナが制止しなければ、無抵抗のガトーを撃ち殺した罪悪感と後味の悪さを一生引きずっていただろうと、コウは冷静に分析しています。銃を向けたのも、そうさせたくなかったというニナの思いやりからであり、裏切ったわけではないとコウは後に理解していました。
小説版から紐解けば、スタッフの考えはそういうことだったようです。もちろん筆者もそれに近い推測であのシーンを見ていました。コウとガトーの決着は、生身ではなくMSの対決で付けるべきもの。そして、この生身での対決の借りを返すべく、後にガトーはコウを撃破することなく去っていったと考えられます。
メタな発言をすれば、演出がわかりづらかった、ともいえるかもしれません。特にニナの満面の笑みで物語が終わったことは、邪推の余地を与えることになりました。筆者としては、ニナが過去と決別したからこその笑みだと感じましたが、人によっては悪い意味にとる人もいるのでしょう。
このほか、監督の途中交代による設定変更の犠牲者だと考察する人もいます。あくまでも推測の域を出ませんが、第1話でニナとガトーは明らかに目を合わせ、お互いを誰だか認識している描写がありました。つまりニナとガトーが恋人だったという設定は後付けと考えられるわけです。
また悪評に乗っかって、一方的にたたくという一部のファンの風潮も、ニナをヘイトの標的とさせている要因かもしれません。部分的に切り取って面白おかしく加工してしまう、それが本来、制作者が意図したキャラクター描写をゆがめていると感じます。
とはいえ、ニナの性格は万人に好かれるようなタイプでないことは、ファンである筆者も感じるところ。いわゆるアンチが多くいても不思議ではないと思います。しかし、ニナが三大悪女などというほどの悪行をしているかというと、疑問を感じざるを得ません。あきらかに風評被害だと感じます。
近年では三大悪女候補と呼ばれるキャラクターも増えているようですが、他人の意見に左右されることなく自分の判断でキャラクターの魅力について考えてみましょう。もちろん筆者の意見にも疑いを持ってください。キャラクターの好き嫌いくらいは、他人の意見に左右されないほうがいいと思います。
(加々美利治)
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