『Zガンダム』正ヒロイン「ファ」をもっとすこれ! なぜフォウより影が薄いのか?
マグミクス / 2024年2月18日 6時10分
■『Zガンダム』のヒロインなのに
『機動戦士Zガンダム』における主人公「カミーユ」の恋愛といえば、「フォウ・ムラサメ」との悲恋ばかりが注目されるものの、最後にカミーユの隣にいたのは同級生の「ファ・ユイリィ」でした。ナイーブなカミーユを甲斐甲斐しくフォローする献身的な姿は印象的ですが、歴代「ガンダム」ヒロインとしてのインパクトや人気はイマイチだったように思えます。
なぜファの印象が弱く感じられたのでしょうか。彼女の良さについてあらためて振り返ります。
●みんな性格キツめ! 強烈な女性が次々登場したせいで…
ファの印象が薄れてしまった原因のひとつとして考えられるのは、女性キャラの多さです。『Z』では物語を感情面でドライブするキーパーソンの多くが女性でした。
精神不安定な強化人間で、「サイコガンダム」に翻弄され命を落とした上述のフォウ・ムラサメを筆頭として、「シャア(クワトロ・バジーナ)」に満足できず、恋愛感情で本作の主人公サイドである組織「エゥーゴ」を裏切って敵対組織「ティターンズ」(の「パプテマス・シロッコ」)についた「レコア・ロンド」、過去にシャアと何か因縁があったらしい「ハマーン・カーン」など、破綻した男女のドラマが次々と描かれます。
またティターンズ側でも、カミーユのライバルである「ジェリド・メサ」を鍛えたのは「ライラ・ミラ・ライラ」や「マウアー・ファラオ」といった、男性に頼らない女性の戦士たちでした。英雄としての影響力を恐れた地球連邦に半幽閉状態にされて、戦意に乏しかった「アムロ」を励ましたのも女性、「ベルトーチカ・イルマ」です。
このように、女性に翻弄されたり、励まされたりする男性ばかりが登場するかと思えば、「パプテマス・シロッコ」のように、影響力を発揮し女性を上手く操って手駒にしている男性もいます。『Z』から感じられる生々しさは、男女の感情のもつれによるものだといえるでしょう。
■家庭的なファは安全牌?
富野監督による小説の最終巻表紙にはファの姿が。角川スニーカー文庫『機動戦士Zガンダム 第五部 戻るべき処』(著:富野由悠季)
こうして「強烈な女性」が多数、登場するなか、カミーユたちの母艦「アーガマ」で子供をお風呂に入れたり、カミーユを世話したりするファは、いわゆる「家庭的な」立ち位置になってしまったように思えます。ファもまたモビルスーツ「メタス」で戦場に出てカミーユと一緒に戦いましたが、感情的に強く揺さぶるようなことのないまま、自然と恋人になっていったからです。ファとカミーユの間にドラマチックな男女の葛藤がなかったことは、ファの印象を薄めてしまった原因だと思われます。
ファの立ち位置を前作『機動戦士ガンダム』で例えるなら、アムロに対する「フラウ・ボウ」がしっくり来ます。フラウもまた、アムロの幼馴染で世話好きな性格でした。もしかしたらカミーユとファの関係は、「もしもフラウがアムロと添い遂げたら」という変奏曲なのかもしれません。
ミステリアスで影がある危なっかしい美女よりも、家庭的で精神が安定したファのほうが好ましいと思う人は一定数、いることでしょう。
●2種類の異なる結末
『Z』には2つの異なるエンディングがあります。ひとつは1985年に放送されたTVアニメ『機動戦士Zガンダム』、もうひとつは20年の時を経て、2005年から2006年にかけて公開された映画三部作『機動戦士Zガンダム A New Translation』です。
TVアニメの『Z』では、カミーユはパプテマス・シロッコとの戦いで精神を崩壊させてしまいます。シロッコを討った後、Zガンダムのコクピット内でカミーユが口にした「大きな星が点いたり消えたりしている。アハハ、大きい、彗星かな。イヤ、違う、違うな。彗星はもっとバーッて動くもんな」「暑っ苦しいなここ。出られないのかな。おーい、出し下さいよ、ねぇ」という幼児退行したかのようなセリフは当時のファンを驚かせ、伝説となりました。そしてファは1986年に放送された続編『機動戦士ZZガンダム』において、看護師として心を失ったカミーユの世話をする姿が描かれます。
この『Z』のエンディングは、同じ富野監督による前番組『エルガイム』とよく似ています。主人公の「ダバ・マイロード」は、ヒロインの「ファンネリア・アム」と「ガウ・ハ・レッシィ」のどちらも選ばず、精神崩壊した義妹「クワサン・オリビー」の世話をしながら故郷で暮らすことを選びます。反乱を成功させたにも関わらず歴史の表舞台から身を引いたのです。クワサンとカミーユの立ち位置が入れ替わったのがTVアニメ版『Z』のほろ苦いエンディングではないでしょうか。
カミーユは前述のように『ZZ』にも登場していますが、心を取り戻せていませんでした。車椅子から立ち上がるなどして回復への希望を残すに留まっています。
しかし新たに制作された劇場用映画三部作は違います。カミーユは精神を崩壊させず、無事に帰還することが出来ました。ファとカミーユは抱きしめあって理想的なエンディングを迎えます。けなげで献身的なファは、20年の時を経て作られた『機動戦士ZガンダムIII A New Translation -星の鼓動は愛-』でようやく報われたのです。
(レトロ@長谷部 耕平)
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