『機動刑事ジバン』が読み上げる「対バイオロン法」が無茶苦茶だった? 「法の悪用」に心配の声も
マグミクス / 2024年3月28日 7時10分
■「場合によっては抹殺することも許される!」という法律
1989年放送のメタルシリーズ『機動刑事ジバン』が、今年2024年で35周年を迎えました。最もロボット感が強く、特にビジュアルがカッコイイと評価するファンは多いです。
『ジバン』といえば、「対バイオロン法」を思い出す人は多いでしょう。これは、犯罪組織バイオロンを取り締まるために警察と国家上層部が制定した法律で、バイオロンに唯一対抗できる「機動刑事ジバン」に与えられた超法規的権限です。
「ジバン」は毎回、体内から警察手帳を取り出して、敵にその条文を言い渡しています。子供のころは普通に聞いて流していましたが、条文の内容はよく考えるとムチャクチャでした。全部おぼえている人はどれだけいるでしょう?
【対バイオロン法】
・第1条「機動刑事ジバンは、いかなる場合でも令状なしに犯人を逮捕することができる」
・第2条「機動刑事ジバンは、相手がバイオロンと認めた場合、自らの判断で犯人を処罰することができる。(補足)場合によっては抹殺することも許される」
「ジバン」は、この第1条、2条を述べるのが通常でした。
ジバンは、相手がバイオロン以外でも「犯人」は即逮捕でき、その相手がバイオロンなら処罰……というか殺してもOK! だからだいたい殺した、ということですね。
ほかにも……
・第3条「機動刑事ジバンは、人間の生命を最優先とし、これを顧みないあらゆる命令を排除することができる」
・第6条「子どもの夢を奪い、その心を傷つけた罪は特に重い」
・第9条「機動刑事ジバンは、あらゆる生命体の平和を破壊する者を、自らの判断で抹殺することができる」
第3条は、たとえ上司の命令でも無視できる場合がある、と読み取れます。しかし、第6条……これは法律なのでしょうか? アドリブで作ったかのようです。第9条も、身も蓋もない内容です。
バイオロン側からすると「そりゃないよ?」といわれそうな内容です。あなたならどんな「ツッコミ」を入れるでしょう? 隠された第4、7、8条はもっと厳しい内容だったかもしれません。
とはいえ、これは演出ですし、良くも悪くもいろいろとツッコまれたほうが話題になるので『ジバン』の人気要素だったのは間違いありません。
■手を合わせ「許してくれ」!
メタルヒーローシリーズのなかで「ジバン」はロボットらしい質感と独特の「太さ」が特徴的だった。画像は『機動刑事ジバン ヒット曲集』CD(日本コロムビア)
正義のヒーローといえば有無を言わせず悪を倒すのがお約束でしたが、なぜ「ジバン」は、わざわざ法律を掲げてから敵を倒したのでしょう?
まず、この作品は、1987年公開の映画『ロボコップ』の影響を受けています。「ロボコップ」は感情も記憶もなくプログラミングされた命令に従う、文字通りロボットでした(徐々に人間のときの記憶が蘇りますが)。
日本の特撮ドラマは、「改造された人間が変身して怪物を倒すヒーロー」という設定が定番なので、「ジバン」はそれに準じたといえます。ただし、このヒーローは日本国家の後ろ盾がある「刑事」です。
考察ですが、もし現実世界に凶悪な犯罪組織があったとして、警察だからといって悪人をその場で抹殺するのは暴挙です。もちろんTV番組はフィクションですが、今までのヒーローと同様に問答無用で敵を殺してしまったら、「刑事」として倫理的にいかがなものでしょう? 子供が対象の番組だからこそ、あえて「法律があるから倒しても良い」という正当性を明確にするため「対バイオロン法」を必要としたのだと思います。
さながら、警察手帳は時代劇『水戸黄門』の印籠(いんろう)です。条文の読み上げは『桃太郎侍』の「ひと?つ、人の世の生き血をすすり」という口上のようで、ハイテクロボットのドラマを見つつ、お約束の時代劇要素も楽しめるという、風変わりな作品でした。
これは勝手な妄想ですが、もし「ジバン」が「対バイオロン法」を盾に暴走してしまったらどうするのだろう……と思ったことがありました。それこそ悪人と判断すれば人間でも抹殺できてしまいます。法律の専門家は、「対バイオロン法」は「ジバンの判断で何でもできてしまう恐怖の法律」だと、あるHPの記事で分析しているのを見ました。
でも、あるエピソードがそんな不安を払拭します。第21話「スズ虫・毒虫・ゲリラ虫」で、怪人ムシノイドがたくさんのスズ虫を利用しました。ジバンはスズ虫を焼却することにしますが、そのときジバンは手を合わせて「許してくれ」とスズ虫に詫びたでのす。ピュアなワンシーンにジーンときます。
「ジバン」こと青年刑事・田村直人は、バイオロンの攻撃で失った命をサイボーグとして蘇らせてくれた恩義から「正義」の心は失わないはず……と考えると、決して「対バイオロン法」を悪用することはなかったでしょう。
『機動刑事ジバン』は、今回取り上げた「対バイオロン法」や物語の展開など、いろいろな面でファンの好き嫌いが分かれる作品のようです。筆者個人としては、「ギャバン」よりもロボット感が増す太さがツボで「ジバン」が大好きです。
(石原久稔)
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