オイルショックで味方全滅! 問題の数々が熱いドラマに昇華『ウルトラマンレオ』50年
マグミクス / 2024年4月12日 6時10分
■いまならアウトな決死の撮影
本日4月12日は、1974年に『ウルトラマンレオ』がTV放送開始した日です。2024年の今年で半世紀の時が経ちました。第二期「ウルトラ」シリーズの最終作であり、同シリーズのなかでも独自のテイストが魅力の作品でした。
『ウルトラマンレオ』という作品を語る時、忘れてはいけないのが1974年という時代背景です。ブルース・リー作品のヒットによるカンフーや空手のブーム、小松左京原作の『日本沈没』(1973年)や、五島勉の著書を原作とする『ノストラダムスの大予言』といったパニック映画による「世紀末思想」の蔓延、さらには「オイルショック」による物価高騰と物不足……こうした世相が本作に多大な影響を与えました。
なかでもカンフーや空手のブームは、物語の骨子となります。主人公である「ウルトラマンレオ」は、それまでのウルトラ戦士と違い、光線技ではなくキックやパンチといった徒手空拳で戦う、いわば拳法家のような独特のスタイルを打ち出しており、これにより数多くいたヒーローのなかでも「レオとしての個性」が確立されていました。
この設定を生かすため、特訓による肉体強化や技の開発といったものが作品の根幹となります。この「スポ根(スポーツ根性もの。ひとつのスポーツに打ち込み努力を重ねること。おもにマンガ、アニメ作品などについていう)」を思わせる展開は、そのジャンルのブーム的な頂点は数年前に過ぎていたものの、まだまだ視聴者からの人気が高いジャンルでした。
この特訓を、「レオ」こと主人公「おゝとり(おおとり)ゲン」に指導するのが、かつてのヒーローである「ウルトラセブン」こと「モロボシ・ダン」です。第1話の「あそこに沈む夕日が私なら、明日の朝日はウルトラマンレオ、お前だ」というダンのセリフは、新旧ヒーローの交代劇のなかでも印象的な名場面となりました。
そして前作『ウルトラマンタロウ』まであった「ウルトラ兄弟」という設定を一度、外したことも本作のテーマを支えています。レオはこれまでの「M78星雲『光の国』」のウルトラ戦士ではなく、「獅子座L77星」の出身となりました。これにより、ピンチになった時にはいつでもウルトラ兄弟がやって来る展開をリセットしたわけです。
もっとも、レオの生き別れの弟「アストラ」が、たびたび地球へ来て共闘しました。伝説の超人「ウルトラマンキング」も、レオを助けに現れています。しかし、ウルトラ兄弟はレオを助けるために来ることはありません。唯一の単独出演だった「帰ってきたウルトラマン」は、変身できないダンのために「怪獣ボール」を届けに来ただけです。
レギュラーとしてダンがいるものの、セブンへの変身能力を失い、凶悪な怪獣や宇宙人とは実質レオひとりで戦わなければいけない状況で、この逆境が本作に危機感や緊張感をもたらしていました。それゆえに、鬼気迫る本作名物の特訓シーンが際立つわけです。もっとも特訓シーンの逸話を聞くと、当時ならではの危険さが画面に映っていたともいえるかもしれません。
第6話で、実際に走るクルマに突進してかわすという演技をしたゲン役の真夏竜さんは、「死ぬかもしれない」と監督に抗議しましたが、聞き入れてもらえず撮影は実行されたそうです。もちろんスタントマンなしでした。このシーンをあらためて観ると、真夏さんの表情は迫真すぎて、演技というよりも本気にしか見えません。
このゲンとダンの師弟関係は本作の魅力のひとつですが、この構成が問題となることもありました。
■オイルショックがMACを全滅させた!?
アストラはレオの双子の弟、第22話より登場。BANDAI SPIRITS「S.H.Figuarts アストラ」 (C)円谷プロ
ゲンとダンは共に正体を隠した宇宙人で、そのことはお互いに他人には秘密となっています。その秘密の共有ゆえに強固な師弟関係を構築しているといえるかもしれません。
しかし、この設定は企画当初にはありませんでした。本来なら「MAC(宇宙パトロール隊)」の隊長は地球人「川上鉄太郎」という人物で、この役を『ウルトラセブン』でダンを演じた森次晃嗣さんにオファーしたそうです。
ところが森次さんは、「ウルトラ」シリーズでダン以外の役を演じることに異を唱えました。そこで製作陣は、セブンが変身能力を失うという展開を考え、ダンが登場する設定へと変更し、そして森次さんはダン役での出演を了承しました。
これにより、前述の新旧ヒーローの交代劇、秘密を共有する師弟関係という、作品のテーマを強固なものにする設定が生まれたというわけです。しかし、これもまた諸刃の剣だったといえるかもしれません。
それはゲンとダンの絆が強固であるがため、MACのほかの隊員のドラマがかすんでしまうからです。活躍が少ないこともそうですが、殉職や転任といった入れ替わりが多く、MAC隊員が個性を見せないまま、「いるだけの存在」のように扱われていました。
その反面、ゲンが指導員として活動している「城南スポーツセンター」のメンバーは、作品の中心にいることが多くなっていました。そのため、ファンのなかでもMAC隊員をすべてわかる人は相当な「通」といえるかもしれません。
こうしてゲンとダンの関係がクローズアップされるほどに、ほかのMAC隊員は活躍の場を失っていき、結果的にMACという組織が希薄化し、作品にとって不可欠な存在ではなくなりました。それゆえに、番組後半のキャスト陣の大幅リストラの際に、防衛組織としては初の「全滅」という展開を迎えます。
そもそもの要因は、オイルショックによる影響で、制作費を緊縮しなければならなかったからでした。レギュラー陣は減らされ、基地のセットの維持費もカットされます。このほかにも怪獣の着ぐるみを減らし、プロップ(操演などに使う造形物)をメインとする方法にシフトチェンジしました。
こうして第4クールから始まったのが「恐怖の円盤生物シリーズ!」というわけです。操演で動かすように設定された円盤生物は、制作費の削減という台所事情による苦肉の策でした。
しかし、この「恐怖の円盤生物シリーズ!」は、これまでにない絶望的な展開で視聴者の興味を盛り上げます。またゲンが孤独な戦いを強いられることで、その成長を描くというドラマにも結びつきました。
時代の波に翻弄された『ウルトラマンレオ』ですが、それでも第二期「ウルトラ」シリーズの最後を飾るにふさわしい名作だったと思います。筆者も当時の逸話を聞いた後、映像を見返すと、子供の頃よりも好きになりました。当時のスタッフの苦労が作品に込められた名作だと思います。
(加々美利治)
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