「急だな」「納得いかん」の声も多い『アナ雪』ハンスの”設定” 観返すと分かる恐ろしい「伏線」とは
マグミクス / 2024年11月29日 20時45分
■乗っている「馬」にも注目?
※この記事では『アナと雪の女王』のネタバレに触れています。
2024年11月29日の「金曜ロードショー」で、『アナと雪の女王』が放送されます。世界中で愛され続ける名作ですが、「悪役が本性を見せる様があまりに唐突」「脚本の都合上、無理やり悪役にされた感がある」といった不満の声もよく聞きます。
確かに、終盤で悪役と判明する「ハンス王子」は、「実は悪い人かも?」と思わせる、分かりやすい伏線がもう少しだけでもあったほうがよかったとは思うものの、実は「そうなる」理由は劇中でしっかり描かれており、監督の言葉からも納得できることもあったのです。
●初登場時から「礼儀があだとなる」ことが示されている
後にアナを愛していなかったことが分かるハンス王子は、パッと見では絵に描いたような「白馬の王子様」です。しかし、そのハンスの初登場時では、乗っていた馬が、歌いながら走っていたアナにぶつかり、彼女を小舟へと放り出してしまっています。
さらに気になるのは、この時のハンスの「礼儀」を、馬が「倣(なら)っている」ことです。馬は初めこそ前脚でアナの乗っていた小舟を押さえつけていたのですが、アナ自身が王女であることを告げると、ハンスはすぐさま膝をついて「失礼しました」と謝り、それを見た馬もお辞儀をして前脚が浮き上がったために、小舟がバランスを崩してしまいます。
さらに、アナが立ち去る際にもハンスは手を広げて見送るのですが、馬もまた前脚をあげたため、ついに小舟はひっくり返り、ハンスは海へと落ちてしまいます。
つまり、この一連のシーンは「王子様然とした礼儀があだとなる」ことを示している、もっといえばハンスの「本心は隠した上での表面的なだけの礼儀」を皮肉ったシーンにも見えるのです。
●相棒に「アテレコ」もしていたクリストフとの対比
そのハンスの危うさがはっきりと示されたのは、「出会ったその日にアナと婚約しようとした」ことでした。氷運びを営む「クリストフ」は、その婚約に応えたアナに「知らない奴には気をつけなきゃダメだよ」「君のやることは信用できない。出会ったばかりで結婚するようなやつだぞ」などと、もっともな批判をしています。
そして、そのクリフトフと相棒のトナカイ「スヴェン」との関係も、ハンスとその馬とは対照的です。たとえば、クリストフはオオカミに追いかけられながらも、アナを放り投げてスヴェンに乗せて、ガケを飛び越え危機を脱し、そのアナに引っ張られて助けられます。アナはソリと荷物を台無しにしたこともあって「もう私のことは助けてくれなくていいから」と告げました。
クリストフはその際に、スヴェンのセリフを「アテレコ」しています。「あの子(アナ)ひとりだけだと死んじゃうよ」「そしたら新しいソリ買ってもらえなくなっちゃう」などの言葉に、「イヤなこと言うなあ、お前」と返し、「フフッ」と笑ってアナについていくのです。
この場面ではクリストフは「相棒との相談の上」「自分の利益のために」という建前を示しつつも、実は利害を超えて、アナの助けになろうとしているということが伝わります。前述したように、自身の礼儀を見せつけて、それをただ倣っている(しかも乗せていたアナを見捨てて走り去ったこともあった)ハンスの馬とは、正反対ともいえるでしょう。
■ハンスは他者の「鏡」?
アンデルセンの原作同話『雪の女王 アンデルセン童話集』(KADOKAWA)
●ハンスは「鏡」でもある
また、監督のひとりであるジェニファー・リー氏が、「ハンスはとても魅力的ですが、空虚で、ソシオパス的な、『鏡』として描いている」と明言していることも重要です。その言葉どおり、ハンスは「目の前の人の気持ちをそのまま反映している」ところがあります。
たとえば、序盤に「とびら開けて」をアナとともに歌っているときに、ハンスはサンドイッチが好きなことを「僕と同じじゃないか!」と応え、はたまた「ウェーゼルトン公爵」に「城にある品を全て(国民に)配る気か。貿易に差し支える!」と非難されると「王女を疑うことは許さない、言うことを聞かないと法律に従い処罰するぞ!」と、相手と同じように攻撃的な態度を取っていました。
この他のシーンでも、ハンスは「誰かが望んだ(または最悪のことが起こったのではないかと心配している)言動をほぼそのまま繰り返している」点があるので、注意しつつ観てみるといいでしょう。
つまり、彼は真っ当に思える言動をしていても、それは彼の本心ではなく、相手の気持ちと一致している、文字通り「鏡像的」な振る舞いをしているのです(加えて、前述してきたように、その馬もまたハンスと同じような行動をしています)。
そのハンスのキャラクターは、原作のアンデルセンの童話『雪の女王』で、鏡が重要な存在だったことが反映されています。そちらでは、「悪魔の鏡」の破片が人間の少年「カイ」の心臓に突き刺さり、その性格を捻じ曲げてしまうのですが、仲良しの少女「ゲルダ」の涙がカイの胸に沁み渡って鏡の破片を洗い流し、カイは正気に戻る……という物語になっていました。
対して、『アナと雪の女王』では、原作の悪魔のような働きをする物質的な鏡ではなく、「心」を映す鏡としてハンスというキャラクターを置いているというわけです。その本質が「12人も兄がいて自分に王位継承権がないために、王女と出会ったその日に政略結婚をしようとして、さらにはその本人と姉を殺害することもためらわないソシオパス」だった……というのは切なく、また恐ろしくもあります。しかし、だからこそハンスはしっかり意図的な描写がされた、作り手が考え抜いた結果として生まれた悪役だと思うのです。
(ヒナタカ)
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