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『ガンダム』屈指の名エピソード「大西洋血に染めて」…カイの悲劇と成長が胸をうつ

マグミクス / 2020年10月18日 10時10分

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■どうしても好きになれない「カイ」の印象が激変した

 今から41年前、1979年の10月13日に放送された『機動戦士ガンダム』第28話「大西洋、血に染めて」は、シリーズのなかでも屈指の名エピソードといわれ、多くのファンの心に強い印象を残しています。

 まず当時の筆者のことから語りますと、28話は泊まり込みの学校行事で唯一放送が見られなかった回でした。当時はビデオを持っている人はまずいませんでしたし、アニメファンができることはカセットテープで音だけ録るくらいだったのです。当時は「ドラマ編」と呼ばれる音だけが収録されたLPレコードが販売されていたくらいですから、当時のファンからすれば普通のことです。

 そんな理由で、頼んで録音してもらった音だけを聞いて脳内で場面を想像し、後に「月刊OUT」1980年3月号のカラー特集で画像を見て、再放送でようやく完全な内容を知りました。

 個人的にはそんな流れでしたが、音だけ聞いた時点で放送を見られなかったことを、かなり後悔していたことを覚えています。その理由は、27話を見た時点でカイとミハルの物語にものスゴく心を動かされていたからです。だから28話であんな決着になるとは考えていませんでした。

 現在では物語の最後までわかっていますが、本放送の当時、筆者はカイというキャラがあまり好きではありませんでした。皮肉屋でホワイトベースのクルーたちを苛立たせるところが、どうにも好きになれなかったからです。まさしくセイラが言っていた「軟弱者」だと思っていました。

 しかし、リュウが戦死した後くらいから、よけいな皮肉はなくなり、おどけて見せる三枚目の色が濃くなってきたような印象に変わります。そして、ミハルと出会った27話での行動を見て、カイへの好感度は急激に上がります。

 工具箱に「アムロ」と声をかける場面、ミハルたちにかけるやさしさ、そして一度は降りたホワイトベースの危機を知って戦場に戻ってくるところなど、今まで見られなかったけれど、カイが本質的に素直になれないだけで「いい男」だとわかったからです。

 ミハルもまた「いい女」でした。幼い弟妹のためにスパイになって生活を支える苦労人。かといって変にすれていないで、カイのやさしさを理解できる心を持っている。

 だからこそふたりが幸せになってくれることを期待していたのですが、実際はそう上手くいかなかったことは、『ガンダム』を見たことがあるみなさんなら承知していると思います。

■その後のカイの生き方を決めた「悲劇」

カイ・シデンを主人公にした外伝マンガ作品、『機動戦士ガンダム デイアフタートゥモロー -カイ・シデンのメモリーより-」第1巻(KADOKAWA)

 主人公・アムロの成長は、ホワイトベースから離れてひとりになったことがきっかけでした。それと同じように、カイもホワイトベースを離れることが成長のきっかけになっています。この「仲間と離れて、違う環境に身を置くことが成長のきっかけになる」という手法は、富野由悠季監督が使う手法で、後の作品でもよく見られます。

 ミハルとの出会いと別れ、それがカイを大きく成長させました。筆者が見て、カイが完全に変わったと感じた瞬間は、その次の29話でのセリフ。

「ミハル俺はもう悲しまないぜ お前みたいな子を増やさせないためにジオンを叩く!徹底的にな!」

 それまで面倒なことから逃げていたカイが、初めて戦争の意味に気づいた場面だと思います。それほどまでにミハルの死は、カイに大きな影響を与えたのです。

 また、ミハルの死は作品全体から見ても大きなものだと思います。なぜなら、ミハルのエピソードは作品のなかで唯一、民間人が死ぬ場面を丁寧に描いていたからです。

 1話で多くの民間人の死が描かれていますが、名前もドラマもない人びとでした。イセリナは仇討ちとはいえ戦場に向かい、銃を取ってしまいました。しかし、ミハルはただ生きたいと願っていたのに生きられなかった。その悲劇性は『機動戦士ガンダム』という作品では唯一無二だと思います。だから28話「大西洋、血に染めて」は心に残るエピソードになったのだと思います。

 物語最後にミハルの幻影と会話するカイ。当時はただの演出かと思っていましたが、これはニュータイプとしての感応だったのではないか? と筆者は思っています。そうだとすると、ミハルはいつもカイの側にいる。そう思えてくるのです。あくまでも筆者の思い込みですが。

 その後、ミハルの弟ジルと妹ミリーがどうなったか公式には描かれていませんが、筆者はカイがそのままにはしていないと思っています。せめてふたりには、ミハルの分まで幸せになってほしいと思います。「大西洋、血に染めて」を見るたび、創作物であるにもかかわらず、筆者は心からそう思うのです。

(加々美利治)

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