【金ロー】『カリオストロの城』公開当時は賛否両論? 宮崎駿氏が仕掛けたトリックとは
マグミクス / 2020年11月19日 19時40分
■地上波での全国放送は今回で17回目
「奴はとんでもないものを盗んでいきました。あなたの心です」
銭形警部の名台詞でおなじみの劇場アニメ『ルパン三世 カリオストロの城』が、2020年11月20日(金)の「金曜ロードSHOW!」(日本テレビ系)でオンエアされます。
1979年に公開された『ルパン三世 カリオストロの城』は、宮崎駿監督の劇場監督デビュー作です。怪盗アルセーヌ・ルパンの孫ルパン三世と相棒・次元大介が見せる冒頭のカーチェイスから、カリオストロ城の時計塔で繰り広げられるクライマックスまで、宮崎監督ならではの躍動感あふれるアクションシーンが満載です。
地上波テレビでの全国放送は今回で17回目を数え、1999年2月26日の放送では23.4%(ビデオリサーチ調べ、関東地区)を記録するなど、常に二桁の視聴率をキープしてきた人気作です。劇場監督デビュー作だけに、宮崎監督が『カリオストロの城』に注いだ情熱と仕掛けには驚くものがあります。
■緑ジャケットに戻ったルパン三世
ヨーロッパの小国・カリオストロ公国を舞台にした『カリオストロの城』は、1977年からスタートしたTVアニメ『ルパン三世』第2シリーズ(日本テレビ系)が高視聴率となり、また劇場版第1作『ルパン三世 ルパンVS複製人間』(1978年)もヒットしたことから企画されました。
当初はベテランアニメーターの大塚康生氏に監督オファーがあったのですが、劇場アニメとして新機軸を見出すことができずに大塚氏が悩んでいたところ、東映動画(現・東映アニメーション)時代からの後輩である宮崎監督が代わりに監督を引き受けたそうです。
1978年にNHKで放映されたTVアニメ『未来少年コナン』で監督デビューを果たしたばかりだった宮崎監督は、このとき38歳。劇場監督デビューとしては遅咲きでした。制作期間は6か月と超タイトなスケジュールでしたが、宮崎監督は大勝負に出ます。
宮崎監督は『カリオストロの城』で、劇場版の前作『ルパンVS複製人間』とも『ルパン三世』第2シリーズとも、大きく異なるルパン像を打ち出したのです。宝石やお金のために働く泥棒ではなく、清純な少女・クラリスひとりを守るためだけに体を張る、大ロマンティストの男にルパンを変えてしまったのです。ルパンの着ているジャケットも、第2シリーズの赤色から第1シリーズの緑色に戻っています。
■ファンの間で大きく割れた評価
2015年から放送されたTVシリーズ『ルパン三世 PART4』キービジュアル 原作:モンキー・パンチ (C)TMS
公開当時の『カリオストロの城』は、評価が大きく割れました。当時の声を要約すると、「面白い。でも、これはルパン三世じゃない」というものだったように思います。
爽快なアクションシーンの連続に加え、ルパンが潜入するカリオストロ城には数々のトリックが仕掛けられており、最後まで目が釘づけになります。ルパンが守ろうとするお姫さまのクラリスはとても健気で、石川五ェ門ならずとも「かれんだ」と呟きたくなります。
長年、『ルパン三世』を見てきたファンはもちろん、宮崎監督がTV第1シリーズ後半から高畑勲監督とのコンビで演出を手掛け、第21話「ジャジャ馬娘を助けだせ!」などの名エピソードを残していたことは知っていました。とはいえ、いつもは軽薄ぶっているルパンがお宝ではなく、少女の心だけを盗んでしまうという純情ぶりには戸惑いを覚えてしまったのです。峰不二子のお約束ともいえる、セクシーショットもありませんでした。
ファンは作品の世界観を非常に愛する一方、その世界観を壊そうとする行為には抵抗を覚えがちです。宮崎監督の野心的劇場デビュー作『カリオストロの城』は、興収的には『ルパンVS複製人間』を下回る結果で終わりました。ただし、『カリオストロの城』の魅力は、即効性のものではなく遅効性のものだったのです。
■宮崎監督が見せた「換骨奪胎」の手法
宮崎監督が『カリオストロの城』で仕掛けたのは、ルパンや銭形警部といった既成のキャラクターたちを使って、『ルパン三世』の世界を宮崎駿ワールドに塗り替えてしまうという大トリックでした。劇場監督デビュー作でそれを成し遂げるとは、なんという大胆さでしょう。『カリオストロの城』で持てる力をフル発揮した宮崎監督は、オリジナル作品『風の谷のナウシカ』(1984年)という次のステージへ進むことになります。また、カリオストロ城に隠された秘密は、人気作『天空の城ラピュタ』(1986年)にもつながることになるのです。
宮崎監督が『カリオストロの城』で見せた、いわば「換骨奪胎」の手法は、のちに押井守監督の『うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー』(1984年)、細田守監督の『デジモンアドベンチャー ぼくらのウォーゲーム!』(2000年)、原恵一監督の『クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ モーレツ!オトナ帝国の逆襲』(2001年)などの劇場アニメに踏襲されることになります。すでにあるキャラクターを使って、若手監督が演出力を炸裂させ、それまでの世界観を塗り替え、やがて次のステージへと進み、よりオリジナル性の強い作品を発表する、という日本アニメ界にとってプラスになる流れが生まれました。
公開当初は興行的に苦戦した『カリオストロの城』ですが、TV放送をきっかけに宮崎監督の人気は高まっていきました。また、ルパンというキャラクターも、作品ごとにさまざまな顔を持つ多面的な存在となり、より魅力を深めていったのではないでしょうか。
時間はかかりましたが、宮崎監督が『カリオストロの城』で仕掛けたトリックは、大成功だったと言えそうです。ルパン三世の名前を借りた宮崎監督は、ファンの心をまんまと盗んでみせたのですから。
(長野辰次)
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