歴史を変えた「平成ギャグマンガ」4選 大傑作からクレームものの問題作まで!
マグミクス / 2020年11月28日 14時10分
■“不条理ギャグ”は大人向けから少年誌へ
2019年12月2日発売の「週刊少年ジャンプ」にて第91回赤塚賞の選考結果が発表され、おぎぬまX氏の『だるまさんがころんだ時空伝』が29年ぶりに入選し話題を集めました。まさに令和の幕開けにふさわしい快挙でした。ただ裏を返せば、平成は八木教広氏の『UNDEADMAN』(平成2年)の1作しか入選しなかったということになります。平成はギャグマンガ不毛の時代だったのでしょうか。もちろん答えは「NO」です。
SNSが発達した昨今において、プロアマ問わずクリエイターが秀逸なギャグマンガを発表しては人気を獲得しています。そんな今のギャグマンガシーンの礎を築いたものこそめくるめく「平成ギャグマンガ」作品に他なりません。ここではそんな平成に始まり平成で終了したギャグマンガから4作品をピックアップしてご紹介します。
●“現代ギャグのバイブル”『バカドリル』(著:天久聖一・タナカカツキ)
最初にご紹介するのは平成6年(1994年)に発売された天久聖一氏・タナカカツキ氏の天才ギャグマンガユニットが発表した『バカドリル』です。
『バカドリル』は構成からしてすでに破天荒。“北斎漫画”のスタイルをあえて取り入れたこの作品は、コマ割りやストーリーというものは全く存在しません。「正しいブンチョウの持ち方」や「普通の高校に進学したフナの日記」、存在しないマンガ「ブッチュくん」のキャラクター解説など、純度の高いギャグだけが抽出されて紙面に載っている、そんな衝撃的な作りです。ある意味では2000年代以降のお笑いタレントたちのフリップ芸を先取りしたものと言えるかもしれません。
“現代ギャグのバイブル”と銘打たれた本作は異端のようであり、平成ギャグマンガのエポックメイキング的な作品でした。未読の方は2008年に発売された『新しいバカドリル』と合わせてお楽しみください。
●未体験の笑いのツボを刺激!『セクシーコマンドー外伝 すごいよ!!マサルさん』(著:うすた京介)
続いて紹介するのは平成7年(1995年)から約2年間「週刊少年ジャンプ」で連載された『セクシーコマンドー外伝 すごいよ!!マサルさん』(以下、『マサルさん』)。うすた京介氏というギャグ漫画家を一躍全国に知らしめ、また(言ってしまえば)不条理な笑いを「ジャンプ」の世界に持ち込み大成功を収めた記念碑的なギャグマンガでもあります。
セクシーコマンドーという“なんだかよくわからないもの”に青春を捧げることになる部員たちの日常から繰り出されるギャグ、当時の「ジャンプ」読者である少年少女たちからすれば、それはまるで未体験の笑いのツボを刺激されるようでした。的確に立ち回ってくれるフーミンのツッコミのおかげで、突き抜けた不条理に置いてけぼりにされることもなく、劇場に足を運んだかのような臨場感ある掛け合いも『マサルさん』の魅力です。
■前代未聞のクレームがきた?平成が生んだ最大の“問題作”
●「死ね死ね団」ブームを巻き起こす!『行け!稲中卓球部』(著:古谷実)
続いては、平成5年(1993年)の「週刊ヤングマガジン」より連載開始の『行け!稲中卓球部』(以下、稲中)。今や巨匠といっても過言ではない古谷実氏のデビュー作にして青春ギャグマンガの金字塔です。先に紹介した2作品は不条理ギャグを押し出しているのに対し、こちらは青年マンガならではの過激な下ネタが目立ちます。
もちろん『稲中』の魅力はそれだけではありません。マンガ史に残る“顔芸”の数々、吹き出し外のちょっとしたセリフ、底なしのハイテンションでぶっちぎる前野と井沢の暴走ぶり、全てが読者の心をつかんで離さないのです。さらに彼らの暴走の根底にあるイケメンたちへの鬱屈したコンプレックスも大きな共感を呼びました。とりわけ前野と井沢がカップル撲滅のために結成した「死ね死ね団」は、その活動に共鳴する若者が続出するなど、社会現象にまで発展しました。『稲中』で人生を学んだという人も多い、そんな永遠不滅のマスターピースです。
●ギャグマンガの“ミュータント”『ボボボーボ・ボーボボ』(著:澤井啓夫)
最後に紹介するのは「平成ギャグマンガ」最大の問題作としての呼び声も高い、澤井啓夫氏の『ボボボーボ・ボーボボ』です。こちらは平成13年(2001年)から平成19年(2007年)にかけて「週刊少年ジャンプ」で連載され2021年2月には連載開始20周年を迎えます。「ジャンプ」の名だたるギャグマンガ作品と並べても、未だその系譜を辿ることが難しく、ファンの間ではギャグマンガの“ミュータント(突然変異)”という位置付けすらされているほど、異能ぶりを発揮した作品です。
究極の拳法「鼻毛真拳」の使い手であるボボボーボ・ボーボボがドンパッチ、ところ天の助、魚雷ガール、(稀につけもの)など“ハジケ”た仲間らと毛狩り隊と戦うストーリーという体裁はありますが、何せギャグをマシンガンのごとく連射してくるので、読者はなすすべなく全身を撃ち抜かれることに。気づけば「自分は今、何を笑っているのか」と呆然してしまうこともしばしばでした。2003年にアニメ化された際、そのあまりの“ハジケ”っぷりに保護者からは「こんなものを見ていたら子供がおかしくなるのでは」なんて苦情がきたという都市伝説がまことしやかに語られていました。2020年には集英社が運営するWebサイト「少年ジャンプ+」にて毎日1話ずつ無料で配信され、連載終了から10年経過した今もなお、根強い人気を誇っています。
* * *
平成はギャグマンガ不毛の時代どころかギャグマンガのルネサンスとも言えるほど多様なギャグマンガが誕生し、社会に大きな影響を与えていた時代でした。なお今回は平成に照準を絞ったので昭和に連載開始された『ちびまる子ちゃん』や『お父さんは心配症』『ぼのぼの』などの傑作は候補より外しています。
さて令和はまだ始まったばかりです。これからまたどんなギャグマンガが誕生し、私たちを未知の世界に連れていってくれるのでしょうか!
(片野)
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