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手塚治虫が描いた異色恋愛マンガ3選。普通でない「愛」だからこそ切ない…?

マグミクス / 2021年2月14日 13時10分

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■タブーなき愛を描き続けた“マンガの神さま”

 2月14日はバレンタインデーです。チョコレート好きな漫画家といえば、“マンガの神さま”手塚治虫先生。徹夜作業にチョコレートは欠かせなかったそうです。特にお気に入りだったのは、「HERSHEY’S」の板チョコだったとのこと。バレンタインデーにちなんで、手塚先生が描いた恋愛マンガを紹介します。

 SFやファンタジーものを得意とした手塚先生が描いた恋愛の世界は、ユニークなものが多いのが特徴です。同性愛をテーマにした『MW』、近親相姦を扱った『奇子』など、タブーなき愛を描き、読者を驚かせてきました。『ブラックジャック』の一編『春一番』は、大林宣彦監督によって恋愛サスペンス映画『瞳の中の訪問者』(1977年)として実写化されています

 さまざまな愛の形を描いてきた手塚先生ですが、数多い作品のなかから胸がキュ~ンとする純愛マンガ3編を紹介します。

■孤独な少年を救ったのは、二次元の少女

『るんは風の中』が収録されている、手塚治虫漫画全集『タイガーブックス』第4巻

 まず最初に紹介するのは、手塚治虫漫画全集『タイガーブックス』第4巻に収録されている、『るんは風の中』です。1979年に発表された、ちょっと不思議な短編マンガです。

 主人公のアキラは中学までは明るかったものの、高校に進学してからはふさぎ込みがちです。クラスの雰囲気になじめず、学校に行くのが億劫になっていました。そんなとき、アキラはガード下の壁に貼られていた一枚のポスターが目に留まります。

 ポスターの中の少女が、アキラに向かって微笑んでいます。アキラが見惚れていると、「すごーく熱心なのね」「見つめられて光栄よ。ポスターはそれがしあわせなの」と少女は話しかけてきました。友達のいないアキラは、少女を「るん」と呼び、いろんなことを打ち明けるようになっていきます。るんに励まされ、アキラはつらい日々を乗り切るようになります。

 一時は自殺することも考えたアキラですが、るんは懸命に呼び止め、考え直させます。るんのモデルになった“少女”が現実世界にはいるはず。死ぬのは、その“少女”に会ってからでもいいじゃないと。アキラは広告会社を調べ、ポスターを撮ったカメラマンの名前を聞き出します。アキラは生きることに前向きになっていました。そして、るんのモデルとなった“少女”と、ついに対面する日が訪れます……。

 孤独な少年がポスターの少女に恋をしてしまうという、マンガ執筆とアニメ制作に生涯を捧げた手塚先生ならではのロマンチックなラブストーリーです。1985年にオリジナルビデオ作品としてアニメ化され、2000年には『手塚治虫劇場』(テレビ朝日系)として実写ドラマ化もされています。実写ドラマ版でるんを演じたのは、当時10代だった池脇千鶴さんでした。アキラは今井翼さんが演じていました。

 池脇さんは現在放映中の深夜ドラマ『その女、ジルバ』(フジテレビ系)で高齢バーに勤める新人ホステスのアララを演じ、話題を呼んでいます。『その女、ジルバ』の原作は、2019年の手塚治虫文化賞マンガ大賞の受賞作。池脇さんは、手塚先生と少なからず縁のある女優だと言えそうです。

■初恋の相手は、なんとラブドール…!

『ロビオとロビエット』が収録された、『鉄腕アトム』Kindle版14巻(手塚プロダクション)

 さらに強烈なヒロインが登場するのが、『やけっぱちのマリア』です。1970年に「週刊少年チャンピオン」で連載された恋愛コメディです。中学に通う主人公・焼野矢八の恋人は、なんとビニール製のラブドール。当時はダッチワイフと呼ばれていた空気人形です。連載時には福岡県児童福祉審議会が有害図書に指定するなど、大変な波紋を招いた異色作です。

 矢八は幼い頃に母親を亡くし、父親とのふたり暮らしでした。亡き母を想う矢八の寂しい気持ちがエクトプラズムとして鼻から抜け出し、父親が持っていたラブドールに宿ります。動き出したラブドールは「マリア」と名づけられ、矢八と同じ中学校に通うことになります。絶世の美女であるマリアに、学校中の男子生徒も男性教師もぞっこん。不良グループを巻き込んだ、ドタバタ展開となっていきます。

 最初はマリアのことを異性としては意識していなかった矢八ですが、マリアに慕われているうちに愛情が湧いてきます。マリアには亡くなった母親の面影があり、矢八にとってのアニマ(理想の女性)的な存在でした。しかし、ビニール製のマリアは破れやすく、その命は限られています。はかない命ゆえに、矢八はマリアをより深く愛するようになるのです。

 医大卒の手塚先生が若い読者への性教育を意図して描いた作品だけに、性や出産のメカニズムについても詳しく解説されています。黒魔術を操る魔女と作家との危険な恋愛を描いた『ばるぼら』は、二階堂ふみさんと稲垣吾郎さんの共演作として2020年に実写映画化されているので、『やけっぱちのマリア』も実写化してほしいものです。

■永遠の愛で結ばれるロボットたち

 最後に紹介するのは、『鉄腕アトム』の一編『ロビオとロビエット』。シェークスピアの戯曲『ロミオとジュリエット』をベースに、1965年に発表された作品です。ラストのひとコマが、強烈な印象を与えます。

 アトムやウランも登場しますが、物語の中心になるのは高性能ロボットのロビオとロビエットです。代々にわたって競うようにロボットを開発してきた矢似家と井塩家は仲が悪く、そのため両家が製造したロボットたちも対立していました。そんななか、矢似家の当主が実の娘同然にかわいがる女性型ロボットのロビエットと井塩家の当主が精魂を注ぎ込んだ男性型ロボットのロビオは出逢い、強い力で惹かれ合うようになります。

 矢似家と井塩家の抗争は、カーレースを経て、エスカレートしていくばかり。アトムやお茶の水博士が仲裁しようとしても、両家は耳を貸そうとしません。無益な争いを止めさせたい。ロビオとロビエットはともに体を張り、ロボットとしての機能も形状も失うことになります。でも、ふたりは思いがけない形で、永遠の愛で結ばれるのでした。

 手塚先生は仕事の合間にチョコレートを食べることを楽しみにしていたそうです。チョコレートの持つ官能的な甘さが、これらの恋愛マンガを生み出したのかもしれません。手塚マンガを読むと、愛にはいろんな形があることが分かります。どの愛も尊いものとして、手塚先生は愛情いっぱいに描いています。

(長野辰次)

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