『ウルトラセブン』ちゃぶ台宇宙人が登場する「狙われた街」の、現代に通じるテーマとは?
マグミクス / 2021年5月22日 18時10分
■金城哲夫&実相寺監督のタッグ作
たそがれどきは、逢魔時(おうまがとき)とも呼ばれています。昼と夜との境目が消え、不思議なことが起こりがちです。そんな夕暮れの街を舞台に、ウルトラセブンことモロボシ・ダンが宇宙人と対峙するのが、『ウルトラセブン』の第8話「狙われた街」です。
1967年10月~1968年9月にTBS系で全国放映された円谷プロ制作の『ウルトラセブン』は、今なお人気の高い特撮シリーズの金字塔です。なかでも第8話「狙われた街」は、前作『ウルトラマン』(TBS系)のメイン脚本家として活躍した金城哲夫氏と、TBSから円谷プロへの出向ディレクターだった実相寺昭雄監督が、初タッグを組んだ傑作エピソードとして有名です。
2021年4月から『ウルトラセブン 4Kリマスター版』がNHK BSプレミアムで、毎週日曜の朝8時から放送されています。あす5月23日(日)に放送が予定されている「狙われた街」の見どころを、改めてご紹介します。
■タバコを吸った途端、狂い出したフルハシ隊員
物語の舞台となるのは「北川町」です。この街で、次々と事件が勃発します。タクシー運転手が女性客にいきなり襲いかかり、銃乱射事件も起きます。ウルトラ警備隊に勤めるアンヌ隊員(ひし美ゆり子)の叔父は北川町で暮らしていたのですが、優秀なパイロットであったのに旅客機墜落事故を起こし、大勢の搭乗客とともに亡くなっています。
事件の真相を追うダン隊員(森次晃嗣)は、正体不明の敵から「ウルトラセブン、手を引け」と警告されます。一連の事件は、やはり侵略宇宙人の仕業だったのです。さらには北川町からウルトラ警備隊本部に戻ってきたフルハシ隊員(毒蝮三太夫)とソガ隊員(阿知波信介)まで、突然暴れ出します。みんなタバコを吸い始めた途端におかしくなったことにダンは気づき、北川町で販売されていたタバコのなかに麻薬成分が混入されていることを突き止めます。
喫茶店にたたずむダンとアンヌ。北川町の駅前にあるタバコの自動販売機を、ふたりは張り込みます。タバコの補充に現れた男をタクシーで追いかけると、男は古いアパートの一室に消えました。ダンが単身でアパートへと乗り込むと、そこで待っていたのはメトロン星人でした。
畳の部屋で、ウルトラセブンであるダンとメトロン星人があぐらを組み、地球人の行く末について語り合います。宇宙人同士がちゃぶ台を挟んで討論するという、非常にシュールな光景です。まさに「センス・オブ・ワンダー」と呼べる、名シーンとなっています。
■1960年代は街に不穏さが漂う時代だった
『ウルトラセブン』第8話に登場したメトロン星人をグッズ化した、「メトロン星人 ちゃぶ台つき」(ブルマァク)
実相寺監督は『ウルトラマン』でも、第23話「故郷は地球」や第35話「怪獣墓場」など怪獣に感情移入した印象的なエピソードを撮っていましたが、『ウルトラセブン』では「狙われた街」が初参加でした。現在は欠番扱いとなっている第12話「遊星より愛をこめて」の他にも、第43話「第四惑星の悪夢」、第45話「円盤が来た」といった優れたエピソードを残しています。
でも、「ウルトラマン」シリーズを代表する名脚本家・金城哲夫氏とのタッグ作は、「狙われた街」の1作だけ。それゆえに、両者の異才ぶりがより際立つ回として記憶されます。
1960年代後半はベトナム戦争が始まり、金城氏の故郷である沖縄は米軍の出撃基地となっていました。また、国内ではベトナム戦争に反対する学生運動が盛り上がった時代でもあります。
一見すると平凡な街「北川町」の古いアパートに、危険なテロ思想を持つ男が潜んでいた……。非現実的世界を描いたSFドラマ『ウルトラセブン』ですが、「狙われた街」には現実味のあるリアリティが感じられます。市販されている商品を利用した無差別テロは、1977年の「青酸コーラ殺人事件」や、1984年の「グリコ・森永事件」などを彷彿させるものがあります。
アンヌ隊員の叔父の葬儀シーンでは、他にも怪事故が次々と発生していることが語られますが、『ウルトラセブン』の放送が始まった1967年には「ウルトラ山田」と名乗る爆弾魔による爆破事件が相次ぎ、この事件は未解決のままです。また、1965年には18歳の少年が渋谷にある銃砲店を襲い、警察隊と激しい銃撃戦を行なったライフル魔事件が世間を震撼させました。社会派映画を思わせる、シリアスな設定が印象に残る「狙われた街」です。
実相寺監督と組むことが多かった脚本家の佐々木守氏は、大島渚監督のATG映画にも参加していたので、金城氏も少なからず触発されていたのではないでしょうか。三島由紀夫のSF小説『美しい星』からの影響も感じさせます。
■あっさりと終わるメトロン星人との戦い
たそがれどきは逢魔時、昼と夜との境目が消える時間帯です。真っ赤な夕焼けが美しい北川町を舞台にした「狙われた街」は、『ウルトラマン』『ウルトラセブン』を人気番組へと導いた金城哲夫という“太陽”と、ATG映画でアングラ色の強い映画を撮ることになる実相寺監督という“闇”が融合しあった作品だとも言えそうです。ちゃぶ台を挟んで語らうふたりの宇宙人と、金城氏と実相寺監督がどこか重なって感じられます。
ちゃぶ台での討論の後、メトロン星人とウルトラセブンとの戦いは拍子抜けするほど、あっさりと終わります。そして、番組の最後には浦野光さんの語る有名なナレーションが流れます。この最後のナレーションは、金城氏の書いた脚本にはなく、実相寺監督に頼まれて佐々木氏が書き加えたものだと言われています。
「メトロン星人の地球侵略計画は、こうして終わったのです。人間同士の信頼感を利用するとは、恐るべき宇宙人です。でも、ご安心ください。このお話は、遠い遠い、未来の物語なのです。え、なぜですって? 我々人類は今、宇宙人に狙われるほど、お互いを信頼はしていませんから。」
経済格差、人種ヘイト、弾圧される民主化運動、そしてコロナ禍における自粛警察……現在の世界はバラバラに分断された状態です。この地球がメトロン星人に狙われる心配は、まだまだ先のことになりそうです。
(長野辰次)
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