「ジャンプ」から消えたマッチョな主人公 少年マンガ ・マッチョ追放の社会史
マグミクス / 2021年7月6日 17時10分
■1980~2000年、マッチョ主人公は徐々に追いやられた
……あのマッチョたちはどこへ消えてしまったのでしょう。
『キン肉マン』(著:ゆでたまご)、『北斗の拳』(原作:武論尊、作画:原哲夫)、『シティーハンター』(著:北条司)、『ジョジョの奇妙な冒険Part1』(著:荒木飛呂彦)、『魁!!男塾』(著:宮下あきら)……誰もが知っている80年代“ジャンプ黄金期”を代表する作品たちですが、注目すべきは「主人公がマッチョ」だということ。
キン肉スグルにケンシロウはもとより、冴羽リョウもまた端正な顔に鍛え抜かれた体の持ち主。『ジョジョ1部』のジョナサンもまた圧倒的な肉体派。『魁!!男塾』に関しては言わずもがなです。「ジャンプ」黄金期を支えていたのは、マッチョたちだったのです。
あれから30年が経過し、世間では空前の筋トレブームが到来。今や老若男女問わず会員制ジムを利用する時代。そんなマッチョ時代における「週刊少年ジャンプ」を賑わしている作品たちはというと……。
『ONE PIECE』(著:尾田栄一郎)、『HUNTER×HUNTER』(著:冨樫義博)、『鬼滅の刃』(著:吾峠呼世晴)、『呪術廻戦』(著:芥見下々)、『チェンソーマン』(著:藤本タツキ)……筋トレブームなどどこ吹く風。いかついマッチョ主人公は「ジャンプ」からほとんど姿を決してしまったのです。一体、この30年間で何があったのでしょうか。(強いて言えばここ最近のルフィぐらいでしょうか)。ということで今回はぎゅっと凝縮した形で「ジャンプ」、引いては少年マンガ誌における「マッチョ」の位置づけの変遷を辿っていきたいと思います。
●「強さ」とは「筋肉」だった プロレス全盛期の「ジャンプ」
プロレスが1980年代の主人公像に影響を与えたことは疑いようがありません。例えば『キン肉マン』の作者ゆでたまご先生も大のプロレスファン。初期のギャグ路線から格闘マンガへの路線変更も1979年に開催された「プロレス夢のオールスター戦」の影響が大きかったと後に語っておられます。力こそ正義、転じて筋肉(マッチョ)こそ正義という価値観が敗戦直後より、プロレスを通じて涵養(かんよう)されていったと言えるでしょう。また『北斗の拳』の原哲夫先生はブルース・リー主演のアクション映画の影響についても語っておられます。
●「暴力」が疎まれた90年代 爪を隠した主人公たち
バブルが弾けた1990年代。『幽☆遊☆白書』(著:冨樫義博)、『地獄先生ぬ~べ~』(原作:真倉翔 作画:岡野剛)、『るろうに剣心』(著:和月伸宏)。「ジャンプ」主人公たちの筋肉量も日本経済に比例するかのように徐々萎んでいきます。その背景は重層的でひと言で片付けられませんが、当時の読者層の身近な出来事で言えば「校内暴力」「体罰」の社会問題化が挙げられるでしょう。これにより80年代までは「強さ」の証明だった「暴力」自体を忌避する風潮が生まれ、主人公たちも「非好戦的」なキャラクターが増え、肉弾戦ではない「能力バトル」が好まれるようになった、という見方ができます。実際、1997年『ONE PIECE』、1998年には『HUNTER×HUNTER』の連載が開始されるのです。
●完全にマッチョ不遇の時代に突入…彼らはギャグマンガへ
インターネット、携帯電話の普及により情報化社会へと突入した2000年代初頭。当時のジャンプ連載陣と言えば『BLEACH』(著:久保帯人)、『NARUTO』(著:岸本斉史)、『テニスの王子様』(著:許斐剛)、『DEATH NOTE』(原作:大場つぐみ、作画:小畑健)……当たり前のようにマッチョ主人公はいません。『Ultra Red(ウルトラレッド)』(著:鈴木央)、『キックスメガミックス』(著:吉川雅之)といった格闘マンガの主人公はなかなか容貌魁偉だったのですが残念ながらどちらも打ち切りの憂き目にあいます。マッチョ不遇の時代だったと言わざるを得ません。そんななか、80年代主人公たちと引けを取らぬマッチョ主人公が現れました。それが『ボボボーボ・ボーボボ』(著:澤井啓夫)。この時代、マッチョが主役になれる舞台は「ギャグ」だったのです。それは『世紀末リーダー伝たけし!』(著:島袋光年)を見ても明らかといえるでしょう。
今、「ジャンプ」は再び黄金期に入ったのではないかと言われています。ただし冒頭で確認したとおり、その黄金期メンバーに、マッチョは入れてもらえませんでした。筋トレブームの今、マッチョの枠は読者へと委ねられたのです。……マッチョはどこへ消えたのか。いいえ、マッチョはずっと、ここにいたのです。
(片野)
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