日本アニメと縁のある『白蛇:縁起』上映へ 技術も給与も高い中国アニメ界の躍進
マグミクス / 2021年7月27日 18時10分
■中国で人気が上昇している3Dアニメ
中国アニメ界のニュースが、ここ数年で日本でも話題を集めるようになってきました。新海誠監督の『君の名は。』(2016年)や宮崎駿監督の『千と千尋の神隠し』(2001年)などは中国でも正式に劇場公開され、それぞれ大ヒットを記録しています。3Dアニメ『STAND BY ME ドラえもん』(2014年)も大人気を博しました。
中国では3Dアニメ『西遊記 ヒーロー・イズ・バック』(2015年)が大ヒットを記録して以降、国産の3Dアニメも意欲的に製作されています。『ナタ 魔童降臨』(2019年)も爆発的な大ヒット作に。同じく3Dアニメ『ナタ転生』(2021年)は、日本語吹き替え版が2021年2月に日本で劇場公開されています。『ナタ転生』を手掛けたアニメ制作会社「追光動画」が、米国のワーナーブラザースとタッグを組んだファンタジー大作『白蛇:縁起』は、2021年7月30日(金)より日本でも劇場公開される予定です。
人気声優の三森すずこさん、Snow Manの佐久間大介さんらが日本語の吹き替えを務める『白蛇:縁起』の見どころをご紹介します。中国アニメが今後もたらすだろう影響力についても、触れてみたいと思います。
■宮崎駿監督の心を動かした「白蛇伝説」
中国では2019年に公開され、興収70億円を越える大ヒットとなっている3Dアニメ『白蛇:縁起』は、中国に古来より伝わる「白蛇伝説」をモチーフにした恋愛&冒険ファンタジーです。
「白蛇伝説」は、白蛇の化身である美女と人間の若者とが恋に落ちる「異類婚姻譚」として知られています。「白蛇伝説」を原案にし、日本では東映動画(現・東映アニメ)の初のカラー長編アニメ『白蛇伝』(1958年)が制作されています。宮崎駿監督はこの『白蛇伝』を観たことがきっかけで、東映動画に入社しています。
日本のアニメ界にも縁のある『白蛇:縁起』は、『白蛇伝』の主人公たちの前世を描いたものです。唐王朝の終わり、ヘビ狩りの村で暮らす若者・セン(CV:佐久間大介)は川に流されていた美少女・ハク(CV:三森すずこ)を救います。ハクは記憶を失っていましたが、不思議な力を持っていました。センはハクを連れ、彼女の記憶を取り戻すための旅に出ます。
純粋な心を持つセンに、ハクは次第に心を惹かれていきます。しかし、ハクは自分が数百年にわたって生きている白蛇の妖怪であることを思い出します。ふたりは人間と妖怪との熾烈な争いによって、引き裂かれていくのでした。
出会って間もないセンとハクが、不思議な傘を手にして大空を舞うシーンは、中国大陸ならではの雄大な景観と相まって、とてもロマンチックに描かれています。物語の後半、白蛇となったハクがスクリーンいっぱいに暴れるシーンは圧巻です。ハクの正体を知りながらも、センが彼女を抱き寄せるシーンには、思わずドキッとさせられます。『白蛇:縁起』のクオリティの高さからも、中国アニメがかなり高いレベルに達していることが伝わってきます。
また、主人公たちが自由を求め、種族の壁を越えて愛し合うというテーマ性は、多くの人が共感できるものとなっています。
■日本アニメを観て育った中国のクリエイター
『白蛇:縁起』で、白蛇の姿となったハクが描かれるシーン
現在の中国アニメ界で活躍しているクリエイターたちは、規制が緩やかだった1980~90年代に、日本のアニメ、マンガ、ゲームなどのポップカルチャーに触れながら育った世代が中心になっているといわれています。『白蛇:縁起』を観ても、宮崎監督の『もののけ姫』(1997年)などからの影響を感じさせます。また、ファンタジー大作『ロード・オブ・ザ・リング』(2001年)や『アバター』(2009年)といったハリウッドのメガヒット作も、よく研究していることがうかがえます。
水墨画を思わせるオープニングシーンなど、中国文化ならではの表現も取り入れられており、物語のスケールの大きさも特筆されます。宮崎駿監督作やディズニー&ピクサーアニメに比べると、まだ洗練されきっていない部分は感じさせますが、中国アニメ界の躍進ぶりを充分に感じさせる意欲作です。
東映動画の『白蛇伝』ではヒロイン・白娘のお供だった小青は、『白蛇:縁起』ではハクのやんちゃな妹・セイ(CV:佐倉綾音)として登場します。『ナタ転生』のエンディングを見ると、セイが活躍するスピンオフ作品も企画されているようなので、『アベンジャーズ』(2012年)のような連作シリーズになっていくのかもしれません。
■才能ある人材が集まる中国アニメ界
日本のアニメ界は、海外も含めると2.5兆円市場となっています。『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』や『シン・エヴァンゲリオン劇場版』などの大ヒットで活況を帯びている日本のアニメ界ですが、中国のアニメ界はすでに3兆円市場といわれています。動画配信のプラットホームが整備されている中国アニメは、今後ますます市場を広げていきそうな勢いです。
市場が大きいだけに、中国で働くアニメーターたちの給料もよく、アニメーター志望の若者たちが多いそうです。2021年3月に出版された日経プレミアシリーズの新書『安いニッポン 「価格」が示す停滞』(日本経済新聞出版)には、「中国の求人サイトによると、アニメーターの平均月収は杭州が3万4062元(約52万円)で、北京は約3万元(約45万円)だった」と記されています。
これは日本のアニメーターの平均収入を上回ります。将来性のある分野に、才能のある人材は集まるもの。日本のアニメ界は、給与体系を根本的に見直すべき時期に来ているのではないでしょうか。
長年にわたって懸念されていた海賊版がアジア各国に出回っていた問題も、「良いアニメは高画質なもの、正規の作品を鑑賞したい」という中国のアニメファンが増えてきていることで、是正へと向かいつつあるようです。
面白い作品なら、国境に関係なく楽しめるのが、アニメーションの素晴らしさです。日本のポップカルチャーと中国文化とが、いい形で影響しあう関係になっていくことに期待したいと思います。
(C)Light Chaser Animation Studios (C)Bushiroad Move. (C)TEAM JOY CO., LTD.
(長野辰次)
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