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手塚治虫『火の鳥』の、ゾッとする名作エピソード。怪談よりも怖い、人間たちの末路…

マグミクス / 2021年8月5日 19時10分

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■自分のクローンが大量に誕生して……

 1954年に発表された手塚治虫の名作マンガ『火の鳥』は、その血を飲めば永遠の命を手に入れられるという伝説の火の鳥をめぐって、過去から未来、地球から宇宙へとさまざまな舞台でドラマが描かれます。エピソードごとに「○○編」と名づけられているのですが、なかには思わず背筋がゾッとする話も多くあります。

 今回は「怪談よりも怖いのでは?」と思わせる『火の鳥』の名作エピソードをご紹介します。

●クローン人間を狩る……「生命編」

 まずは「生命編」より、クローン人間をテーマにしたエピソードです。主人公は青居というTVプロデューサー。狩猟用のクローン動物を銃でハントするという過激な番組を手がけていた彼ですが、視聴率が上がらず、新たなアイデアを考えます。

 それは、クローン人間を作ってそれを人間にハントさせるというもの。クローンとはいえ人間を殺すのは法律違反だと周りから反対されますが、青居は「体のどこか一部分でも人間と違えば法律は適用されない」という理由を持ち出して、この企画を強行しようとします。

 青居がクローン人間を調達するべく向かったのはアンデスの奥地。しかし、ここで青居の運命は大きく変わります。研究所の所長にクローン人間を作ることを強く反対された青居でしたが、研究員の猿田の案内で鳥の顔を持った不思議な娘と出会います。その娘は、野菜、動物、人間など、あらゆるクローンを作れる火の鳥の技術を持っていました。

 ここで青居はクローンを作り出す培養液の池に落下。あろうことか自分のクローンが何人もできてしまうのです。大勢のクローンに紛れてしまった青居は「自分はオリジナルの青居だ」と説明するもスタッフたちには信じてもらえず、自分が番組のなかでハンターから狙われる標的となってしまいます。

 なんとか逃げ延びた青居は、道中で助けた少女・ジュネと人目を避けて森で暮らし始め、人間としての心を取り戻します。そして自分がやろうとしたことを「なぜあんなバカなことを言ったんだろう」「マスコミの中にいて踊らされてたんだな。視聴率と人気の狂気の中で……」と後悔。最後は自らクローン人間の工場へ行き、自爆することで決着をつけるのでした。

 過激さを求めるあまり「クローン人間をハントする企画」を思いつく発想も怖いですが、そこから自分のクローンが生み出され、自分が狙われる側になるという展開は、怪談とは違った恐ろしさを感じさせます。

■コンピュータに頼りすぎた人類の未来

「未来編」を収録した、『火の鳥』第2巻(角川文庫)

『火の鳥』のゾッとするもうひとつのエピソードは、私たちの未来で本当に起こりうるのではと思わせる怖い話です。

●電子頭脳が示す破滅への道……「未来編」

 西暦3404年が舞台となっている「未来編」のエピソードです。人類は荒れ地となった地上を捨て、世界5か所にある地下都市へと生活場所を移していました。そして人類が意志決定を委ねているのが各都市にあるコンピュータ。それぞれが「電子頭脳・ハレルヤ」や「聖母機械・ダニューバー」などの名前を持っています。

 そんなある日、ヤマトという都市で暮らす主人公・山之辺マサトに、ある命令が下ります。それは、山之辺が一緒に暮らしているムーピーという宇宙生物を殺せというもので、元々は「ハレルヤ」が下した命令です。しかし、ムーピーにタマミという名前をつけて恋人同士として暮らしていた山之辺はこれを拒否。別の都市のレングードへ亡命しようとします。

 ヤマトの幹部はレングードへ連絡を取り、山之辺の身柄を確保したら引き渡すよう要請しますが、レングードの幹部が「ダニューバー」へ指示を仰いだ結果、応じる必要はないと断られます。どちらの陣営も自分たちのコンピュータの方が正しいことを言っているのだから言うことを聞けと主張し、引きません。

 埒(らち)があかなくなった両陣営は互いのコンピュータ同士で討論させることに。すると「ハレルヤ」も「ダニューバー」も互いに引かずにヒートアップ。出た結論が……「あなたとはあわないわ。どっちかが消えるべきなのだわ」「そうね戦争ね」という、まさかの宣戦布告。そして流されるまま人類は戦争を開始し、滅亡してしまうのです。

 それまで人類から「個人的な感情におぼれやすい人間の政治家より電子頭脳の計算に頼った方が確実」という理由で崇拝されていたコンピュータですが、最後は頼りすぎたために滅亡への道を誰も止められなくなった……という恐ろしい話です。こうなるぐらいだったら、イチかゼロかではなく妥協点をグダグダと探る人間同士の方がまだ平和なのかもしれません。

 また、人類が滅亡したあとの展開も衝撃的です。生き残った山之辺は、火の鳥から「人類が再び誕生するまで見守りなさい」と不死の力を与えられ、およそ30億年もの間、肉体が滅んだあとも意識だけで生き続けます。何もない大地から微生物が生まれ、恐竜時代を経て哺乳類が人類へと進化するまでの膨大な時間。不死の孤独をリアルに感じられる描写で、山之辺が体感した時間の重みがズシッと響いてきます。

(吉原あさお)

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