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楳図かずおの恐怖マンガ集『こわい本』 美少女が【蛇女】に変貌する不条理さ

マグミクス / 2021年9月2日 19時10分

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■角川ホラー文庫で、初期の名作を復刻

 人気マンガ家・楳図かずお先生が、『14歳』の連載終了以来となる26年ぶりの新作マンガを発表することが話題となっています。制作に4年の歳月を費やし、「マンガの奥意を極めた巨匠 楳図かずおの新境地」となる作品だそうですが、発表されるのは2022年1月になります。来年が待ち遠しい。そんなファンにおすすめのシリーズが、書店にて現在発売中です。

 角川ホラー文庫では、2021年6月から楳図先生の傑作恐怖マンガをセレクトした「こわい本」シリーズの再編集版が刊行されています。『こわい本1・蛇』『こわい本2・異形』『こわい本3・狂乱』がすでに発売されており、読者が手にするのを静かに待っています。

 不朽の名作『漂流教室』やSF大河ストーリー『わたしは真悟』『14歳』などの長編マンガが国際的に評価されている楳図先生ですが、初期の短編マンガで見せた恐怖演出も卓越したものを感じさせます。今回は、楳図ワールドの恐怖の原点「へび女」ものを収録した、『こわい本1・蛇』をご紹介します。

■「恐怖マンガ」と名付けられた、初めての作品

 楳図ファンにとってうれしいのは、『こわい本1・蛇』は楳図先生の初期作品『口が耳までさける時』が手軽に読めることでしょう。タイトルを読むだけでゾッとする『口が耳までさける時』は、1961年に発表された作品です。この頃の楳図先生は25歳。まだ東京には上京しておらず、自然豊かな奈良県五條市の実家で暮らしていました。

 この作品は、楳図先生自身が「恐怖マンガ」と名付けた、初めての作品です。楳図先生の名前を一躍有名にする『ママがこわい』『まだらの少女』『へび少女』(1965年~1966年)といった一連の「へび女」シリーズの原型となった短編です。

 貧しい家庭に生まれた美少女・さくらは、広い屋敷にもらわれることになります。養母となる女性は、とても美しい人です。ところがさくらの手を握ると、表情が変わります。

「仲よくしましょうね……。おや! それになんてやわらかい手……」

 次の瞬間、女性の首が「ヌ~ッ」と伸びているではありませんか。しかも、よだれまで垂らしています。

 美少女×広い屋敷は、ホラーものの鉄板要素です。さらに子供を守ってくれるはずの保護者が、実は恐ろしいモンスターだった……という読者の心理を根底から揺さぶる設定となっています。子供がいちばん安心できる存在である「母親」が、もしも自分を襲ってきたら……? 名作ホラー『洗礼』や、楳図先生が映画監督デビューを果たした片岡愛之助さん主演作『マザー』(2014年)など、楳図作品ではこの究極ともいえる恐怖モチーフが繰り返し描かれることになります。

■笑いと恐怖、美しさと醜さが反転する楳図ワールド

今年2021年で85歳の誕生日を迎える、楳図かずお先生 (C)楳図かずお

 美しく、優しい養母の正体は「へび女」でした。毎年のように女の子がこの屋敷にもらわれては、冬が訪れる前にみんな姿を消していました。衝撃的な展開を見せる『口が耳までさける時』ですが、牧歌的なおかしみもブレンドされているのは楳図作品ならです。

 部屋の片隅にさくらが隠れていることを知らずに、新しい「お母さま」はばあやが捕まえてきたカエルを生きたまま「ゴクリ」と丸呑みします。部屋のなかをカエルたちが逃げ回るのを「お母さま」が追いかける姿は、どこかユーモラスさを感じさせます。

 楳図先生の妹という設定の架空のキャラクター・楳図魔子(もちろん美少女!)が語り部として登場する、『うろこの顔』も強烈です。ヒロインである超美少女・陽子の顔の皮がはがれ、なかからうろこに覆われた顔が現われるシーンは、息が止まるほどの恐ろしさです。怖くて、夜中に鏡を見ることができなくなってしまいます。

 美少女の手首から顔へと次第にうろこが増え、「へび女」となっていく様子がディテールたっぷりに描き込まれています。へび神の祟りなのか、それとも登場人物たちみんなが集団幻覚に陥ったのか。美少女が「へび女」に変身してしまう理由は、明らかにされません。とても不条理であり、サイコサスペンス的な面白さも感じさせます。

 あまりの「へび女」の恐ろしさに、物語の語り部であるはずの楳図魔子はクライマックス寸前で現場から逃走してしまいます。魔子のこの逃げ足の速さには、思わず吹き出してしまいます。恐怖と笑い、美しさと醜さ。真逆な価値のものが、とてもフラットに描かれているのも楳図ワールドの特徴でしょう。

■もうすぐ85歳になる楳図かずお先生

 もうひとつの収録作『蛇娘と白髪魔』は、楳図先生のいくつかの初期作品をベースにした実写映画『蛇娘と白髪魔』(1968年)を、楳図先生自身がコミカライズしたものです。屋根裏に隠れて暮らす孤独な少女・タマミと施設で育った美少女・小百合との女の子同士のナイーブな葛藤劇となっています。

 映画を撮った湯浅憲明監督は、『大怪獣ガメラ』(1965年)を大ヒットさせ、大場久美子さん主演の『コメットさん』(TBS系)や『ウルトラマン80』(TBS系)なども手掛けた特撮ドラマ界の巨匠です。実写版『蛇娘と白髪魔』には若かりし日の楳図先生がカメオ出演もしているので、楳図ファンなら見ておきたい名作映画です。

 楳図先生は1936年9月生まれで、もうすぐ85歳を迎えます。26年ぶりの新作はもちろん楽しみですが、楳図先生がスタイルを確立させた初期恐怖マンガ集もぜひおさらいしておきたいところです。

 まだまだ厳しい残暑が続きそうですが、楳図先生の背筋が凍る恐怖マンガを読むことで、この残暑を乗り切りたいと思います。

(長野辰次)

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