40周年『太陽の牙ダグラム』 放送当時は不人気…「早すぎた名作」と言われる理由
マグミクス / 2021年10月23日 6時10分
■セールスも視聴率も高評価だった優等生作品
10月23日は1981年に『太陽の牙ダグラム』が放送開始した日。2021年の今年は40周年になります。
本作は『機動戦士ガンダム』のヒットから起こった「ガンプラブーム」の影響で企画が始まりました。『ガンダム』を製作した日本サンライズ(現在のサンライズ)と、玩具会社タカラ(現在のタカラトミー)による企画でしたが、従来の合体変形ロボの合金玩具のセールスでなく、プラモデルでの展開という点が、それまでのロボットアニメとは一線を画していました。
玩具会社であるタカラにはプラモデルのノウハウは少なかったので、模型会社のニットー(日東科学教材)の協力を得て、国際的にスタンダードなスケールの1/72と1/48のサイズで本作のプラモシリーズを展開します。
当時は未曽有のガンプラ人気により、各社でガンダムに似せたロボットプラモを販売していましたが、デザインがいかにも亜流で組み立てにアラが目立ち、間接稼働の少なさがニセモノ感を子供たちに与えていました。そのなかで、本作シリーズのロボである「CB(コンバット)アーマー」は組み立てやすさや可動部分など、ガンプラに優るとも劣らないクオリティで、このプラモは「違う」という印象を子供たちだけでなく模型ファンにも与えます。
このCBアーマーをデザインしたのは、ガンダムもデザインした大河原邦男さんでした。MS(モビルスーツ)とは異なり、現用機をモチーフにした頭部のコクピットなど、ミリタリー色を前面に出したCBアーマーは、ヒーロー然としていない新しいタイプのロボットの方向性を示したものとなります。
プラモの売れ行きも好調で、それが後押しとなって放送の延長もされました。また、登場したCBアーマーはすべてラインナップされるほどの人気で、脇役であるトレーラーや戦車、ヘリコプターまでも販売されています。
この他にも本来の玩具路線に近い完成キットである「デュアルモデル」や、食玩の元祖であるカバヤ食品のビッグワンガムの系列である「ダグラムガム」など、幅広く立体物を展開しました。さらに本作を中心とした雑誌「デュアルマガジン」の創刊で、その勢いを確実のものとします。これら各方面への進出で、タカラはプラモデルジャンルにおいても有力他社と肩を並べるほどの存在となりました。
しかし、これらの販売実績とは裏腹に、当時のアニメファンからは、それほど本作は評価された作品にはなりません。「早すぎた名作」。本作をひと言で表現するならば、そう言えるのかもしれません。
■重厚すぎるドラマが当時の風潮とは相いれなかった…
「鉄の腕は萎え、鉄の脚は力を失い、埋もれた砲は二度と火を噴くことはない……」
アニメ第1話冒頭で、砂漠に朽ち果てた主役機「ダグラム」に、このナレーション。それまでのロボットアニメにはない物語の始まりに、度肝を抜かれた視聴者も多くいたことと思います。この1話はストーリー上では明確な時間軸にはなく、1話から主役機のダグラムを登場させるための番外編でした。実際のダグラムの登場、活躍は2か月ほど先になります。
このように『ガンダム』以上のリアルな物語を目指した本作でしたが、それゆえに時代を先取りしすぎた物語に多くのアニメファンがついてこれなかった。……そう、過去を振り返って本作を評価する人もいます。
戦争を泥臭くリアルに描いたため、本作には「華」がありませんでした。キャラクター人ひとりの個性より、ドラマ部分を重視したため、戦争を動かす「政治」が物語の主導権を握ります。それは『ガンダム』で改革したばかりのアニメのリアル路線でも早すぎた作劇でした。
当時、流行していたアニメ作品を見ると、ドラマ部分も魅力がありましたが、何よりもキャラの魅力で人気を引っ張っている傾向にあります。そして、多くの出版社が参入した当時のアニメ雑誌の特集を見ても、このキャラ人気を重視した誌面作りが中心となっていました。
後に劇場版『チョロQダグラム』で自虐ネタとして使っていましたが、本作に「女性キャラが少ない」というのもリアルにこだわった結果だったのでしょう。こんな背景からか本作を扱うアニメ雑誌は少なく、特集記事を組んだ雑誌でもネガティブな発言をされてしまいます。
しかし、だからと言って本作の人気がなかったわけではなく、前述のようにプラモの売れ行きはガンプラに匹敵するものでした。視聴率も高く、サンライズのオリジナル作品では『無敵ロボ トライダーG7』に次ぐ歴代2位を記録しています。これは裏番組が当時のヒット作『六神合体ゴッドマーズ』だったにもかかわらずでした。
これらの点を考えると、本作のファンや購買層はアニメ雑誌を買う層とは違ったところにあったのかもしれません。模型店などの売れ行きを見ていると、小学生が本作のプラモを購入していた姿はよく見かけていました。合金玩具と違って、プラモは子供がお小遣いで買えるという点も大きかったと考えられます。
ちなみに本作が先駆けとなったことがふたつあります。
ひとつは前述した「デュアルマガジン」に連載されていたパロディマンガ『デロイアナナちゃん』。メカを擬人化した少女ものの原点と言える作品で、当時は「あむろ・れい」のペンネームだった中原れいさんの作品です。もうひとつも前述した『チョロQダグラム』。SDガンダム以前に製作された低等身キャラの作品で、実際に変形可能なチョロQも販売されました。
メカを擬人化した少女もの、今ではSDと呼ばれる低等身キャラ。ふたつとも現在のコンテンツを振り返った時、起点となるのが本作で、ともにリアルだった本編を逆手に取った逆転の発想から生まれたのかもしれません。
このように放送当時はアニメ雑誌でも取り上げられることが少なかった本作ですが、その後、遅れて本作の魅力に気付いた人がいたことで、歴史に埋もれることなくふたたび脚光を浴びることとなります。40周年企画として太田垣康男先生により描かれたマンガ『Get truth 太陽の牙ダグラム』など、時を超えて本作は再び動き出しました。
砂漠に朽ちていた巨人が再び動く時が来るとは当時は考えられませんでしたが、当時の懐かしさだけでなく、改めて巨人が紡ぐ物語を、これからは楽しみたいと思います。
(加々美利治)
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