「家中雨漏り、戻ってきて!」 豪雨で足止め一夜、妻と連絡取れず
毎日新聞 / 2024年9月22日 19時10分
石川県の能登半島を襲った豪雨で、22日も雨が続く中、安否や行方が分からなくなった人たちの捜索が続いた。氾濫した河川には流木や住宅の柱などが積み上がった。1月の能登半島地震の被災地で、またも自然が猛威をふるった。
半島北西部の海沿いにある輪島市の集落に住む東栄一・本紙客員編集委員(74)は21日朝、所用で外出しており、道路の寸断で帰宅できなくなった。本紙に被災時の状況などを寄せた。
21日午前8時ごろ、県南部に向かうために車で自宅を出た。当時、雨はやや強いかな、程度だった。天気予報で、線状降水帯が能登半島北部にかかりそうだというのは確認していたが、県南部に行けば雨も弱くなるだろう、という認識だった。
9時前、輪島市の南隣・同県穴水町にあるスーパーの駐車場で開店待ちをしていた時だ。妻の由紀恵(70)からスマホで電話があり、「(木造一部2階建ての)家中で雨漏りがしている! とにかく戻ってきて!」と強い口調で頼まれた。「分かった。すぐ戻る」と応じて電話を切った。以降は集落一帯で通信障害が続いているためか、妻とは連絡が取れなくなった。
輪島市門前町の中心部を通過した。その先、自宅のある同町五十洲(いぎす)地区に向かうには、片側1車線の曲がりくねった山道を越える必要がある。道は一部、泥水が流れ、小石も散乱していた。10年ほど前にできた新しいトンネルの手前まで来ると、倒木と土砂崩れで通行できず、Uターンして門前町中心部に戻ることにした。
ほんの10分ほど前に走った道は、ますます泥水の量が増して川のようになり、落石や倒木も発生。それらを避けながら必死で運転した。心の中で「なんとか助かるぞ」と気合を入れた。そうしないと心が折れてしまいそうだった。雨は激しく降っていたと思うが、運転に必死でよく覚えていない。
門前公民館に着いたのは午前9時40分ぐらいだと思う。妻には電話やLINE(ライン)で何度も連絡を試みたが、電話はつながらず、ラインも既読がつかない。自宅の周辺で行方不明者の情報はなく、安否の心配はないと思うが、不安は募る。妻も、私が「すぐ帰る」といったまま帰って来ないので心配していると思う。
道路復旧のめどが立たず、21日は公民館に開設された避難所で一夜を明かした。妻とは22日午後5時時点でも連絡を取れていない。
過疎地の集落で一番の問題は、大規模災害時に通信不能となり、安否確認すらできなくなることだ。能登半島地震で大きな教訓を得たはずなのに、この9カ月近く、何をしていたのだと憤りを感じる。もうこんな思いはまっぴらだ。【客員編集委員・東栄一】
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