新米「先食い」で来年も米不足の可能性 農家が抱く農政への疑問
毎日新聞 / 2024年9月24日 13時0分
全国各地のスーパーから軒並みコメが消えた「令和の米騒動」。今回のコメ不足を農家はどう受け止めているのか。埼玉県農民運動連合会(農民連)の副会長で、埼玉産直ネットワーク協会専務理事の松本慎一さん(74)に聞いた。【聞き手・鷲頭彰子】
――今夏、スーパーからコメが消えました。
◆今年は6月ごろから、関係者の間で「コメがない」と騒ぎになっていました。
7月30日の農林水産省食糧部会で報告された民間流通米の6月末の在庫は156万トン。例年200万トン前後で推移していたのが、1999年以降最低となりました。国内のコメ消費量は1カ月当たり60万トン弱。2カ月半分しか残っていなかったということです。
コメの会計年度は11月です。本来、新米は10月まで持たないといけません。それが空っぽになり9月頭から新米を出しています。収穫するそばから売れている状態で、来年分のコメを先食いしていることと同じです。来秋までは、今シーズンに取れたコメで過ごさないといけないのだから、理屈で言えば、先食いしてしまうと来年も同じ時期か、より早い時期にまたコメ不足になる可能性があります。
――なぜこんなことになったのでしょうか。
◆政府は2004年から作付面積の判断を農家や農協といった農業団体に任せ、強制的な減反はしなくなりました。安倍政権の18年には、減反した際に農家が受け取れる補助金もゼロにしました。
一方、他の作物に転換することを推奨し、それには補助金を出しました。翌年のコメ需要の見通しも毎年発表し、それを元に地域は生産の計画を作るよう指導しました。その国が示す見通しは毎年減っています。「需要が減る」と国が言うのだから、地域は生産計画を減らしますよね。
23年産のコメの需要見通しも外れました。農水省は680万トンと発表しましたが、実際は702万トン。間違った見通しで立てた計画で栽培・収穫したのが23年産です。猛暑の影響で見込んだ量より更に少なくなり、収穫量は661万トンでした。
そして、今回の「令和の米騒動」です。
――コロナ禍、21年産の県産米「彩のかがやき」の価格は60キロ8000円と1万円を切り、農家から「もうやっていけない」と悲鳴が上がっていました。
◆このとき農水省が発表した統計では、大規模農業法人も零細農家も全部含め、主に水田で耕作している農家の平均農業所得は1万円です。年間の作業時間は1000時間となっているので、時給換算すると10円。それではやっていけませんよね。離農、転作が加速しました。00年に170万戸あったコメ農家は、23年には58万戸にまで減りました。
――今回、政府は備蓄米を放出しませんでした。
◆備蓄米は90万トンあります。しかし今回、新米が出るとして放出しませんでした。これでコメの価格は上昇し、農家は今シーズンは買いたたかれずにホッとしています。しかし、来年は今年以上に不足する可能性があり、そうなれば、放出せざるを得ません。そのことを考え、今回は出したくても出せなかったのかも知れません。
――24年産は主食米の作付けが増えたとも聞きました。
◆これまでは国がウクライナ危機などで家畜の餌が高騰したため、飼料用米への転換を推進していました。さまざまな補助金がつき、10アール当たりの収入比較では主食用より飼料用の方が高かった。国は24年産からその助成を段階的に引き下げています。その影響で、主食米の作付けが増えたのだと思います。
国はいまだに増産の方向にかじを切りません。日本米は海外でも人気です。量を作っても輸出すれば良いのではないでしょうか。困っている国に援助したら国際貢献にもなります。食料自給率が38%では、有事があり、輸入できなくなった時、どうするのでしょう。
また、収入がなければ後継者はいません。産業は廃れていきます。しかもそれは人間に欠かせない食料の問題です。食料自給率を上げ有事に備えるためにも、所得補償など生産者を守る施策が絶対に必要です。農業・食料は国防だと思います。
松本慎一(まつもと・しんいち)さん
兼業農家の長男として加須市に生まれ、現在卸売業「埼玉産直ネットワーク協会」の専務理事を務めながら、自宅の水田でソーラーシェアリングに挑戦。農業者団体「埼玉県農民運動連合会」の副会長を務め、年越し派遣村や能登地震の被災地などに食料を提供している。農林業と食糧・健康を守る埼玉連絡会(埼玉食健連)の事務局次長。
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