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旅客が消えたコロナ禍に入社のANA社員 医療現場に出向で得たもの

毎日新聞 / 2024年9月29日 15時15分

チェックインカウンターに立つANA関西空港の森川祐衣さん=関西国際空港で2024年9月4日午後2時32分、中村宰和撮影

 華やかな空港で働く入社前のイメージとは正反対に、目の前に旅客が消えた光景が広がっていた。9月に開港30年を迎えた関西国際空港。ANA関西空港の地上旅客係員、森川祐衣さん(27)は新型コロナウイルスの感染が中国で広がり始めた2020年2月に入社した。研修中の同4月に初めて国内線の出発便を担当し、旅客はわずか4人だった。その直後、自宅待機になった。「悲しかった。新型コロナがいつ収束し、自分の将来や会社はどうなってしまうのだろうか」と不安な日々を送った。

 新型コロナの影響は甚大で、関空の旅客数は激減した。航空各社は運休や減便に伴い、社員の出向や一時帰休などの措置を取った。ANA関西空港は社員の約4分の1が出向を経験し、自治体や一般企業、病院、農家、法律事務所、ホテルなどで働いた。

 森川さんは21年4月、日本赤十字社和歌山医療センター(和歌山市)に出向し、消化器内科・外科で医師事務作業補助者として勤務した。医師や看護師らの事務作業を補助してカルテに入力し、患者に入院や検査の注意事項を説明した。通院していた患者が亡くなり、がんの告知を受けた患者の家族が泣いている姿に接した。これまで経験したことがない状況に直面し、大きなショックを受けた。

 病院は新型コロナ感染者の治療も加わって緊迫していた。森川さんは「医療の最前線でとても重要な仕事をしている。もし薬や検査の案内を間違えて伝えたら患者の命にかかわる。何とか役に立ちたい」と強く思った。現場で飛び交う専門用語や薬の名前を必死に覚えた。ちょっとした会話を通して患者に寄り添うことができればと、「すみません。長くお待たせしています」「私も和歌山出身で、親戚はミカンを育てていて今年の実は甘くておいしいですよ」と話しかけるようにした。雰囲気がなごみ、「忙しいのにありがとう」と言葉が返ってきた。

 出向は22年3月に終了した。医師や看護師らから「スキルが高く一緒に働きやすかった」「もっといてほしかった」「これからは森川さんらしい笑顔で空港の仕事を頑張って」とねぎらいの言葉をかけられ、涙がこぼれた。

 復帰した森川さんは関空のチェックインカウンターや搭乗口で旅客に対応する。病院で患者と接した1年間の経験をふまえ、旅客に対し「相手の立場に立って考える」ことを常に意識し、情報をわかりやすく伝えるように心がける。旅客のお年寄りや妊婦、不安そうな子どもたちらをサポートし、航空機の運航の安全を守るため手荷物に危険物が入っていないことを確認する。

 関空の旅客数はコロナ禍前の水準に近付き、ターミナルは混雑する。森川さんは「想像していた空港の姿が戻り、忙しくなった。大勢のお客さまが乗っていただけるからこそ関空は今後も続いていく。お客さまに楽しんでもらえるようにおもてなしをしたい」と笑顔を見せた。【中村宰和】

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