世界初「宇宙寺院」建立なるか 民間ロケット打ち上げ、14日再挑戦
毎日新聞 / 2024年12月13日 10時0分
世界初の「宇宙寺院」建立なるか――。宇宙ベンチャー「スペースワン」(東京都)が12月14日、和歌山県串本町の発射場から小型ロケット「カイロス」2号機を打ち上げる。搭載物の一つは、仏像が安置された人工衛星だ。うまく軌道に乗れば、天空から地球を見守ることになる。
古来、人々は星を信仰や祈りの対象にしてきた。「『面白おかしい』が入り口でもいい。国境や人種、宗教を超えた祈りの場所になれば」。「宇宙寺院」を計画した一人、真言宗醍醐派の総本山・醍醐寺(京都市伏見区)の執行・総務部長、仲田順英さん(60)は、思いの丈を熱く語る。
宇宙寺院は、人工衛星を開発する京都府の宇宙ベンチャー「テラスペース」の衛星(重さ約50キロ)に、真言密教の本尊で宇宙そのものを表す大日如来座像と、密教の宇宙観・世界観を描いた曼荼羅(まんだら)図を安置する。どちらも醍醐寺に伝わるものを模したもので、手のひらサイズに縮小した。
寺院名は「劫蘊(ごううん)寺」。「劫」は、宇宙の誕生から終わりまでの非常に長い時間の単位のことで、「蘊」は物のかたまりや分子を意味するという。「仏教では『他』があって初めて『個』があるという、相対の考え。宇宙もまた相対性理論で理解できる。宇宙と仏教は親和性がある」と仲田さんは説く。
宇宙寺院の“建立”の背景には、争いが絶えない現代社会に警鐘を鳴らす意図がある。
寺や神社はかつて学びや救済、祈りの場として共同体の中心にあり、人が集う場所だった。ところが、現代では「墓じまい」や寺院の統廃合などで廃れつつある。人々からよりどころやつながりが失われた結果、自己中心的で他者や次世代を顧みない社会に変わり果ててしまった――。こんな憂いが、プロジェクト発足のきっかけとなった。劫蘊寺は宇宙空間を通じて、国境や人種も超えて、世界の安寧と平和を祈る寺院となるという。
成功すれば、衛星は高度約500キロの軌道で周回するが、数年程度で大気圏に突入して燃え尽きる。仲田さんは、今後はスマートフォンから衛星の現在位置を確認できるようにして、地球上のどこからでも「参拝」可能にしたいという。【菅沼舞】
スペースワン、3月の失敗乗り越え
スペースワンは今年3月、「カイロス」初号機を和歌山県串本町の発射場「スペースポート紀伊」から打ち上げたが、約5秒後に高度数十メートルの地点で爆発し、失敗に終わっている。14日に打ち上げる2号機が衛星の軌道投入に成功すれば、国内の民間単独では初めての事例となる。
カイロスは全長18メートルで3段式の固体燃料式ロケット。今回は宇宙寺院となるテラスペース社の衛星に加え、台湾国家宇宙センターの実験用衛星など、計5基の衛星を搭載する。テラスペースの衛星は、宇宙航空研究開発機構(JAXA)が開発したレーザー光を利用した距離測定装置なども備えている。
スペースワンは2018年、キヤノン電子やIHIエアロスペースなどの共同出資で設立された。通信衛星や地球観測衛星など、世界的に小型衛星の打ち上げ需要が高まっていることから、低コストで高頻度に打ち上げる「宇宙宅配便」の事業化を目指している。
日本の民間ロケットは他に、実業家の堀江貴文さんが創業した「インターステラテクノロジズ」(北海道)があるが、衛星を軌道に乗せたことはまだない。米国では小型ロケットを飛ばす新興企業が商用化に成功するなど、世界での開発競争は激しくなっている。JAXAが開発する小型ロケット「イプシロン」の打ち上げ失敗や実験中の爆発事故が相次ぐ中、カイロス2号機の成否に注目が集まる。
スペースワンの豊田正和社長は「技術者も含めて全員が『今度こそ』という思いだ」とリベンジへ意気込む。【駒木智一】
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