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「同じ誕生日なら意識してもらえるはず」365人の被爆証言を動画に

毎日新聞 / 2024年12月13日 7時15分

沢井義征さん(右)から被爆当時の話を聞くサトウセイキさん=広島市中区で2024年11月1日午後4時2分、井村陸撮影

 「自分の誕生日は1年に1度だけ。同じ誕生日の人のことなら、きっと意識してもらえるはず」。映像作家のサトウセイキさん(44)=横浜市=は、広島、長崎で原爆の被害に遭った、誕生日が異なる365人の証言を映像で紹介する「Birthday365」を始めた。

 11月初旬、広島市内のカフェ。サトウさんは広島で被爆した沢井義征さん(79)=同市西区=にスマートフォンのカメラを向けた。

 沢井さんは生後5カ月の時、母と3歳の兄と一緒にいた爆心地から約1・4キロの自宅で被爆した。10歳だった姉が小学校で被爆してケロイドが残ったこと、栄養不足で母は母乳が出なかったことなどをゆっくりとした口調で証言した。沢井さんは「僕の証言を見て、子どもや若い人たちに戦争をしてはいけないと強く認識してほしい」と語った。

 横浜市出身で、大阪の大学に進学したサトウさんは、30代になるまで一度も広島と長崎を訪れたことがなかった。

 被爆の歴史に興味を持つきっかけになったのは、2015年に広島へ旅行したことだった。原爆資料館で被爆者の遺品や写真などの資料を見たり、証言を聞いたりした。「何でこんな悲惨なことを知ろうと足を伸ばして見に来なかったのだろう」と後悔の気持ちに襲われた。

 自分と同じように、被爆の歴史について知る機会がなかった人のために何かできないだろうか――。まずは、休日に図書館へ行って、文献などで調べた広島や長崎の歴史をSNSで紹介することを続けた。

 そんな中、サトウさんは今年8月の自身の誕生日に、高校生が自殺したことを伝えるニュースを偶然目にした。「生きていてつらいことはたくさんあると思う。でも、原爆に巻き込まれた人たちは生きたくても生きることができなかった」。原爆を経験した人たちに、家族や知人を亡くしたつらさを語ってもらい、命の大切さを考えるきっかけにできないかと考えた。

 そこで思いついたのが、誕生日の異なる365人の証言を動画で紹介する取り組みだった。「自分と同じ誕生日で生まれた人が、原爆によってつらい経験をしてきたが、今日まで懸命に生きている姿を知ってもらいたい」

 誕生日が異なる365人の被爆者を見つけるのは簡単ではない。被爆者の講演会に行ったり、各県の被爆者団体などに紹介を依頼したりして証言を集めている。

 8月から撮影を始め、これまでに10人以上の被爆者から話を聞いた。撮影した動画は20~30分に編集して、サトウさんのYouTube(ユーチューブ)チャンネルで順次公開している。今後、10年以内の完成を目指す。

 サトウさんは「どんどん被爆当時を証言する人が少なくなっている。なんとか記憶を後世に残していきたい」と意気込んでいる。【井村陸】

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