なぜ「Dr.倫太郎」は「精神科ではなにが行われるのか?」という視聴者の興味が描かれなかったのか?

メディアゴン / 2015年6月23日 7時0分

高橋秀樹[放送作家/日本放送作家協会・常務理事/社会臨床学会会員]

* * *

全10回、「Dr.倫太郎」(日本テレビ)を、すべて見た。すべて見た理由は主人公の日野倫太郎(堺雅人)の役が精神分析家だからである。筆者が一番関心を持っていたのは倫太郎が行う精神分析の様子であったが、それ自体は最終回までついに登場しなかった。

この点は非常に残念であった。しかし、精神分析過程はドラマとしては難解すぎて、見る人には理解の外にあるからであろうから、賢明な選択だったかも知れない。

さて、これから書くことは第10回の最終回をすでに見た人を前提に書いているので、見ていない人には何のことやら分からないかも知れない。未見の方は是非、視聴して頂きたい。

最終回に登場する精神疾患は病院の理事長・円能寺(小日向文世)の急性ストレス障害による、チック症状である。この疾患は放っておくとPTSD(心的外傷後ストレス障害)に進むこともあるとされる。

物語は、円能寺に心的外傷を与えていたものは何だったかが明らかになる。それは単に病院買収に失敗したからではなく、その生い立ちと家族関係にあった。

・・・と言うような伏線の回収が駆け足で行われていく最終回。

残念に思うのは、これら伏線の回収は、それぞれに興味のあるものである。一話読みきりの精神疾患エピソードに時間を割かず、全10回すべてをレギュラー出演者中心に描いていれば、もっとわかりやすくて腑に落ちて興味深いものとなったのではないかと思う点である。

倫太郎の患者である池報道長官(石橋蓮司)が抱える隠し事とは・・・。(この伏線の回収方法はあまりに類型的で感心できない。石橋蓮司は今回はコメディリリーフとして起用されているので、この回収はあまりに笑いを馬鹿にしているように思う)

権力欲の塊にしか見えなかった円能寺の言動にある背景とは・・・。

倫太郎の先輩医師荒木(遠藤憲一)が、このドラマに登場した役割とは・・・。

疾患としては最も重度に見える夢乃の母、るり子(高畑淳子)の、ギャンブル依存症はどうなるのか・・・。

倫太郎を見守ると言いながら、倫太郎が好きなのが見え見えの水島医師(吉瀬美智子)の、持って行きどころは・・・。

そして何より患者を好きになってしまい倫理違反を問われるはずの主人公、精神分析家倫太郎と、ヒロインの夢乃(蒼井優)の恋の行方は・・・。(倫理違反を犯して好きになり、それを解消するために精神科医を辞めると決意したはずの倫太郎が、プロポーズの時になぜ夢乃に「医者を辞める」と告げなかったのだろうか。それはあまりに不自然だと思う)

こうした筋立ては全10回を乗り切るには十分であり、そこに徹すればよかったのと思う。

ところで、精神科に行くとどういうことが行われるんだろう、と言う興味でこのドラマを見た人もいるだろう。それに、専門家のごく端くれとして答えておくと、答えは「描かれていなかった」である。

それから、倫太郎は患者と接するときに「共感」が大切だと、ドラマ中で何度も説いていたが、この精神療法における「共感」は、一般の人が国語辞典的意味でとらえる「共感」とは、似て非なるものである。さてこの精神療法における「共感」が、十分に描かれていたかというと、これも答えは「描かれていなかった」である。

筆者はある日、この「共感」とは、「無条件の受け入れ」と、同義だと思った。(この解釈もそんなものじゃないと否定する専門家がいるかも知れない)

エンターテインメントであるドラマも虚心坦懐に「無条件の受け入れ」の心で持ってみられればよいのだが、「Dr.倫太郎」のスタッフ・キャストの皆様、この擦れた視聴者を10回全部見たことに免じてどうぞお許し下さい。

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