ジャンルなき「その他」でしかない日本のバラエティ番組に未来はあるか?
メディアゴン / 2015年9月5日 7時0分
高橋秀樹[放送作家/日本放送作家協会・常務理事]
* * *
「バラエティ(番組)に未来はあるか?」という問いを立てたとき、当然だがバラエティ(番組)とは何かを定義する必要がある。
英語のバラエティ(variety)は、「色々」と言う意味である。
日本がアメリカに範を取ってテレビ番組を始めたとき、その編成にニュースはなかった。ドラマはあった。バラエティもあったが、それは、バラエティショウ(variety show)のことであり、短く関連性のないパーフォマンスの連続からなるショー(a show consisting of a series of short unrelated performances)のことである。
それを縮めて言ったのがバラエティである。
アメリカでオーソドックなかたちと言えばディーン・マーチンやフランク・シナトラやボブ・ホープと言った芸達者が核となり1時間サイズのショウを構成する。日本では日本テレビの井原高忠氏がつくった坂本九ショウ「九ちゃん」などがこれに当たる。
この「バラエティ」にぴったりくる訳語が日本にはあった。「歌舞音曲」である。文字通り歌と踊り、それから音は楽器演奏、曲はちょっとわかりにくいが曲芸やマジック、コントや、漫才、座談などが範疇だ。
テレビ草創期から1980年代まで、日本のバラエティ(番組)は「歌舞音曲」であった。となると、「歌舞音曲」すべてできなくてはならない。幸い、軽演劇やジャズからテレビに移ってきた人はこれらがひと通りできる人だったから、バラエティ(番組)番組は(いささか語弊があるが)造作なくできた。「シャボン玉ホリデー」のクレイジー・キャッツが代表だろう。
我が師と仰ぐ欽ちゃんこと萩本欽一は浅草の軽演劇出身だが、初めから「歌」と「音」が自分ではできないと分かっていた。それでもバラエティの枠組みとしては「歌舞音曲」にしなければならないから分業にした。わらべや、風見しんごや、イモ欽トリオや、細川たかしらに「歌」と「音」を担ってもらったのである。
ところで、現在の芸能人で、ひとりでバラエティが出来る人は誰だろう。
タモリ、木村拓哉。ビートたけしは「音」を補強して、明石家さんまはたとえば桑田佳祐と組めば最強のバラエティができる。松本人志はバラエティに興味を示さないかも知れない。
特に筆者が買っているのはナインティナイン・岡村隆史。彼に足りない「音」を誰に頼もうか。宮迫博之、山口智充、マキタスポーツ、タブレット純あたりか。こういうのなら作りたいし、観てみたい。
さて、1980年代を過ぎて、日本のバラエティ(番組)は、どうなったのか。
はっきりと「歌舞音曲」ではなくなった。しかし、現在のバラエティ(番組)にも、実にふさわしい日本語訳をあてることができる。それは「その他」である。
放送作家になりたいという人と時に会うことがあるが、「何をやりたいの?」と聞くと、たいてい「バラエティ」と答える。そう答える人はおそらく放送作家にはなれない。
笑いをやりたいのか、クイズをやりたいのか。歌番組をやりたいのか。「その他」がやりたい、と言う志望はありえないだろう。そこをはっきりしていない奴はダメである。
「その他」になったバラエティ(番組)は、ドキュメンタリーに摺り寄ってヤラセを発生させ、ドラマにおべっかを使ってチープな再現ドラマを量産した。定見のない番組は芸能人に蹂躙された。
で、最初に立てた問い「バラエティ(番組)に未来はあるか?」に戻ると、これは「『その他』に未来はあるのか」という問いであることが分かる。答えにくいどころか、こんなに簡単な問いはない。
「その他」には無尽蔵の未来がある。ただし、新しい「その他」を探すための明日なき戦いである。
ところで、テレビドラマには「未来」はあるのでしょうか?
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