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<リオ五輪>実況アナウンサーも感情的になった「技なき柔道」

メディアゴン / 2016年8月27日 7時40分

両角敏明[テレビディレクター/プロデューサー]

* * *

残念ながら今回のリオ五輪では話題となるような名実況はなかったようです。逆に吉田沙保里選手が4連覇を逃した試合では、担当した日テレの河村亮アナが2014年に亡くなった吉田選手の父・栄勝さんの感動話をたっぷり盛り込んだために、試合を実況しろ「ポエム実況」はいらない、と大不評だったようです。

アナウンサーの中には起きている事実を伝えるよりも、調べた資料ばかりをしゃべったり、自分の心象風景を語りたがる方が意外と少なくありません。

今回のオリンピックで印象に残った実況があります。冷静なはずのアナウンサーがやや感情的になったケースで、「競技のルールに問題があるからでは?」と思わせるものでした。

それは柔道100キロ超級、テディ・リネール選手と原沢久喜選手の決勝戦です。担当したのはNHKの豊原謙二郎アナ。昨年のラグビーワールドカップ・南アフリカ戦で奇跡の瞬間に、「行けーっ! 行けーっ! トラーイ! ニッポン逆転!」と叫び、その後大歓声に任せて35秒間無言を通した名実況で知られた方です。

リネール選手は身長2m4cm、体重130kg、オリンピック2連覇を狙うフランスの強豪です。

試合はいきなり原沢選手への「指導」からはじまります。開始8秒で防御のために奥襟(首)を抜いた、という審判の判断だったようです。しかし、2014年のルール改正に基づく全日本柔道連盟の『国際柔道連盟試合審判規定』によれば、

 「試合者が頭を抜く動作を続ける場合には、主審は、2)「極端な防御姿勢」にあたるか考慮しなければならない」

とあります。仮に原沢選手が首を抜いたとしてもそれを「続ける場合」に「極端な防御姿勢かどうか考慮」とあるのですから、試合が開始されて最初の動きひとつで審判が「指導」を出すのはいささか疑問が残ります。

その後、リネール選手は組み合わない柔道を続けます。しかし原沢選手もうまく組み手を組ませてもらえず攻めあぐねます。そして、開始1分10秒、原沢選手は「極端な防御姿勢を取った」として2つ目の「指導」を受けます。

【参考】<リオ五輪レスリング>アナウンサーがルールを理解しないままミス実況

「指導」は3つまでは勝ち負けのポイントとして加算はされませんが、同点で試合が終わった場合は「指導」の少ない方が勝つというルールになっています。

試合はただ組み手争いが続く膠着状態。試合時間が半ばを過ぎて、リネール選手の技に対し解説者が「かけ逃げになりませんかね」と言うほど、リネール選手が組み合わずに逃げ切ろうとしていることが露骨になってきます。

試合時間残り1分37秒、リネール選手による再三の偽装攻撃(かけ逃げ)に客席から大きなブーイングが起きます。オリンピックの決勝戦でこのようなブーイングが起きるのはかなり珍しいことです。それでも組み合わないリネール選手。しかしなぜか審判から「指導」はありません。

このあたりから豊原アナの実況には抑えながらも強い感情がにじみ出てきます。

 (残り56秒)「組んで投げる。そのルール改正の集大成の試合になります」
 (残り30秒)ようやくリネール選手に「指導」が来て場内大歓声。

ところがすぐに原沢選手にも「指導」が。

 (残り28秒)「あっ! なんですかこれは!」

さすがにこの原沢選手への「指導」は取り消しに。

 (残り18秒)豊原アナ、感情も露わに叫びます。「技による攻防が見たい!」

しかし試合はそのまま終了。観客席から大きなブーイング。静かにしろとばかり唇に指を立てるドヤ顔のリネール選手。無念の豊原アナは、

 「原沢、柔道をさせてもらえませんでした。」

そしてなおも鳴り止まぬ大ブーイングの中で

 「救われた思いがするのは、ブラジルのファンが原沢の健闘をたたえてくれたことです。」

結局のところ不可解な「指導」ひとつの差だけで原沢選手は敗れました。攻めきれなかった原沢選手が勝った試合とも言えませんが、とてもリネール選手が勝った試合とも言えますまい。

どちらかが技で決着をつけるまで時間無制限の延長戦を闘って欲しいと圧倒的に多くの人が感じたはずです。

【参考】<五輪選手の役割って何?>吉田沙保里の取材3万円の是非

柔道はルール改正を繰り返してきました。2014年のルール改正は豊原アナが実況中に言ったように、「組んで投げる」柔道を目指しての改正でした。

「効果」を廃し、旗判定の優勢勝ちもなく時間無制限のゴールデンスコア方式になりました。「指導」も4つとなって反則負けになる以外は、技による得点がない場合のみ勝敗に影響するものとなっています。

進化はしたと思います。しかし、「指導」には問題が残ります。「指導」は審判の判断です。終盤の大事なところで信じられないような「指導」をして即刻取り消されるような力量の審判に試合の勝敗を左右させて良いのかという疑問は消えません。

「指導」ひとつでも勝ちは勝ち。これでは「組んで投げる」どころか巧妙な「指導勝負」に出て組み合おうとしないリネール選手のようなJUDOが幅をきかせたままになってしまい、ルール改正の意味が問われます。

柔道とはなにを競う競技なのか・・・。「指導」についてのルール改正が望まれます。その意味では、

 「技による攻防が見たい!」

これは多くの人々の気持ちを叫んだ豊原アナの名実況だったのかもしれません。

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