笑いのプロが嫌いな「笑点」が笑える番組に進化した?
メディアゴン / 2016年10月21日 7時40分
高橋秀樹[放送作家/日本放送作家協会・常務理事]
* * *
10月16日の日本テレビ『笑点』を見て驚いた。進化しているのである。『笑点』が嫌いな筆者であるが、不覚にも笑ってしまった。
どこが進化しているかを述べる前に、なぜ筆者が『笑点』が嫌いか述べたい。
多くの笑いのプロを自称する人々(筆者も含めて)は『笑点』を見ても面白いとは思わない。たいてい、なぜ面白くないのにこんなに視聴率を取るのか、と負け惜しみを言う。
笑いのプロはなぜ『笑点』を面白いと思わないのか。まず、落語家が発表するネタ自体がちっとも面白いと思わないからである。
この大喜利では、問題もネタも放送作家が考えている。落語家が自分でネタを考えるなら、あんなにたくさんの構成作家は必要が無い。
つまり、作家が書いたネタを落語家が演じる、いわば、脚本のセリフを役者が演じるのと同じである。そこには笑いの醍醐味である破調は生まれない。そういったところが、笑いのプロは嫌なのである。
落語家にネタを演じる力がないかというと、今の『笑点』メンバーでは一人を除いてそんなことはない。
一人ひとり、強力なキャラクターが与えられているから、そこに乗れば良い。小遊三は女好きの小悪党、好楽は売れていないので仕事がない、木久扇はバカ(与太郎)、三平は坊ちゃん、円楽は腹黒い、たい平は騒々しい。
そして司会の昇太は嫁がもらえない中年男。これらのキャラにふさわしいネタを振って回しているのだから、ハズレがない。
それが笑いのプロはまたまた嫌だ。
一方、公開収録のお客さんは、笑い声から分かるようにほとんどがお年寄りで『お約束ネタ』を待っている。『お約束ネタ』とは、そのネタを見に来ているのだからやってくれないと客に不満が残ると言うネタである。
ある時期の小島よしおを見に来たのに「関係ない」をやらなかった、というようなことである。『笑点』ではそれは絶対にない。ほとんどが『お約束ネタ』で構成されているからである。
そこがまた笑いのプロは嫌である。
通常、芸人は『お約束ネタ』を持つと強くなるので持ちたいが、やり続けるのは嫌である。飽きられるのも早くなるからだ。でも『笑点』では飽きられない。むしろそこを脱線したときのほうが笑いは少なくなる。
見慣れないもの、安心できないものを笑いは尊ぶが、『笑点』ではその法則は成り立たない。
この点も笑いのプロは嫌である。
演者が落語家である点も、笑いのプロからは嫌がられる。落語家口調、着物、爆笑ネタではなく芸を見せる演芸家。そんな点である。
【参考】<適任?不適任?>「笑点」新司会者・春風亭昇太の可能性
筆者が、そんなに嫌っているはずの『笑点』が進化していた。10月16日は素直に笑えたのである。
その功績の多くは新司会の春風亭昇太にある。昇太はどのネタもきちんと拾う。木久扇はこれまで痛々しさしか感じなかったが昇太のいじりで再生している。
三平のつまらなさを昇太が笑いに変える。昇太とたい平は仲が良いのだろう、チームワークが出来ている。演出家には指示されなかったはずのやりとりを見事にこなしていた。ここは笑った、
さて、10月16日の日本テレビ『笑点』は週間キングで日本で2番目に視聴率の良い番組だった。フジテレビは手をこまねいている場合ではない、裏に得意の笑いの番組をぶつけて『笑点』をつぶしに行くべきである。
ついでにTBSは日本で1番目に視聴率の良い良かったNHKの『べっぴんさん』裏に昔のように15分ドラマのテレビ小説をぶつけて、得意技でNHKを沈めに行くべきである。『あさチャン!』や『ビビット』で、お茶を濁している場合ではない。
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