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<どこがWin-Winなの?>日本から経済協力だけ取り付けて完勝したロシア

メディアゴン / 2016年12月17日 7時40分

保科省吾[コラムニスト]

* * *

12月16日午後3時半過ぎから首相公邸で行われた日ロ首脳による共同会見を生中継で見て驚いた、腹が立った。

大方のテレビニュースではこの部分は触れられることはないだろうから、備忘録としても記事を書いておく。

冒頭の首脳それぞれの声明は後回しにして、その後に行われた記者のインタビューから触れる。

まず、司会者からそれぞれの所属を述べて、誰に対する質問かを明らかにするように求められる。最初に立ったのは北海道新聞の記者である。

 記者(北海道新聞)「安倍晋三首相にうかがう。16回目の会談となったが、領土交渉そのものの進展について手応えを得ることができたか。それとも双方の認識にかなりの隔たりがあるのか。首相は「時間がない」という元島民の気持ちを強調したが、領土問題の解決には相当時間かかるとの認識か。今後協議する共同経済活動について日本政府は法的立場を害さないことが前提条件との立場だが、今回の特別な制度はこの立場を変更するものではないと受け止めていいか」

この質問はプーチン大統領にぶつけるべきである。これを安倍首相に聞いても興味深い言葉は引き出せないだろう。案の定、安倍首相は

 安倍首相(62歳)「今回、ウラジーミルを私の地元の長門市にお迎えしました。そして昨日は夜の11時35分まで約5時間会談を行いました。そして2人だけで95分間、膝を突き合わせて2人だけの会談も行いました。じっくり話し合うことできたと思います。そしてその結果、平和条約問題を解決するとの真摯な決意、両首脳の真摯な決意を示すことできたと思います。解決にはまだまだ困難な道は続きます。なんといっても70年間、解決できなかった問題でありますし、その間、長い間交渉すら行われてこなかった問題ではありますが、今回、まずはしっかりとした、大きな一歩を踏み出すことできたと思っています」

何分話し合ったかを知りたいわけではない、何とな内容のない答えか

次に立ったのはロシアの女性記者。

 記者「プーチン大統領にうかがう。シリア情勢について。シリアの軍隊は(シリア北部の都市)アレッポでいい結果を出しているとか戦闘が続いているとかと、大統領は現状をどのようにとらえているか。どのような展望を抱いているか。アレッポの現状を良くすることは可能か」

シリア情勢が、日ロの首脳会談より喫緊で大きな問題なのは分かっている。しかし、ここは、その世界情勢の中ではほんの一点かは知れないが、日本にとっては大事な場所なのである。フランス、アメリカとイギリスは、ロシアが支援するシリア軍の対アレッポ作戦を、犯罪的で、一般市民に害を与える残忍なものとして、9月の最後の週に、停戦が崩壊して以来、ロシア空爆がアレッポの一般市民を殺害しており、病院や人道支援施設を標的にしていると主張にしている。

【参考】日ロ両政府が北方領土共同統治案を検討するホントの理由

また欧州連合(EU)の28加盟国はこの会見の前日の15日、ブリュッセルで開いた首脳会議で、ウクライナ東部の紛争をめぐり、来年1月に期限を迎える対ロシア経済制裁について、7月まで半年間延長することで合意した。

プーチン大統領は記者の質問に、

 プーチン大統領(64歳)「今のシリアの情勢については、シリアとロシアと、国際間でしっかりと意見交換ができていないことの象徴です。われわれは協力し合うべきです。アレッポはとても重要な問題で、最近の事情は、今こちら(東京)にいるのでちょっと分かりませんが、トルコのエルドアン大統領と話をしたことをもとに合意したことが行われていると思っています。作戦が成功し、国民が普通の生活ができると信じていますし、何千人もの人々が自分の家に帰っていることができています」
 「次のステップは、停戦を合意すること、シリア全体で停戦を実現することです。われわれはトルコと共同で協議をしておりまして、エルドアン大統領とも合意したことは、継続的に平和的交渉を新しい場面で行う方針を決めています。カザフスタンの(首都)アスタナに話し合いの場を移したいと考えており、ジュネーブでの交渉(シリア和平協議)に追加する措置として考えています。そして政治的な合意点を見いだそうと、われわれは頑張っています」

日ロ首脳の共同会見はロシア側の正当性を主張する欧米へのメッセージを発する場所に使われた。「それに私(プーチン)はあなたたちの同盟国である日本からこんな経済協力まで引き出したのですよ。日本や欧米は一枚岩ではないとずっと思っていましたが今日それが証明されました」というメッセージである。

続いて日本側記者(産経新聞)。

 「プーチン大統領にうかがう。今回の山口、東京での会談を通じて、大統領にとって政治分野、経済分野のそれぞれの最大の成果は何であったか。共同経済活動をどのように平和条約締結に結びつけていくのか。平和条約締結に関しては、先日の日本メディアとのインタビューで「われわれのパートナーの柔軟性に関わっている」とも述べた。かつては「引き分け」という表現も使った。大統領の主張は後退しているような印象があるが、日本に柔軟性を求めるのであれば、ロシア側はどんな柔軟性を示すのか」
 プーチン大統領「その質問に満足に答えるためには、まずとても短く歴史の問題に触れる必要があります」

(ロシア帝国の海軍軍人エフィム・プチャーチンが1853年、日本に来航し日露和親条約を締結したことに触れる。日露戦争後のポーツマス条約など両国の国交史について説明)

<筆者補足>日露戦争は、1904年- 1905年。大日本帝国とロシア帝国との間の戦争。朝鮮半島とロシア主権下の満洲南部と、日本海を主戦場とした。両国はアメリカ合衆国の仲介の下で終戦交渉に臨み、1905年9月5日に締結されたポーツマス条約により講和した。日本はロシアからは樺太(サハリン)の北緯50度以南の領土を永久に譲渡される権益を得た。)

 プーチン大統領「その後、1945年の戦争の後、サハリンだけではなく南クリル諸島(北方領土)を(ソ連が)得ました」
 「昨日、非常に感動的な元島民の方々のお手紙を読ませていただきましたけれども、私たちの考えでは、このように領土をめぐる(主張を繰り返す)「歴史のピンポン」、卓球のように球をやり取りするようなことはもうやめた方がよいのではないかと思います。というのは、日本またロシアの主要な関心というのは、最終的な、そして長期的な(領土問題の)解決にあるということを理解すべきだ」

つまり、愚かな戦争の勝敗は日本の1勝1敗。日ソ不可侵条約を破って1945年4月5日、対日宣戦。その敗戦で以後、70年間日本は敗戦国なわけで、ロシアは北方領土を戦利品だと思っているので離さないのである。

 プーチン大統領「問題はたくさんあります。共同経済活動の問題もありますし、安全保障の問題もあります。1956(昭和31)年にはソ連と日本はこの問題の解決に向けて歩み寄っていき、「56年宣言」(日ソ共同宣言)を調印し、批准しました。この歴史的事実は皆さん知っていることですが、米国がこの地域に関心を持つ米国の当時のダレス国務長官が日本を脅迫したわけです。もし日本が米国の利益を損なうようなことをすれば、沖縄は完全に米国の一部となるという趣旨のことを言ったわけです」
 「なぜこのようなことを言ったかと申しますと、私たちはありとあらゆる地域内の国家に対して敬意を持たなくてはいけません。それは米国に対しても同様です。それは明らかなことです。つまり私たちにとってウラジオストク、その北方には、ロシアの海軍の基地があります。私たちは、ここにおいてどのようなことが起こるかということをいつも考えていかなくてはなりません」
 「日本と米国の特別な関係というものもあります。日米安保条約の中で、このような意味において、どのような展望があるのか、まだ私たちは分かりません。(日露首脳会談で)柔軟性ということを話したときに、私たちは日本のパートナーの友人の皆さんに、このような微妙な部分、またロシアの心配する、懸念の部分を考慮してもらいたいと思います」
 「私たちが「56年宣言」(日ソ共同宣言)に立ち戻りますと、日本に2つの島を受け渡すというふうになっていますが、どのような形で受け渡すかは明解に定義されていません。ただ、平和条約の締結の後に島を受け渡すとなっています。非常にプロフェッショナルに正確にやっていかないといけません。重要なのは、この島の利益に関係する人々のことを考えることが大事です。最終的な目的が大切です」
 「最初も申し上げましたが、もし安倍首相の計画が実現するのであれば、これらの島々はロシアと日本の反目のリンゴ(果実)ではなく、逆にロシアと日本を結びつける何かになりうるだろう」
 「もし誰かが、私たち(ロシア側)が経済関係の発展だけに関心があり、平和条約の締結を二次的なものだと考えているというのであれば、それは間違いです。私たちにとって一番大事なのは平和条約の締結なんです」

安倍首相の計画(経済協力)が実現することとリンゴ(北方領土)という果実は一体と言うことだ。

そして、ロシア側の二人目の記者はあきれることに、温泉と酒はどうだったかと言う質問だった。たった、2問しか質問できないのにこんな質問をするのは、よほど能力がないのか、バラエティ番組から派遣されたディレクターか、ロシア国民が日ロ首脳会談には何も興味を持っていないことの証左だろう。

【参考】<安倍内閣の反対論封じ?>自衛隊への敬意押し付けと起立・拍手の呼びかけ

さて、会見冒頭の声明にもどる。安倍首相についてはここ抜粋で充分だろう。

<安倍首相>

*「ウラジーミル・プーチン大統領、ようこそ日本へ。日本国民を代表して、君を歓迎したいと思います」

*「私たちの話し合いの進展を70年以上もの長きにわたり、待ち続けている人たちがいます。かつて、択捉島・国後島・色丹島・歯舞諸島に住んでいた元住民のみなさんです」

*「(日本人の旧島民は)最初はうらんでいたが、今は一緒に住むことができると思っている」と語り、北方四島を日本人とロシア人の友好と共存の島にしたいという、元島民のみなさんの訴えに、私は強く胸を打たれました」

*「人道上の理由に立脚して、(自由往来の)ありうるべき案を迅速に検討することで合意しました。

*「戦後71年を経てもなお、日本とロシアの間には平和条約がない。この異常な状態に、私たちの世代で、私たちの手で、終止符を打たなければならない。私とウラジーミルはその強い決意を確認し、そのことを声明のなかに明記しました。領土問題について、私はこれまでの日本の立場の正しさを確信しています。ウラジーミルもロシアの立場の正しさを確信しているに違いないと思います」

*「過去にばかりとらわれるのではなく、日本人とロシア人が共存し、互いにWin-Winの関係を築くことができる。北方四島の未来図を描き、そのなかから解決策を探し出すという、未来志向の発想が必要です」

*「これは平和条約の締結に向けた重要な一歩であります。この認識でもウラジーミルと私は完全に一致しました」

*「本日、8項目の経済協力プランに関連し、たくさんの日露の協力プロジェクトが合意されました。日本とロシアの経済関係をさらに深めていくことは双方に大きな大きな利益をもたらし、相互の信頼醸成に寄与するものと確信しています」

*「ウラジーミル、今回の君と私との合意を出発点に自他共栄の新たな日露関係を本日ここからともに築いていこうではありませんか。ありがとうございました。私からは以上です」

ファーストネームのウラジーミルを連呼し、「君と私」と言って親密さを演出する安倍首相。これを虚勢と言わずして何と呼ぼうか。一方、プーチン大統領。

<ウラジーミルという名のプーチン大統領(その1)>

*「尊敬する首相、お集まりのみなさま、まず最初にお礼を日本側に申し上げたいと思います。たいへん温かいお心こもったおもてなし、ありがとうございました」

*「日本は、我が国にとってアジア太平洋地域における重要なパートナーです。最近、両国の間では政治的対話も活発化しています。安倍首相とは今年4回目の会談である」

安倍さんとは今年になって4回もあっているというのは欧米への強力なメッセージである。

<ウラジーミルという名のプーチン大統領(その2)>

*「この両国関係を真のパートナー関係にし、質的に経済関係を高めなくてはいけない。この28パーセント下がってしまった貿易高は、これはさまざまな外的要因によるものですけれども、例えば天然資源の下落、それから政策、反ロシア制裁、対ロシア制裁などによるものでありますけれども。こうした財やサービスの両国間の流れを増やすために、一連の事業、優先分野における8項目の、エネルギー分野、農業などに関する協力について話し合われました。また、人的交流も含まれています」

*「両国の戦略的分野はこれはエネルギーですけれども、日本に石炭燃料・炭素燃料を供給する友好国です。日本の企業はロシアの、例えば、ヤマル半島での液化ガスのプロジェクトでも活発に参画していきます。日本やアジアに調達されていく石油やガスは、オホーツク海でも産出されますけれども、そうしたプロジェクトも検討されています。それから、サハリン、北海道のガスパイプラインも検討されています。こうした大規模事業ですが、日本の消費者には、それによってガスや電気が高くない価格で供給されていくことになります」

日本のエネルギーは現在10%近くをロシアに依存している。

<ウラジーミルという名のプーチン大統領(その3)>

*「今後、技術的分野での協力も行われていきます。国際工業展覧会がエカテリンブルクで2017年に開催されますが、そちらでも日本が参加します。ウリヤノフスクなどの自動車工場がありますけど、そちらとの協力も考えられています。他に医療や健康産業などの協力が考えられています」

*「医療、メディカルセンターや、診断センターなどの開設も検討されています。また、がんセンターなども検討材料です。交渉のときに検討されたのは、農業コンプレックス(コンビナート)の発展です。農地がありますので、そちらの作物を日本に輸出する可能性があります。極東の全体の発展、そしてこの地域、また、アジア太平洋地域の輸送システムに組み込むことを考えています」

*「オリンピックが東京で2020年に発表されていますけど、そういったイベントに準備をしていく。たとえば世界、地域の安全確保の分野は重要な点ですので、協力していくことを考えています。ほかの問題としては、北朝鮮の問題、そしてテロ対策という話があります」また、平和条約においても当然話し合われました」

*「(島民の往来に関しては)最大限自由法案を保証しようということですね。以前は閉鎖されていました。そこで自由な訪問。自由訪問について話をしました」「東方経済フォーラムがロシアで行われるときにお招きしたいと思います。ありがとうございます」

自民党の二階俊博幹事長は、安倍首相とロシアのプーチン大統領との首脳会談について「国民の大半がガッカリしているということを、われわれは心に刻む必要がある」と述べ、成果が不十分との認識を示した。

与野党内には安倍首相が今回の会談結果を受けて衆院解散に踏み切るとの憶測もあったが、二階氏は「首相からその解説を聞いていない。この程度のことは解散のテーマにはならないと思っていたから、なんでもない」と述べた。

さらに、北方領土問題を含む平和条約交渉については「解決の見通しがつくかのような報道が続いた。日本国民は『これで解決するんだ』と思った。なんの進歩もなくこのまま終わるなら、一体あの前触れはなんだったのかということを、日本の外交当局は主張しなければならない」と述べ、不満をあらわにした。

こうしたことを踏まえ、二階幹事長は「時間を区切った交渉のはずだ。経済問題も大事だが、人間は経済だけで生きているわけではない。もう少し、真摯(しんし)に向き合ってもらいたい」と述べてもいる。

二階幹事長は旧い自民党を象徴するような人物だと思うが、この発言には賛意を表する。

会見を聞いた直後の旧択捉島島民(学校教師であったらしい)は、こう述べる。

 旧択捉島島民・岩田宏一氏(87歳)「Win-winの関係だって(安倍首相が)そう言ってましたね。これについては疑問があります。どっち側のWinか。両方の国民にとってそう(Win-win)だったら良いけど、ロシア側としか、思えない」
 「閉ざされたところから、これから始めるのは、本当は大変だと思います。大体違う国民ですからね。それが一緒になるってことは、私たちは戦争に負けたということが引っかかって、なんかやられたなって感じしかしないのが残念。Win-winというのは、そうじゃないですよね。両方の国民にとって良かれということだからね」

所管の大臣同士による経済協力の著名は交わされたが、安倍首相とプーチン大統領の署名は一切交わされていない。

ロシア国民が政権首脳とは違って頑迷ではないということを祈って希望を見いだすしかない。

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