<言葉だましの達人?>「ずらしの安倍」「すべりの小池」
メディアゴン / 2017年10月21日 7時40分
両角敏明[テレビディレクター/プロデューサー]
* * *
衆院選が始まったころ、党首討論会を視ていて沸々と腹が立ちました。有権者をどう騙すか、どうすれば印象操作ができるかばかりに徹している2人の党首がいたからです。
一方の雄は安倍晋三自民党総裁です。森友・加計問題を問われたときの安倍総理の答えはどの番組でも決まったパターンの繰り返しでした。そこには何気なく聞いているとつい納得してしまう狡猾な罠が仕掛けられていました。
(1)「この問題の本質はですね、私の関与があったかどうかにつきるんですね。」
(2)「私から直接に指示された方がいないことは、前川さんを含めて国会で証明されています。」
(3)「マスコミは伝えないが加戸守行前愛媛県知事が国会で、規制を打破し50年ぶりの獣医学部設立は、行政がゆがめられたのではなく、ゆがめられた行政が正されたのだと証言しています。」
(4) 「検討は民間委員によって進められ、すべて議事録が公開されており、私(総理)が介入する余地はなく、八田会長も原英史委員も一点の曇りもないと国会で証言しています。」
(5)「籠池さんは詐欺で逮捕・起訴されている方で、妻は騙されたのだが、そのような人物の経営する学校と関わらない方が良かった。」
(6)「妻の証言については私が何度も国会で説明しています。加計氏については彼の判断です。」
(7)「森友問題は捜査当局が調べています。」
(8)「今後、この問題を国会などで問われることがあれば説明して行きます。」
(1)(2)まず「本質は私の関与があったかどうかにつきる」と決めつけます。そして、前川氏を含めて「私から指示された」と国会で証言した人は1人もいませんから、なんら問題がないことが国会で証明されている、と主張します。
これは安倍流の狡猾な論理ずらしです。そもそも問題の本質は総理の関与に「つきる」わけではありません。行政が公平で公正だったかどうかにあります。また国会で数人が「総理から直接の指示を受けていない」と証言したからと言って総理の関与がなかった証明にはなりません。さらに総理の「ご意向」や「忖度」の存在についてはまったく否定できていません。ごまかされてはいけません。
(3)問題視されているのは獣医学部設立認可という「結果」ではなく、認可決定に至る2015年以降の「行政プロセス」です。加戸氏が知事だったのは2012年までなので、その後の行政プロセスについての当事者ではありません。
安倍さんら一部の方々による激しいマスコミ批判を含む加戸発言重視は、問題点解明からは焦点がずれています。
(4) この問題の重大な疑義は委員会審議よりも内閣府や官邸の動きにあるのですから、総理の主張はこれまた問題点を本質からずらしています。また、民間委員による委員会審議についても、いわゆる石破4条件について既存の獣医大学への調査をしておらず、獣医師需要の判断経過にも疑問があります。
議事録も未公開部分に疑問の声があり、一点の曇りもないという状態ではありません。
(5)籠池氏が逮捕・起訴されたのは助成金の不正受給であって8億円の値引き問題ではありません。8億円値引きへの好ましからぬ関与もしくは影響力行使を疑われるのは安倍昭恵夫人です。籠池氏を犯罪者と決めつけて国民の視点を昭恵夫人から籠池氏へずらすのは卑怯なやり口と言うべきでしょう。
【参考】<衆院選の争点>自公与党勢力の過半数維持で消費税増税
また籠池氏は判決前ですから今は推定無罪の身です。にもかかわらず、総理大臣という国家行政の長が推定無罪の一国民に対し、逮捕事案とは別の事案について、再三再四テレビなどの公の場で具体的に個人名と罪名を挙げて誹謗を繰り返すのは、人権侵害ではないのでしょうか。
某ニュースに出演した安倍総理は籠池氏が詐欺で逮捕、起訴された人物であることをなんと4回も繰り返し発言しました。ここまでやると、テレビを使った総理大臣による不当な「公開いじめ」なのでは。
(6) 安倍総理が昭恵夫人の代わりにいくら答弁しようが単なる「伝聞」にすぎません。「伝聞」は刑事裁判なら証拠にもなりません。昭恵氏は公的活動もする公人であり、100万円授受、財務省FAX問題など、重要な疑惑の当事者です。
昭恵夫人と谷査恵子さんが本当のことを証言すれば確実に森友問題のかなりの部分が解明されます。総理大臣が責任を持って代弁しているのだから納得せよというのは、明らかに思い上がりであり問題解決への道筋隠しです。また加計問題では加計氏こそ当事者です。使われるのは税金ですから、説明する、しないは個人の自由というよりも義務と言うべきです。
(7)違法性だけに問題点をずらしてはいけません。行政のあり方について、国会でこそ解明すべきです。
(8)ていねいに説明すると言っていたのが舌の根も乾かないうちに「問われれば説明する」に変わりました。応援演説では9条改正問題とモリカケ問題は触れもせず、明らかに選挙の争点をずらしていました。そしてこれからは問われない限り答えない、と言っているのです。
安倍総理が「ずらし」の達人ならもうひとりの達人は希望の党・小池代表です。かつてはキャッチーな言葉の達人でしたが「さらさら/排除」発言以降、どうにも「言葉すべり」がとまらないようです。
「寛容な保守」「しがらみのない政治」「ユリノミクス」「ベーシックインカム」「原発ゼロ」「ワイズスペンディング」「ダイバーシティ社会」などなど、あたかも広告代理店のごとく、はてしなくキャッチフレーズを生み出しますが肝心の中身が見えません。言葉だけが上滑りしていては人の心はつかめません。
たとえば、「寛容な保守」ですが、「寛容」とは何を指すのですか。たとえば、「しがらみのない政治」ですが、連合はしがらみではないのですか。たとえば、「ユリノミクス」ですが、中身は規制改革を進めますっていうだけのことですか。たとえば、「ベーシックインカム」ですが、中身を問われると、今は実験中の国が・・・モニョモニョモニョ・・・で終わり。実験結果が出てから提案された方がよろしいのでは。
【参考】<またも沖縄で米軍ヘリ墜落>選挙の争点は「モリカケ」「原発」「沖縄」の徹底確認
たとえば、「ワイズスペンディング」ですが、お金を賢く使いましょうというだけなら子どもへの小言。国家予算のどこをどう削って、どこにどう使うのか具体な施策を示すのが公約では。たとえば、「憲法9条をふくめ、改正論議を進めます」ですが、どうすすめるのですか。希望の党は9条をどうするのかをけっして語りません。
しかし小池代表は自民党時代の憲法論議で自衛隊を国防軍として位置づけると主張したそうですし、日本は核武装の研究を排除すべきでないと語った方でもあります。
希望の党には小池代表の友人で日本のこころ出身の中山成彬・中山恭子ご夫妻もいます。お2人は憲法改正どころかもっと右の自主憲法論者です。小池代表は憲法問題をはじめホンネは自民党よりはるかに右と指摘する人が少なくありません。
しかし、「憲法9条をふくめ、改正論議を進めます」という言葉が存在しても、その実を説明しなければ希望の党が憲法9条をどうしたいのかは伝わってきません。これは9条に対するホンネを言いたくない小池さんの意図なのかもしれません。
政策を詰める時間もなかったのでしょう。そして右から左まで、幅広く有権者の支持を取りたかったのでしょう。しかし、そのために抽象的で中身の見えないキャッチフレーズを数限りなく並べたてただけでは、言葉が上滑りするばかりで、貴重な一票を投じるほどに希望の党を信用することはできますまい。言葉の上滑りで始まった雪崩は、選挙が終わり、様々な動きの末に希望の党の大崩落へつながるのかもしれません。
政治は言葉だ、と言われます。しかし本当のことを言葉にしない政治は不毛です。
モリカケ問題が重大なのは、このままでは官僚や政治家が事実を隠し、言を左右に本当のことを言わないで済ますという、実にデタラメな国会審議がまかり通ってしまうことです。どんな法案や条約や施策も、本当のことがすべてテーブルに乗せられて審議されなければ正しい結論にたどり着くことはできません。
言葉を、あるいは言葉で、事実を巧妙に隠してしまう人だけが力を持ち続けるのは明らかに国難です。
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