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<M-1全ネタ批評>テレビ的に誰が売れるか?を予測する

メディアゴン / 2017年12月5日 7時30分

高橋維新[弁護士/コラムニスト]

* * *

2017年も「M-1グランプリ」(テレビ朝日)が開催・放映された。

今年の大きな変更点は、敗者復活組も含めてネタ順を本番中のクジで決めるようになっていたことだった。

最後に一番会場が盛り上がったタイミングでネタをやる敗者復活組が不当に有利になることへの配慮のようだったが、その代わりにいちいち生でクジを引くのでテンポが悪くなっており、会場の客が冷えているのではないかと心配になった。

そのうえ今年は番組が始まってから1組目がネタを始めるまでの時間も長く、前説でいったん盛り上がった会場がまた冷えたのではないかということがやっぱり心配になった。やっていることがチグハグなので、なんとかした方がいい。

【参考】「M-1グランプリ」は深夜帯にこっそりやるようなコンテンツだ

そのうえでまず、各ネタの寸評を書く。

(1)【ゆにばーす】男女コンビである。非常に実力はある。特に女性のはらの方は、ブスのフラに加えてしずちゃんのように少しヘタクソな感じで変な人を演じるのが巧い。売れると思うが、最近ブスの女芸人もライバルが非常に増えているので、頑張って欲しい。

(2)【カミナリ】ネタの評価は難しい。カミナリの魅力は、少し変なテンポと、少し変なボケであり、それが相俟って生じる独特の空気感なのだが、ボケの内容の変さがイマイチだったかしら。

4位以下に落ちて敗退時のコメントをとられたときに、ネタ後に上沼から言われた「ド突く必要性がないのではないか」というアドバイスを直ちに取り入れられていたのはエラい。ああいうことができるのであればテレビで生き残っていくことはできるだろう。

(3)【とろサーモン】ベテランらしい落ち着きは出ていたが、4分という短いネタ時間の割にはボケの数が少なかったかな。

(4)【スーパーマラドーナ】「おネエ」や「カニ」みたいな最初にバラまいた伏線が後から回収されるネタの構成は良い。事前に台本を考えるからにはこれぐらい練らないといけない。

このコンビは、ボケの田中がやっている一人寸劇を第三者的立場で見ている武智がツッコんでいくのがスタイルである。田中の寸劇には田中以外の登場人物が大量に登場するので、3人以上の演者がいたらどんな感じになるのかというのは気になるところである。

(5)【かまいたち】あんなスピードでのしゃべくりもできるんだな、という感想である。タイムマシーン3号みたいな隙のない器用貧乏さが逆に怖くなってしまった。もっと間の抜けた感じを見せないとスターにはなれないのがお笑いの難しいところである。

(6)【マヂカルラブリー】ミュージカルを題材にボケの野田が激しく動くネタであり、決勝組の中では一番トリッキーだった。ただボケのパターンが「演者と思わせて客だった」というものばかりだったので(それもトリッキーさを増すために敢えてやったことかもしれない)、客以外の登場人物(それこそ演者とか、警備員とか)を出しても良かったんじゃなかろうか。

(7)【さや香】新山が、男前ですごく偏執狂的な人物を演じきれている。徳井的な売れ方をするんじゃないかしら。ただノリ方がずっとハイテンション一本調子で、前のマヂカルラブリーのようにワンパターンだったので、たまに冷めたりするのを混ぜ込んでもいいんじゃないかしら。

(8)【ミキ】ネタの半分くらいを費やした「金」の書き方のクダリがそんなにハマんなかったな。そこに時間を割き過ぎだと思う。実力は文句ないが、おもしろさの大半は二人の動きがハイスピードで合うところから生じる。それも反復練習の賜物であって、強みは兄弟ならではだが、それを全て剥ぎ取ると多分言っていることそれ自体はダジャレ的なしょうもないものである。

ボケがベタだというのは松本も大吉も言っていたが、あの手のボケは亜生みたいなシュッとした人がやってもそんなにウケるものではなく、ザキヤマみたいなフラ持ちにやられるとかなわない。方向性は考えた方がいい。

(9)【和牛】前半を丸ごと伏線にして、後半にそれが次々回収されていくというすごく複雑な構成だった。スーパーマラドーナの項でも言ったが、事前にネタを作るならこのくらい練らないといけない。和牛の強みは水田の神経質キャラなので、それをもう少し出して欲しかった。あと松本が言っていたように水田は前半と後半で演じている人物を変えていたのだが、そのこと自体は大して重要じゃないだろう。

(10)【ジャルジャル】これもかなりトリッキーなネタだったが、一本調子だったので「ピンポイント」みたいな裏切りをもっと入れ込んで欲しかった。

そもそも、ネタというよりは相手が言ったフレーズに合わせて決まったフレーズを言わなければならない合言葉ゲームのような感覚が強く、とちった方がおもしろいと思う。第三者にアドリブでフッてもらったらどうなるかというのを見てみたいが、ジャルジャル2人だとそれはできない。それは、ジャルジャルの限界というより、「ネタ」というフォーマット自体の限界である。

【参考】<「M-1」よりはマシ?>「THE MANZAI」もネタを垂れ流すだけの番組だ

続いて「最終決戦」について評する。

(1)【とろサーモン】多分、2人とも力はあるのだが、何と言っていいのかがよく分からない。何で優勝できたのかもよく分からない。筆者は、とろサーモンのネタの中ではめちゃイケの笑わず嫌い王決定戦(2005年2月19日・26日放映)で見せたスカシ漫才が一番好きなのである。これも恐らく本人たちは言われたくないのだと思う。

(2)【ミキ】1本目のネタをフリにしたボケを入れていたのは流石である。感想は1本目と同じで、言っていることそれ自体はしょうもなく、ハイスピードで合ってくる2人の動きが笑いの中核を為していた。1票も入っていなかったのは不思議だったが、多分僅差なんだろう。

(3)【和牛】1本目と同じで前半のフリが後半に活きてくる構成だった。しかも水田の神経質なキャラという強みがガッツリ出てきたので1本目よりは好きだった。

以上が各ネタの寸評である。以下に今年のM1全体の総評を述べたい。

司会の今田が盛んに「今年はレベルが高い」と言っていたが、その通りだった。ネタのみならず、ネタ後の今田との絡みも全体的に面白く、事前にネタ合わせをしたんじゃないかと思わせるレベルだった。

とはいえ、事前に考えた台本を披露するだけの「ネタ」というフォーマットでは、笑いも頭打ちになってしまう。天然ボケの方がおもしろいのは、明白なのである。「ネタ」には、芸人が自分の実力を訓練するための材料として、あるいはコンテンツの作り手側がこれらの芸人の実力を見極めるための品評会としての存在意義しか最早ないと思っている。

M-1は、その意味での「品評会」の親玉ではあるだろうが、別にこれよりおもしろいものはいくらでもある。だからこそ、ゴールデンに時間をとってやるのではなく昼間や深夜にひっそりとやるべきだと筆者は考えている。

品評会として見た時に、筆者がテレビ的に売れる(=使いでがある)と思ったのは「ゆにばーす」はらと「さや香」新山である。

ただし、筆者は2015年のM-1でも、カズレーザーより安藤なつの方が売れると言って見事に外しているので、あくまでも参考程度にして欲しい。結果は来年の今頃には明らかになっているだろうが、みんな頑張って欲しい。

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