<挺身隊訴訟>三菱重工「ロゴマーク=ブランド」差し押さえの悪質性
メディアゴン / 2019年3月29日 7時30分
藤本貴之[東洋大学 教授・博士(学術)/メディア学者]
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韓国「元挺身隊」訴訟で、韓国裁判所が三菱重工業の資産差し押さえを認める決定を出した。その中には三菱重工と三菱重工グループのロゴマークが含まれており、すでに韓国特許庁での登録名義も変更されているという。
三菱重工といえば、三菱グループの中核となっている企業であり、その歴史は1884年(明治17年)の「長崎造船所」まで遡る。「三菱重工業」という社名・ブランドも1934年(昭和9年)からスタートし、明治以来の我が国の近代化を牽引した企業の一つだ。トヨタやホンダ、ソニーなどと並ぶ「日本の顔」とも言える企業であろう。
そんな三菱重工のロゴマークが、過去の日韓請求権協定で解決したはず案件による一方的な裁判の不当な結果によって差し押さえられるという状況に対して日本政府は本件の悪質性を理解し、もっとシビアに危機感を持たなければならない。すでに名義も変更されているのだから事態は深刻だ。
日本政府が「現金化されていない」という理由で、まだ交渉による解決を目指しているのだとすれば、それは大きな間違いだ。三菱重工ロゴマークの差し押さえが単なる知的財産権の差し押さえではなく、作り上げることが容易ではないブランドや信頼性の損失であることを理解し、ことの重大さをより一層理解すべきである。
不動産や物理的な商品あるいは現金が差し押さえられることのダメージは誰にでもわかる。しかし、奪われることで本当にダメージが大きいのは、目に見えない価値、すなわちブランドや信頼、コーポレートイメージだ。価値あるブランド、高い信用性、前向きなコーポレートイメージは、短期間に作れるものでも、金銭で買えるものでもない。企業として地道な積み重ねだけが生み出すことができるものがブランドであり、それをデザインしたものがロゴマークだ。シャネルのバッグは、シャネルのブランドすなわちそのロゴマークにこそ最大の価値があるのと同じように、「日本ブランド」である三菱重工ブランドの価値、ロゴマークの価値は計り知れないほど大きい。
現金化がされていないとは言え「いつでも売却可能な状態」が公言されているということは、日本を代表する三菱重工ブランドが「外国人(韓国)の一存でいつでも、誰にでも売れるんだよ」ということが吹聴されていることをも意味する。売却された相手が悪質な企業や国家であれば、それを取り返すことは難しいだろう。
もちろん、三菱重工としては「差し押さえに伴い、新たなコーポレートデザインを開発しました」という柔軟な発想もあるかもしれない。しかし、ブランドを表現するコーポレートデザインは信頼性という観点から見ても、コロコロと変えるべきものではない。そんな軽はずみなことは企業としての信念や信頼の問題からすべきことではない。
明治の日本開国以来、三菱グループが作り上げてきた至高のブランドを象徴するロゴマークが差し押さえられているということは、日本国の価値やブランドが韓国名義に変更されたにも等しく、日本が被る損失は、現金や不動産の差し押さえなどとは比べ物にならないほど大きい。ロゴマーク=ブランドが差し押さえられるということは、それほど大きな意味を持つのである。
もちろん、原告たちが賠償額である約7500万円という目先の現金のための売却したとすれば、三菱重工は自らが育ててきたブランドである自社のロゴマークの利用のために巨額の利用料を支払わねばならない。日本ブランドを人質にとるには7500万円という金額はあまりにも安い金額だ。一歩間違えば得体の知れない企業が三菱重工のオーナーのような振る舞いさえしかねないだろう。
今回差し押さえられたロゴが三菱グループのいわゆる「スリーダイヤ」ではないとはいえ、決して甘く考えてはならないのがロゴマーク=ブランドというものだ。韓国に三菱重工に匹敵するブランドを持つ企業がどれほどあるのかは分からないが、日本が数々の産業ブランドによって国力を高め、国際競争力を高めてきた国であるという事実は忘れてはならない。
日本国政府は対応を検討する上で、「まだ現金化されていない」という前提に立つべきではない。これがまかり通れば、続々と日本の有名企業、有名ブランドが「戦犯企業」のレッテルを貼られ、金銭では買えない尊い「ブランドという資産」を差し押さえられてしまう危険性すらある。
韓国原告団の「現金化」という手続きを待つまでもなく、今すぐにでも三菱重工業をはじめとした日本ブランド保護のため、あらゆる策を打つべきだ。ロゴマーク=ブランドの持つ重要性と見えない価値について、ぜひ多くの日本人に理解をしてもらいたい。
倒産したわけでも自ら売却したわけでもない日本企業のブランドが、根拠なき言いがかりによって外国に管理されているのである。今回の韓国の決定がいかに悪質で、日本ブランドへの損失危機であるのかについても、考えてほしい。
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