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<衝撃の本>アスペルガー医師がナチスの協力者だった?

メディアゴン / 2020年5月8日 18時26分

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高橋秀樹[放送作家/発達障害研究者]

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衝撃的な本が2019年6月に邦訳出版された。『アスペルガー医師とナチス 発達障害の一つの起源 エディス・シェファー (Edith Sheffer著、山田美明翻訳)光文社』である。

なぜ、衝撃的なのか。1944年に自閉症の一類型であるアスペルガー症候群の論文を世界ではじめて書いたハンス・アスペルガー(Hans Asperger:オーストリア・ウィーン生まれの小児科医)。彼が、ナチス・ドイツがすすめた優生思想による障害のある子どもの殺人プログラムに「積極的に協力」していたとする著作だからである。

筆者は、当事者の活動に参与しながら観察を続ける在野の発達障害研究者であるが、筆者などより知識のあるきわめて多くの発達障害の権威が、アスペルガー医師の業績を賞賛している。それが、一転する事態なのである。

そもそも、自閉症概念の成立に功績のあった医師として二人の名が挙げられる。まず、レオ・カナー(Leo Kanner:オーストリア系アメリカ人)。カナーは現在の自閉症概念に当たる症例を1943年に報告した。カナーが報告した例は、一見して、聡明な容貌をしているが、重度の知的障害を持っていた。このタイプは「カナータイプの自閉症」と呼ばれる。

同じ頃、アスペルガーは、カナーが報告した症例と似て、社会性に乏しく、自閉的傾向にはあるがはあるが知的障害のない症例を報告した。しかし、アスペルガーの論文はドイツ語でしか書かれなかったために人口に膾炙することはなかった。

これを、アスペルガー症候群と名付けたのは、イギリスのローナ・ウィング(Lorna Wing)である。彼女はアスペルガーを再評価し、その業績とアスペルガー症候群(「アスペルガータイプの自閉症」)の概念を世界中に広めたのである。さらに、ウイングは自閉症を社会性、社会的コミュニケーション、社会的イマジネーション、それぞれに質的な偏りがみられる、「3つ組の障害」と定義した。

自閉症の診断概念は今も揺れており、現在は、アメリカ精神医学会の操作的診断マニュアルDSM-5精神障害の診断と統計マニュアル(2013年)や、WHOによるICD-11『疾病及び関連保健問題の国際統計分類』( 2019年)では、アスペルガー症候群の名は消え、知的障害のあるなしもふくめて、自閉症スペクトラム(Autism Spectrum Disorder 略称:ASD)として捉えることになっている。

[参考]<自閉症スペクトラム誤診の理由>実は一番伝わるエンタメ系情報?

スペクトラムとは連続体という意味で、筆者は定型発達者(健常者)から、最重度の自閉症者までが連続体になっていると考える。誤解を恐れずに言い切ってしまえば健常者から最重度自閉症者までがグラデーションになっていると考えてもらっても良いと思う。ただし、個々の自閉症の呈する状態は分類できるような一様さではないので、グラデーションはあくまでイメージである。

しかし、このような現状の中でもアスペルガー症候群の名は社会には残ると思われる。それはアスペルガー症候群が、知的障害のない自閉症と定義されるからである。さらに重度の自閉症とは、必要とされる合理的配慮が、全く異なるからである。ここを助けてもらえば、社会参加が容易になるという点知的障害のあるなしでは、全く違うのは容易に分かるだろう。日本の発達障害者支援法の中には、アスペルガー症候群の名が残っているし、若い人のあいだではアスペとかアスペちゃんという略語が気軽に使用される。

そのアスペルガー症耕群の元になったアスペルガー医師がナチスの協力者だったというのである。

本書の著者は『第一にアスペルガーはナチスの党員ではなかったが、ナチスの関連団体に所属していた。第二にナチスから要注意人物としてマークされていなかった。最後に彼は障害者が「安楽死」施設に送致されることに加担した、というのである』(岩波明氏解説より引用)

ナチスの優生思想の政策は不治の障害者をガス室に送ったり、薬物で殺害したりした。重い知的障害は、社会的に生きる価値がないと判断された。その時代を生きたのが自閉症研究者ハンス・アスペルガーである。知的障害のある自閉症者と、それがみられない自閉症者の峻別。それははたしてどう意味があったのか。『(『アスペルガー医師とナチス』の著者は)この概念は、ナチスによる障害児の選別施策に関連して形成されたのだと主張している(前同・岩波明氏)のだ。

筆者は、自閉症を扱うメディアが(最近は発達障害としてひとくくりにされることが多いが)彼ら当事者がごく稀に持つ特殊で驚くべき能力に焦点を当てすぎることを日頃から苦々しく思っている。何年何月の何日が何曜日か直ちに分かるカレンダー記憶、驚異的な計算能力、暗記能力、写真像記憶。話には聞くが、少なくとも筆者はひとりもあったことがない。あったことのある多くの当事者は、ごく普通の、平凡な自閉症スペクトラム者なのである。

もしかしたら、アスペルガー医師は上記のような特殊能力のある子どもを探していたのではないか。もちろんこれは「推測」である。それがナチスに協力したということであったのかどうかについて、筆者は判断できない。

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