<劇中劇の難しさ>NHK連続テレビ小説『おちょやん』
メディアゴン / 2021年2月20日 7時30分
高橋秀樹[放送作家/発達障害研究者]
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2月8日(月)から2月12日(金)に掛けてのNHK連続テレビ小説『おちょやん』は、作品として若干辛いところがあった。筆者の考える理由は2つ。劇中劇の扱いと、主人公の「ちよ」を演じる杉咲花の芝居である。
杉咲花の芝居については簡単に触れる。感情を込めた表現の芝居において「大声を出す」表現しかやらないことが、気になってきたのである。本当はもっと芝居が出来る俳優だと思うので、この欠点は演出家の問題で、いずれ解決するだろう。
もうひとつは、ちよ達が結成した鶴亀家庭劇(モデルは松竹家庭劇)の劇中劇がはいるようになったことである。しかも、それは劇団の存続を掛けて社長の判断が下る大事な公演で、しかも、嘗ての天海天海一座の看板喜劇役者・須賀廼家千之助(星田英利)が加わって、芝居にダメを出すと言う、ドラマ全体にとっても大変重要なシークエンスの芝居である。しかも、この劇中劇には難しさに拍車を掛ける要素がある。
劇中劇(Story within a story)とは、劇の中でさらに別の劇が展開する「入れ子構造」によって、ある種の演出効果を期待する技法である。『おちょやん』の場合は「テレビドラマの中の劇」である。もっと限定して言えば「ストーリードラマの中の爆笑喜劇」である。この、劇中劇が「爆笑喜劇」でなければならないことが劇中劇のクリアハードルをきわめて上げるのだ。感動や泣きの芝居であれば、劇中劇をワンシーン入れて観客のリアクションを編集でつなげば格好がつくが、爆笑の劇中劇の場合、劇自体が爆笑でなければならない。さらに、客が本当に笑って居なければならない。笑う芝居は泣く芝居より難しい。
そう考えたときに『おちょやん』の劇中劇は笑えないものだった。井戸から旦那が飛び出そうが、スッポン(花道に切られたセリ)から飛び出そうが、これは単なる現象であって、笑いではない。しかも、観客役の俳優達は本当に笑って居るように見えなかった。
爆笑劇中劇の参考になる映画が2つある。
[参考]映画「アフリカ珍道中」がただの荒唐無稽では終わらない理由
ひとつはフランク・キャプラ監督のコロンビア映画『陽気な踊子』(The Matinee Idol:1928)である。主演のベッシー・ラヴ(Bessie Love)は、田舎劇団の主演女優。南北戦争を扱った悲劇を上演し、聴衆の絶大な支持を得ていた。たまたまこれを見た大映画会社の重役は、この劇をニューヨークで上演しないかと持ちかける。夢のニューヨーク。しかし、映画会社の重役はこれを悲劇ではなく喜劇として上演することを目論んでいた。2回はいることになる劇中劇の変わり身が見事である。ちなみに、劇中劇の方だけをピックアップして榎本健一の座付き作家であった菊谷栄(きくやさかえ)が翻案劇「最後の伝令」を書いている。
もうひとつは、青柳信雄監督の東宝映画『雲の上団五郎一座』である。榎本健一が座長を務めるどさ回り劇団雲の上団五郎一座は、地方で一旗揚げようとしていた。その劇団が大当たりをつかむのが劇中劇化して取り上げられる『お富与三郎』である。『玄冶店(源氏店)』(げんやだな)の場面を、八波むと志の蝙蝠安、三木のり平の切られ与三、由利徹のお富さん、豪華喜劇役者陣で演じる。このシーンが見たくて、この映画、ずいぶん探していたが、VHSしかないのである。東宝はこれをぜひDVDにすべきだ、日本喜劇の財産だから。話が逸れたが、見る限り『玄冶店』の劇中劇はセットではなく本物の劇場で撮られている。もしかしたら、劇場中継の映像をそのまま挟み込んだのかも知れない。三木のり平は、のちに劇場の『玄冶店』は、「そりゃ面白かったよ」と語っているくらいだ。
『おちょやん』は、松竹新喜劇の看板スター浪花千栄子さんがモデルだけに今後も劇中劇がたくさん登場するだろう。何かの参考になれば嬉しい。
ちなみに、松竹新喜劇は浅草軽演劇の流れを汲む。チームワークの芝居である。浅草で赤ふんどしで走り回るようなひとりウケのギャグをやる者は、チームからはじき出されて、吉本に流れていった。というのは浅草軽演劇を知る人の話である。
ところで、今後登場する、花菱アチャコ役の塚地武雅は楽しみだ。彦爺役でかつて出演した曽我廼家文童さんの軽い芝居も大好きだ。もう一度違う役で出して欲しい。
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