<日本のテレビ局の仕事と仕組み>テレビ局志望の就活学生が知っておきたいテレビ事情
メディアゴン / 2014年11月6日 20時34分
貴島誠一郎[TBSテレビ制作局担当局長/ドラマプロデューサー]
* * *
日本のテレビ局は「マスコミ(報道)」「広告(営業)」「芸能(制作)」という「3つの産業」が重なる業態です。テレビ局には「ステーション機能」と「プロダクション機能」があります。
「ステーション機能」とは番組送出技術、番組編成、広告営業、映画制作を含む事業部門、経理などの一般管理部門にニュース番組制作の報道部門が入ります。
「プロダクション機能」とはドラマ、音楽バラエティ、スポーツや情報番組の企画制作と中継やスタジオの技術部門などです。
総務省から放送免許を与えられているテレビ局は、緊急事態を伝えるニュース報道を義務付けられているので、報道番組制作は「ステーション機能」に入るのが本来です。CMの総量も規制されています。
世界的に言うと、「ステーション機能」と「プロダクション機能」を併せ持っている総合放送のテレビ局は日本、イギリス、ドイツなどです。かつて韓国もそうでしたが、現在は分化しつつあります。
アメリカや中国などの時差のある多民族国家は、ケーブルテレビ局が発達したり、ニュースやドラマやスポーツの専門チャンネルが多数あり、再放送も含めて番組数や放送時間が膨大なので、映画会社や制作会社などのプロダクションや、他国の放送局から番組を多数購入しています。
番組購入価格は自由市場なので、アメリカNBCの医療ドラマ「ER」は1stシーズンの購入価格(制作費)は1億円と言われていましたが、人気シリーズとなった2ndシーズンは2億円にはねあがり、シーズンを重ねるごとに上昇していきました。当然、制作会社のスタッフや俳優も大幅なギャラアップとなり、潤ったようです。
あるシーズンには別の有料ケーブルテレビ局がNBCより高額な購入価格を制作会社に提示し、目玉番組が他局に移動する危機がありましたが、NBCと制作会社の交渉で継続で決着しました。
いかにもアメリカらしいエピソードですが、日本の場合、2ndシーズンになっても制作費やギャラアップはほとんどありません。人気ドラマになれば、日本の俳優はCM出演で稼ぐこともありますが、アメリカの俳優はCM出演によるスポンサーからの制約を嫌うため、制作費から支払われるギャラが中心です。ハリウッド俳優が日本のCMでアルバイトしていると言われるのは、こういう理由からです。
契約社会のアメリカでは、CMの専属契約中の出演作品の内容や役柄からプライバシーや体重に至るまで、厳しい制限があります。日本のCM契約は、そこまで厳しくありません。結婚やスキャンダルでも、事前にスポンサーに告知すれば、すぐに契約解除にならないし、刑事事件にならない限り違約金の請求もまずありません。契約延長に影響があるぐらいです。
日本とアメリカのテレビ事情は、放送免許の規制や国内時差の問題、専門チャンネル数や有料チャンネル数の差、購入価格(制作費)の設定や俳優のCM契約など、多くの違いがありますから、アメリカがグローバルスタンダードにはなりません。
日米にはそれぞれ理屈にあった良さがありますから、グローバルというかアメリカ的な視点と日本的な良さをミックスすることで、日本の独自性が競争力を高めると思います。
時差がなく日本と同じスタイルだった韓国の放送局が、国のコンテンツ政策で海外番組販売価格を補填した結果、日本やアジアに韓流ドラマブームを巻き起こし、音楽やファッションも外貨を稼ぎました。
しかし、アメリカスタイルの制作体勢を目指して、ステーションとプロダクションが分化していった結果、俳優ギャラの高騰を招き制作費を圧迫し、一部を除いてドラマのクオリティや視聴率が低下しました。国がチャンネル数を増やしたのも打撃でした。韓流ドラマは一時の勢いはありません。
アメリカのテレビドラマは英語圏という最大のマーケットを持っています。ハリウッド映画の影響下、各国字幕で世界中をカバーしています。英語の表現もほぼ共通です。特に日本語の演技表現は、アジアや世界に伝わりにくい部分もあります。
英語圏に次ぐのは中国語圏です。ただ中国政府の海外番組購入時間数の総量規制があり、日中の政治的な問題もあって、シェアは数%に過ぎません。中国の放送局が日本のドラマを購入する基準は視聴率になりますが、日本国内で視聴率が高くても当局批判や倫理観に反するドラマは排除されます。
日本の番組販売の努力としては、国内視聴率にとらわれず、中国の実情に則した内容のドラマをプッシュすること、当初から中国マーケットを意識したドラマを企画制作することです。自動車や衣料は性能や価格が数値化されますが、コンテンツの数値化には無理があります。いわゆるコンテンツのローカライズが最重要課題です。
また、著作権上、好ましいことではありませんが、ネットで日本のドラマを見ている違法状態を完全に規制できない以上、結果的に政府当局の規制が行き届いていないネットが、日本のコンテンツの親和性を促進する可能性があります。その下地はもう十分にあると思います。
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