<NHK『さよなら私』はアラフォーへのエール>アラフォーは「自分が選ばなかったもう一つの自分の人生」を考えてしまう世代

メディアゴン / 2014年12月10日 16時31分

黒田麻衣子[徳島テレビ祭スタッフ]

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数年前に『セカンドバージン』(2010・鈴木京香主演)を生み出した、NHKの「ドラマ10(火曜22時)」枠が見逃せないおもしろさを放っている。民放は、シリアスなドラマにもコミカルなシーンを入れて一息つかせるが、NHKは遊びを入れず、どこまでもシリアスに丁寧に心情を描ききる。

今回、NHK「ドラマ10」で放送された『さよなら私』(2014年10月14日〜12月9日)は、永作博美と石田ゆり子のダブル主演で、真逆の生き方を選んだ二人の女性がある日突然入れ替わるお話。

神社の階段を転がり落ちた弾みに、互いの中身が入れ替わる・・・。まるで映画『転校生』(1982・大林宣彦監督)そのままなのだが、そのストーリーは、けっこう重い。

一児の母として、家事を完ぺきにこなす専業主婦の智美(永作博美)。なんの不満もなさそうな、絵に書いたような幸せな夫婦だが「セックスレス」。実は夫(藤木直人)は不倫をしていて、不倫相手はなんと智美の親友にして、 独身キャリアウーマンの薫(石田ゆり子)。

高校の同窓会で薫と再会した智美は、ひょんなことから夫の不貞に気づいてしまう。智美と薫は、思い出の神社で口論となり、二人して階段を転がり落ちた弾みに、中身が入れ替わってしまう。そして、二人は互いの人生を生きることになるのだが・・・。

主人公の二人は、アラフォー女性にとって「選ばなかったもう一つの人生」そのものだ。

男女雇用機会均等法が施行された1986年から、女性の社会進出が進んだ。パイオニアとして活路を拓いてきた世代の女性たちは、たしかに社会的地位を確立していったけれど、その「代償」として、捨てたものも多い。結婚、出産、幸せな家庭、子ども・・・。もちろん、結婚・出産と仕事の両方をしっかりと手に入れて、うまくこなしている女性もいっぱいいる。

しかし、人生の端々で、「仕事か彼氏か」「仕事か結婚か」「仕事か子どもか」の選択を迫られてきたのが、いわゆる「アラフォー世代」だったのではなかろうか。

この20年、仕事を選んだ独身女性のために、様々な流行語が生み出されてきた。

・「負け犬」
・「お一人様」
・「独女」

そして、独身ではないけれど、

・「ディンクス(DINK:Dual Income No Kids)」

なんて言葉も生まれた。

これらはすべて、「プライベートの幸せ」よりも「仕事の幸せ」を選んできた女性たちの生き方を肯定するために生まれた言葉だ。「結婚だけが女の幸せじゃない!」「『結婚してないこと=不幸』ではない!」という考え方であり、価値観だ。

こういった言葉はいずれも、そういう新たな価値観を、この日本社会に根付かせるために必要であったコトバたちだった。誤解しないで欲しいのは、この言葉はけっして自分たちを卑下するものではない、ということだ。いずれも、自分の選択を後悔してはいないし、胸を張って自分の人生を歩いてきたはずだ。

そんな「アラフォー世代」たちにとって、同窓会という場は、ある種、残酷な場所である。選ばなかったもう一つの人生を、容赦なく突きつけてくる。

 「もしも、あの時、別の選択をしていたら、今頃、私は、誰それちゃんのような生活をしていたのだろうか?」

と、友の生活に、選ばなかったもう一人の自分を重ねてみる。『さよなら私』は、まさに、同窓会のデジャブを、ドラマという形でアラフォー世代に提示した。全9話の前半で、「選ばなかったもう一つの自分の人生」を歩むことになった智美と薫の戸惑いを丁寧に描いている。

仕事、家庭、友情、親との確執--。

日々の生活の中で、悩む姿は、「等身大の私たち=アラフォー世代」の姿そのものであった。開いたパンドラの箱を、どう収束するつもりなのかと視聴者が不安に思いはじめた頃、ドラマは大きな転機を迎える。

智美の身体に、癌が見つかったのだ。不治の病をきっかけに、二人の女性はさらに深く悩み、傷つき、そして、互いの理解と信頼を深めていく・・・。最終回まで、本当に見応えのあるドラマであった。

薫の中に智美がいて、智美の中に薫がいる。この難解なシーンを、永作博美と石田ゆり子の二人の大女優は、見事に演じてくれた。不可解なハズの状況なのに、きちんと「二重構造」が見えたのは、二人の演技力の賜物だ。岡田恵和さんの脚本も秀逸であった。これを男性が書いているなんて、信じられない、と思うほどに、女心の真理を突いていた。

アラフォーという年齢は、選ばなかったもう一つの自分の人生を、どうしても考えてしまうお年頃であると思う。この『さよなら私』というドラマは、岡田恵和という脚本家から、世のすべてのアラフォー女性への、静かなエールのような気がした。

メディアゴン

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