<今年の紅白歌合戦の本当の見所>全盛期を知る元ディレクターが語る「聖子と明菜はライバルだったのか?」
メディアゴン / 2014年12月25日 0時24分
水留章[テレビ番組制作会社 社長]
* * *
先日のメディアゴンの記事(NHK紅白歌合戦「聖子VS明菜」はなぜ注目されるのか?)の中で、執筆者・岩崎さんが言及した「聖子vs明菜」という構図。これを見て、「なるほど当時はそういう見方があったんだなぁ」と松田聖子さんと中森明菜さんのデビュー当時の記憶が蘇ってきました。
「聖子さんが陽なら明菜さんは陰。見事に鮮明なコントラスト」
まさしくそれは、デビュー当時の2人の現場での挨拶にも現れていました。テレビ局に入る時は2人とも「業界」の挨拶である同じ「おはようございます」。しかし、聖子さんは大きな高い声で、明菜さんは小さな低い声です。対照的でした。
帰る時も、聖子さんは腰を90度に曲げて「ありがとーございますっ!お疲れ様でした!」とお辞儀。それに対して明菜さんは30度程度に頭をさげ、「お疲れ様」。良い、悪いではありません。個性です。
2人が良いライバル関係であった、ということは結果であったに過ぎません。全盛期に2人のそばで仕事をしていた筆者にとっては、それぞれの個性が抜群に際立っていましたし、楽曲自体も素晴らしかったので両者を比較してみるという気持ちは少なくともありませんでした。
2人のデビューからの3曲をそれぞれ思い返してみましょう。
明菜さんは「スローモーション(1982.5)」「少女A (1982.7)」「セカンド・ラブ (1982.11)」。
調べてびっくりしました。半年間で3枚のシングル盤を発売しています。どれも印象的な名曲。今でもカラオケで歌われているような曲ばかりでしょう。
スローモーションはサビ「♪出会いは〜」が耳に残る、彼女の歌唱力を十分意識して作られた、哀愁を感じさせる名曲。
「少女A」は歌詞が挑戦的で、8ビートのリズムに乗り、彼女の表現力が遺憾なく発揮された曲。そして大ブレイクという感じがした「セカンド・ラブ」は、「♪恋も二度目なら〜」という歌い出しを聞くだけで明菜ワールドに嵌まり込むオリコン初ナンバー1の曲です。
初めて彼女のデビュー曲を聴いた時、「上手いけれど曲がアイドルっぽくなく地味だなぁ」と当時は思いました。そして世間での反応もそうでした。分かっていなかったんですね、「スローモーション」の良さが。当時のアイドルは、松本伊代さんのようにデビュー曲でロケットダッシュする戦略が多かったので、明菜さんは出だしは「マズマズ」アイドルという感じだったわけです。
ところが、すぐ次に会った時にはもう2曲目「少女A 」発売になっていました。しかも、かわい子アイドルでは決して歌えない歌詞。言わば不良ソング。当時、未成年の容疑者を仮名で「少年A」という表記が馴染んだ頃だったんでしょう。タイトルが「少女A」。これには驚きました。是非歌詞を読んでみてください。山口百恵さんのキワキワ路線が子供騙しにさえ思えました。
「少女A 」が話題になりスマッシュ・ヒット。でもまだ変わった路線のアイドルという域は出なかったと思います。
そしてすぐに3曲目となります。個人的に不朽の名曲と思っている「セカンド・ラブ」。もうアイドルという枠を飛び越えいきなり「ディーヴァ(歌姫)」になってしまいました。当時の年齢はおそらく18歳になるかならない位です。
明菜さんはトップアイドルになる前に一流歌手になってしまったということなんでしょう。春にデビューして、暮れには大人の曲が歌える歌手になっていたのですから。
それに相対する松田聖子さん。デビューは明菜さんの二年前。年齢で言えば3歳年上です。やはり「聖子ちゃん旋風」の後に「明菜さん台風」が来た・・・という印象は間違えてはいませんでした。
聖子さん最初の3曲は、誰もが知っているであろう3曲です。「裸足の季節(1980.4)」「青い珊瑚礁 (1980.7)」「風は秋色(1980.10)」。彼女も半年で三曲を出しています。
デビュー曲「裸足の季節」は資生堂エクボ洗顔フォームのコマーシャルで使われ、サビが頭によく残りましたが、本人は唄だけでCM出演はしていませんでした。デビュー曲では、彼女の声を印象付けただけでしたが、2曲目の「青い珊瑚礁」が夏に発売されるやいなや、髪型とともに”聖子ちゃん”が一斉に世の中を制覇していました。
続く3曲目「風は秋色」は名曲で、秋にはヒットをしたものの、かわいそうなことに年末賞レースでは「青い珊瑚礁」ばかりがテレビの中では歌われることになりました。
3曲とも名曲・ヒット曲ですが、「青い珊瑚礁」の”大きさ”で「松田聖子」が早くも完成していました。勿論「聖子ちゃんカット」「フリフリ衣装」などなど、その年の年末各賞を獲った時の「涙」なども「聖子ちゃん」作りにとても寄与したと思います。
1980年代は沢山のアイドルが輩出された時代ですが、松田聖子さんの歩みがこそが今日の日本の「アイドル」という言葉の定義になっていたように思います。
「聖子=アイドル」という定義に当てはめて、
「他の子は、聖子(アイドルの定義)と比較して、どこが優れている」
「他の子は、聖子(アイドルの定義)と比べて、ここが足りない」
という視点で見られていたのではないでしょうか。酷い言い方ですが、他のアイドルたちは「その他アイドル」だったのではないでしょうか。松田聖子は「正統派アイドル」なのではなく、「アイドルそのもの」だったわけです。他には正統派アイドルはいなかったのです。
中森明菜さんはデビュー2曲で「その他アイドル」から「個性派アイドル」になり、3曲目で既に「歌手」になってしまいました。当時はアイドルを歌手とは思っていませんでした。ルックス、衣装、髪型、キャラクター。プラス、コマーシャル&デビュー曲で一人のアイドル誕生・・・という形式だったわけですから。
そう考えると、明菜さんは「正統派アイドルになれない悩み」や「脱アイドル(=聖子)」の必要性をそんなに感じなかったのではないでしょうか。歌唱する楽曲と自分の持っていたキャラクターだけで勝負が出来るようになっていたからです。
つまり、二人はアイドルのライバルではなく、あの時代における「歌手のライバル」だったんだな、と改めて感じました。
蛇足に成りますが、一人だけ、「脱アイドル」に成功したと思える人がいました。1985年に「なんてったってアイドル」を歌った小泉今日子さんです。是非歌詞を読んでください。秋元康さんの松田聖子スケッチと思えるのは僕だけでしょうか。この歌を歌った後、小泉今日子さんは「KYON✕2」になったような気もします。
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