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<司馬遼太郎を超えた!?>関ヶ原合戦「敗軍の将・石田三成」が兵を語る話題の歴史小説が面白い

メディアゴン / 2015年3月9日 2時55分

貴島誠一郎[TBSテレビ制作局担当局長/ドラマプロデューサー]

* * *

「敗軍の将、兵を語らず」と言いますが、岩井三四二さんの新刊「三成の不思議なる条々」(光文社)は、関ヶ原の合戦で西軍を率いた石田三成の挙兵の真実にせまる、ノンフィクション風の歴史小説。

関ヶ原から30年。江戸の商人がさる人からの依頼で、天下分け目の合戦で敵の東軍武将家臣、三成の側近、若き日の三成を知る尼など、それぞれの立場で三成と因縁のあった生き残りの関係者に、

・20万石の石田三成がなぜ西軍の大将たりえたのか?
・三成の関ヶ原には勝算はあったのか?
・天下の道理は三成と家康のいずれにあったのか?

を尋ね歩きがら、関ヶ原開戦の裏事情と語ることのなかった敗軍の将・石田三成の周囲から「兵を語らせ」三成の素顔にせまります。

この小説の見立てをサラリーマン社会に例えると、豊臣秀吉専務のもと、バリバリの敏腕営業マンタイプの福島正則や加藤清正とは違って、色白の小男・三成は営業(=戦場)経験は少なかったが、経理(=算盤)とコンプライアンス(=道理)に優れ、非現場の企画畑で出世街道を歩み、清須会議という信長亡きあとの取締役会で社長に選出された秀吉から、三成は専務に抜擢。秀吉直系の家臣ではない大大名は五大老という副社長に就任・・・といったところでしょうか。

しかし、社長に忠実でエリートコースを歩む人物にありがちな、現場の空気が読めない官僚タイプだったので、極寒の朝鮮出兵で苦労した福島正則ら部長クラスの豊臣家臣七人衆から、女より怖いとされる男の嫉妬から、「秀吉社長へのゴマスリだけで出世しやがって!」と、営業畑の筆頭副社長・徳川家康の派閥への寝返りを許してしまう。

佐和山城の蟄居を経て、秀吉の死後、幼き若社長・秀頼を毛利輝元副社長に預け、元専務の三成は豊臣政権転覆を目論む家康副社長に対し、後に「三成の条々」と呼ばれる豊臣政権の正統性(道理)と家康追放のお触れ書を秀頼社長名で出し、関ヶ原の合戦に突入します。

関ヶ原では、家康が調略した小早川秀秋の謀叛で東軍の勝利に終わりますが、仮に西軍が勝利していたとしても、幼き秀頼社長・三成専務体制では政権は持たなかったと想像されます。三成が西軍総大将に仰いだ安芸・毛利家や、加賀・前田家は世代交代の最中で家督が安定せず、秀吉によって会津に移封された上杉景勝は伊達政宗と対峙して消耗、家康以外の副社長は台所事情が悪化していました。

片や筆頭副社長の家康は、秀吉の小田原・北条攻めによって天下統一した論功行賞で、三河・駿河の所領から、本社から更に遠い武蔵ほか関東八州に人事異動、250万石の栄転とはいえ腹にイチモツ芽生えても仕方がない左遷人事。秀吉が如何に警戒していたかが分かります。

また、三方原で武田信玄に敗れた苦い経験もある現場叩き上げの苦労人・家康は、家族や家臣を守って所領を安堵しなければならない戦国武将の不安な気持ちも身をもって熟知していました。関ヶ原の合戦で敗走しても首さえ取られなければ、どっちみち徳川家康が天下を平定していたのではないでしょうか。

実証的歴史小説でブームを築いた司馬遼太郎さんの「関ヶ原」では、徳川史観によって逆臣とされた石田三成を主人公とし、悪役として描かれた家康は腹黒いダークなイメージが定着、天下人の中でも信長、秀吉ほどの人気はない。

しかし、秀吉から栄転という名の左遷によって荒涼とした関東平野を、利根川の流れを変える大土木工事で湿地を耕作地に変え、都市計画で品川沖を埋め立て運河を掘り、江戸という大城下町を一代で築き上げた手腕や功績は大きいものがあります。

本書で、近江の領地民からも公平無私で慕われた石田三成の不器用なまでの誠実さと忠臣ぶりを読むにつけ、徳川家康は狡猾な狸親爺というよりは、武将としてのスケールの大きさが浮かび上がります。

有力武将を地方支社に遠ざけた気の弱い秀吉とは違って、家康は関ヶ原の武功はあっても、豊臣家直系から寝返った福島正則や小早川秀秋を非情にも取り潰します。

この小説では、多くの証言者によって、三成は充分に西軍の将の器であったし、「地」の利があった関ヶ原に鶴翼の陣を敷いた戦術においても勝機はあったとします。しかし、夜半の雨による濃霧という「天」に見放され、西軍の総大将・毛利輝元の優柔不断で、大坂を出陣せずという「人」にも恵まれなかったわけです。

戦国武将の時代は、手段よりも戦に勝ったほうに「道理」がある。戦の連続で疲弊しきった武将や農民は、実は所領安堵と平穏な生活を望んでいたのです。「天下の道理」は関ヶ原に勝利し、戦のない平和な世の中を作った徳川家康にあったと、語っているようでした。

岩井三四二さんの「三成の不思議なる条々」はその斬新でユーモラスな筆致と共に、戦国時代を描いた司馬遼太郎さんの「関ヶ原」以来の傑作歴史小説だと思います。是非この原作を映像化してみたい、そんな歴史小説に出会いました。

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