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<テレビが狙う「コアターゲット」って何だ?>高齢者にはテレビを観てもらわなくても良い?というテレビ作り

メディアゴン / 2015年3月30日 2時43分

高橋秀樹[放送作家/日本放送作家協会・常務理事]

* * *

今、テレビ局では「コアターゲット」という言葉が、よく語られる。テレビ局側が最もテレビを観て欲しいと思っている世代のことで、コアつまり中核は、男女とも15歳から59歳までの人々である。

なぜ、テレビ局はこの「コアターゲットに」にテレビを観て欲しいのか? それは後で解説することにして、まず、筆者自身のテレビ人生を振り返りながら、時代、時代で、テレビはどんな人に向かって作られていたかを考えてみたいと思う。

評論家の大宅壮一が、

 「テレビというメディアは非常に低俗なものであり、テレビばかり見ていると、人間の想像力や思考力を低下させてしまい、一億総白痴化になる」

と嘆いたのは1957年(昭和32年)のことである。

筆者はその「一億総白痴化」のテレビを観て育ち、1978年(昭和53年)に、テレビの世界で仕事を始めた。テレビでコントを書きたい、テレビショウを作りたいという思いからであった。理想はクレイジー・キャッツと、ザ・ピーナッツの歌と踊りとコントの「シャボン玉ホリデー」である。

この頃、それまで大衆芸能と呼ばれていた落語の定席である寄席は、衰退の道を歩み始めており、大衆芸能と呼べるのは「テレビそのもの」ではないか、と筆者は思ったものだ。

筆者はまず、日本テレビ出身で独立して制作会社を作ったAさんの元で、コントを書いた。Aさんはコント番組や笑いのオーディション番組の名物ディレクターであった。会議から会議にベンツで移動する時は気分を変えるために「軍艦マーチ」を聞いていると、当時、運転手をしていた芸人志望のOちゃんから聞いた。

Aさんは、なかなか筆者のコントを採用してくれなかったが、その代わりなのか、よく話をしてくれた。

 「テレビは大衆を相手に番組を作ってるんだ」
 「はい」
 「高橋、大衆ってなんだ?」
 「ええと」

筆者が口ごもっているとAさんは、とても待っていられないとばかりにしゃべり出す。

 「大衆ってのはな、その辺のバス停に並んでる人のことだ」
 「バス停に並んでいる人って言うのはどんな人だ?」
 「わかんねえのか。バカ。中卒集団就職だよ」

筆者たちは中卒集団就職の大衆を相手にコントを書いているのだった。だから、当時、ゴルフのコントと飛行機のコントは、書いてはいけなかった。テレビを観ている人はゴルフはやったことがないし、飛行機にも乗ったことはないからだ。

そして、漫才ブーム(1980〜1982年頃)が起こった。フジテレビで彼らを司会にした番組「笑ってる場合ですよ」(1980〜1982・フジテレビ)を作った。「昼に笑いなんか観るやつは居ない」と周りの人々は言った。でも笑いを観る人は居た。それが、「笑っていいとも」(1982〜2014・フジテレビ)につながってゆく。

TBSの怪物番組「8時だよ!全員集合」(1969〜1985)の裏で「オレたちひょうきん族」(1981〜1989)を始めた。このころ、ターゲットはどんな人かなどという話は一度もした覚えがない。20代後半の僕が面白いと思う「タケちゃんマン」の脚本を書き、30代前半のディレクターMさんに渡す。Mさんも面白いと思えば、それで番組は作られる。たけしさんやさんまさんに特に相談はしない。

80年代の中頃「オレたちひょうきん族」の中で「ラブユー貧乏」という歌を書いた。その頃、貧乏なのは芸人くらいだったので、芸人の貧乏話は一億総中流の人々に笑ってもらうことができた。

「ラブユー貧乏」の作詞印税は長らく年間1000円を越えるか越えないえないかだったが、2012年頃から突然、年間2万円を越え始めた、誰かがカラオケで歌って憂さを晴らしたり、テレビ番組のBGMに必要とされたのだろう。

フジテレビには「火曜ワイドスペシャル」という1時間半の枠があった。この枠は年中企画を募集していたので、それに乗じて沢田研二さんを主役にした「大沢田研二」という、嘘ドキュメンタリーを作った。視聴率は3%くらいで、スタッフとは「やっちゃいましたねえ」と慰め合ったが、編成の人は「次も企画出して下さい」と言ってくれた。

ところが、あるときから、それが、いつなのか明確な記憶はないが「火曜ワイドスペシャル」の企画が、出しても出しても通らなくなった。「火曜ワイドスペシャル」は、これまで、数字を取った企画の第2弾、第3弾ばかりをやる枠になっていたのだ。

その頃から、番組制作プロダクションの完全発注の番組の会議に編成の人が出てくるようになった。なんだか、監視されているようで邪魔だった。これがおそらく1990年の中頃だろう。

今日(3月23日)、放送作家協会理事会で日大芸術学部の上滝徹也名誉教授から面白い話を聞いた。先生は今、日本のテレビドラマ史を執筆なさっているのだそうだが、やっと2000年まで到達したところであることに気づいた。

 「テレビ局の部長課長にコンプライアンス系の人が就任するようになってから、テレビドラマがつまらなくなるんですよ」

その場にいた放送作家も脚本家も劇作家も全員爆笑していた。

さて、冒頭の話に戻ろう。

今、テレビ局では「コアターゲット」という言葉が、よく語られる。テレビ局側が最もテレビを観て欲しいと思っている世代のことで、コアつまり中核は、男女とも15歳から59歳までの人々である。

このコアターゲットは購買力がある。だから、テレビはこの人たちに向けて作るべきである。スポンサーもそれを望んでいるのである・・・というよりスポンサーがコアターゲットに向けて作った番組でないとCMを出稿しないと、広告代理店が言っているのである。

かつて「後期高齢者」という呼び方はあまりにもひどいと、テレビでも言っていた。時過ぎて、今テレビは、その後期高齢者にも、さらに前期高齢者にも、それどころか還暦過ぎた人には観てもらわなくてもいいと思ってテレビづくりをしているのである。

だから、視聴率が13%の大相撲中継はコアターゲットの視聴率が0.5%なので、民放地上波で放送されることは、絶対にないのである。

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