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Lil かんさい大西風雅、初主演音楽劇開幕 10歳の少年快演【姉さんは、暖炉の上の、壺の中】

モデルプレス / 2024年11月23日 12時0分

◆多彩なキャストと音楽が描き出す、絶望の先の希望

そんなジェイミーに大きな影響を与えるのが、転校先のクラスメイト・スーニャだ。演じるのは、瀧野由美子。常にヒジャーブで頭を覆う彼女は、イスラム教徒。ジェイミー一家にとっては、姉のローズの命を奪った相手となる。もちろん同じ宗教を信仰しているからといって、スーニャに罪があるわけではない。だけど、人間の心理はそんなに簡単に割り切れるものでもない。

スーニャと友達であることを知ったら、父はきっと悲しむし怒る。現実に目を背け、酒に逃げる弱い父親ではあるけれど、そんな父親でもやっぱりジェイミーにとっては父親だ。父を傷つけたくないという思いから、スーニャと距離をとったり。でもやっぱりスーニャのことが気になったり。二人の間に芽生える、お互いの存在が救いとなるような関係が眩しく美しい。舞台『湯を沸かすほどの熱い愛』でも大役を務めた瀧野のよく通る声が、スーニャの芯の強さを表していた。

音楽劇と銘打つ通り、本作では重要な場面で歌とダンスが効果的に用いられている。ジェイミーの学校生活は決して明るいものではない。いじめに人種差別。子どもが無邪気なんていうのは大嘘で、人の痛みがまだよくわからないから、簡単に他者を傷つける。その無慈悲さを、本作は誤魔化さずに描いている。

ただ、ポップな音楽でデコレートすることによって、エンターテインメントとしての華やぎも見せ、緩急ある構成となっているのが特徴だ。ハロウィンに、サッカーの試合。終演後に思い出す景色はどれもカラフルで、どんなに過酷な環境下でも、アルバムの写真がすべて暗い顔で埋め尽くされることはないのだと気づかせてくれる。

特にテーマ曲である『飛び立つ勇気』はとりわけ胸に響く。歌唱を担うのは、ジャスミン役のロザリーナ。シンガーソングライターである彼女の、寂しさと力強さが同居したような繊細な歌声が、傷を負った子どもたちの希望となる。専業の俳優には出せない圧倒的な説得力が、彼女の歌声にあった。

こうした多彩なバックグランドを持つパフォーマーたちのアンサンブルもまた本作の魅力だ。ニッチェの江上敬子のコミカルな演技も楽しいが、中でも光っていたのがロジャー役の大植慎太郎だ。コンテンポラリーダンサーならではの独創性ある動きは、まさに猫そのもの。

また、大植は浅野康之と共に本作の振り付けを担っており、しばしば登場する姉のローズの動きは目を奪われるものがあった。爆破テロによってバラバラになった少女の体を想起させるような浮遊感のある動きが、今も瞼に焼きついている。ファンタジックな手ざわりのある本作だが、決してファンタジーではなく、根底にあるのはシビアな現実であり、その犠牲となるのは罪もなき人々だという理不尽への怒りと追悼の祈りが横たわっている。

母ともう一度会うために、ジェイミーは姉のジャスミンと共にタレントショーへの出演を決める。その結末がどうなるのかは、ぜひ劇場で確かめてほしい。

特に子どもの頃は、親の愛を絶対的なものだと信じている。そして、親から愛されない自分を欠陥品のように思い込んでしまう。だけど、決してそんなことはない。私たちは、自分を愛してくれる人を選べるし、自分を大切にしてくれない人にいつまでもすがり続ける必要なんてないのだ。

私たちは、自分の力で幸せを見つけることができる。悲しみを知りながら強くなるジェイミーが教えてくれるのは、自分の人生を肯定する力だ。

同作は12月1日までCBGKシブゲキ!!にて上演。また、12月20日から22日の期間限定で公演の配信も決定している。

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