バーバリーなき三陽商会のピンチを救ったファンドの思惑

MONEYPLUS / 2019年4月17日 6時30分

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バーバリーなき三陽商会のピンチを救ったファンドの思惑

「三陽商会」という社名を聞いたことがなくても、「バーバリー」というブランド名であれば、ほとんどの人が知っているのではないでしょうか。

同社は1965年からバーバリーのコートを輸入し、1970年に日本国内におけるバーバリーブランドの企画・製造・販売ライセンスを獲得。日本にバーバリーを浸透させた功労者といっても差し支えない会社です。

その三陽商会が今年3月に開いた株主総会で、ピンチに陥っていました。「配当を倍増せよ」という株主提案を、シンガポールのファンドが提出したからです。そして、このピンチを救ったのも、米国に籍を置く別のファンドでした。

いったい、なぜ三陽商会はこんな状況に陥ったのでしょうか。そして、株主総会を舞台にファンド同士が駆け引きを繰り広げた背景には、どんな事情があったのでしょうか。舞台裏を掘り下げてみます。


ファンドも一括りに見てはいけない

かつては外資系ファンドというと、「ハゲタカ」の異名をとり、キャッシュを貯め込んでいる会社に対してとてつもない増配を要求したり、経営が傾いた会社を安く買いたたき、資産をバラ売りするというダーティーなイメージが強かったように思います。しかし、最近はずいぶんと様変わりしています。

たとえば、アルミサッシやトイレでおなじみのLIXILグループ。昨年秋、社外から招聘した雇われCEO(最高経営責任者)をクビにし、自らトップに返り咲いた創業家出身のドンが、今度は外国人株主から突き上げられています。

この雇われCEOの手腕は株主から高く評価されていましたし、クビにした経過が不透明だったので、外国人株主としては看過できなかったわけです。

ファンドには、現物と先物の価格差に着目して細かい売買でサヤを稼ぐ「ヘッジファンド」や、未上場会社に投資したり、上場している会社を買収して非公開化し、再上場や株式の転売によって儲ける「プライベートエクイティファンド」など、異なる投資手法を持つさまざまな形態があります。

台頭してきた“正論をはくファンド”

近年台頭してきているのが「エンゲージメントファンド」です。長期的視点に立って、会社側と対話ができる関係を構築し、助言して投資先の企業価値を高めようとするファンドです。

こうした投資手法を採っているため、株価が安く放置されていて、改善の余地があるうちに投資を開始します。投資期間は基本的に5年以上なので、短期的な利益を追うような要求はしない代わりに、ガバナンス(企業統治)がお粗末だったり成長投資をサボったりしていると、まさに正論で改善を求めてきます。

このような投資スタンスなので、一部の株主が不当な要求を会社側に突きつけていると判断すれば、会社側の味方にもなってくれます。3月28日に定時株主総会を終えた三陽商会が、まさにそうでした。

冒頭でも触れたように、三陽商会といえばバーバリーでしたが、2014年5月、三陽商会はバーバリー側から、ライセンス契約の更新を拒絶されてしまいました。契約は15年ごとに更新してきたようですが、2015年6月末で満期を迎えるので、2015年春夏シーズンを最後に、それまで三陽商会が担ってきた企画・製造・販売の業務をバーバリーグループが直接手掛けることになったのです。

ライセンサーに振り回される日本企業

長年海外の企業からライセンスを供与されて、その製品を普及させた日本企業が、あっさり切られた代表的な事例に、クラッカーの「リッツ」があります。

ライセンシーの山崎製パンは、ライセンサーであるモンデリーズから「下請けならやらせてやってもいい」と言われたそうですが、これを拒絶。1年間は類似製品を製造できない契約になっていたので、契約終了から1年後、独自製品「ルヴァン」で巻き返しを図り、見事にモンデリーズ製の本家に勝利しました。

しかし、三陽商会は大打撃を受けたままです。売上高は直近の半分、ピークの4割に下がり、本業の儲けを示す営業損益は、ライセンス終了以来3期赤字が続いています。2度にわたって希望退職を実施して人件費は大幅に減っているのですが、減収の影響が大きく、コスト削減が追いつかないのです。

それでも三陽商会は安定配当方針なので、赤字でも配当を続けています。実は、そんな三陽商会に対し、シンガポールのファンドが増配を求める株主提案を出したのです。求めた配当額は1株当たり80円。会社側が提案している配当の倍です。

ファンドが増配を求めた背景

実はこれ、やってできなくはありませんでした。というのも、三陽商会は配当原資となる利益剰余金が連結で160億円、単体で158億円ありました(2018年12月末時点)。

利益剰余金

業績は連結で見ますが、配当をするのは単体のほうなので、単体に配当余力がなければ、いくら連結で余力があっても配当はできません。しかし、三陽商会の場合、連単格差はごくわずかです。

3期赤字が続いているので、ライセンス契約終了直前期の2014年12月期末時点のほぼ半分に減ってはいるのですが、それでも158億円あります。会社提案の1株当たり40円だと配当総額は5億円なので、倍の80円でも総額は10億円。提案株主の要望はとんでもない金額というわけではなく、払う余力は“あるといえばある”のです。

これに反対したのが、約5%を保有する「RMBキャピタル」という米国籍のエンゲージメントファンドでした。

増配よりも再建投資を支持

三陽商会は、2018年12月にバーバリーのライセンス終了後2度目となる希望退職を実施しています。1回目は2016年12月で、この時に249人が退職しているのですが、今回も同規模の247人が退職しました。

今回の退職者数は連結従業員の約4分の1にあたります。長年会社を支えてきたこれだけの数の従業員を対象とする希望退職を実施したのに、株主だけを優遇するのはおかしいというのが、その理由です。

株主も再建の痛みを共有するべきだとして、今は増配ではなく、ブランドポートフォリオの再構築やeコマースの強化など、長期的な企業価値向上に有効な投資にお金を回すべきだ、というわけです。

最終的に、総会ではシンガポールのファンドが提出した株主提案に9割近い株主が反対しました。三陽商会は外国人株主比率が24.5%ですので、RMBキャピタル以外にも、増配に反対した外国人株主がいたことになります。

いまだに外国人投資家だというだけで、逃げ回って対話を拒絶する経営者が少なからずいるようです。しかし、三陽商会のケースから、正論で向き合えば味方もしてくれるということが理解されれば、対応は変わってくるのかもしれません。

(伊藤歩)

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