米中貿易摩擦の“着地点”はどこにあるのか

MONEYPLUS / 2019年5月20日 11時30分

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米中貿易摩擦の“着地点”はどこにあるのか

米国は5月10日、対中制裁関税第3弾の税率引き上げを発動し、13日には制裁関税を全輸入品に拡げる第4弾の計画の詳細を発表しました。一方、中国も6月から報復関税をかけると発表しました。これを受け、「米中貿易摩擦を懸念する」「摩擦のせいで経済が悪化する」といった報道が改めて出ています。

しかし、何が「摩擦」なのかについては、あまり明らかになっていないように思います。そこで今回は、米国が中国の何を批判しているのか、対して中国はどのような対応を図ろうとしているのか、について考えてみます。


米国は中国の不公正を正そうとしている

そもそも、米国は20年以上も前から、中国の不十分な知的財産権保護や国営企業優遇、補助金供与という3つの不公正を問題視してきた経緯があります。トランプ政権の新しさは、この不公正を正すために、追加関税という実力行使に出たことです。一方の中国は、国が関税などなんら制約を設けない自由貿易を求めています。

一般的に、自由貿易は双方の国で公正な競争環境を維持する法令や制度などが整備されている場合に限れば、経済にとって良いことです。しかし、中国は米国が問題視する3つの不公正を正すための改革を進める最中で、まだ環境は整備されていません。米国はそこを攻撃しているのです。

米中貿易摩擦は2018年3月ごろから激化し、トランプ大統領は同年6~8月に500億ドル相当の輸入品に25%の追加関税をかけました。さらに、9月には2,000億ドル相当に10%の追加関税を課し、後に25%に引き上げるとしていました。

その後、米政権は後者の関税引き上げを一時撤回し、中国と通商協議を重ねましたが、交渉の遅れなどから2019年5月に引き上げを実行。とはいうものの、通商協議は継続するとしています。

貿易摩擦の中でも米国の輸入量は拡大

興味深いのは、リーマン・ショックを過ぎた2013~2016年に米国経済が低迷した後、景気回復が鮮明になった2017年ごろから米国の輸入額が急拡大していることです。これは米国の雇用拡大、賃金上昇、消費拡大を背景とした需要増によるものです。貿易摩擦と言われる中で起きていることは、米国が中国を含む他国からの輸入を拡大しているということです。

米国の輸入額

今回の米中貿易摩擦の背後には、米国経済の拡大とトランプ政権による関税政策の緻密な計画があったとみています。500億ドル相当のテクノロジー製品に追加関税を課した時は、プリンタやディスプレーなど消費者の目に触れる商品を除外しました。2,000億ドル相当の時にも、消費財をできるだけ除外して資本財の比率を引き上げました。

これは、資本財を扱う企業の収益が影響を受けたとしても、法人税率の引き下げで相殺することができたからです。もちろん、追加関税がまったくかからないほうが企業収益は高くなると思いますが、経済全体で見ればトランプ政権の経済運営は拡大的になっているともいえます。

解決には5~10年が必要

貿易摩擦はすぐにでも解決するほうが望ましいですし、米中貿易摩擦が大統領選を前にとりあえず収束する可能性は残っています。しかし、前述した貿易摩擦を引き起こした3つの要因を、今後5~10年で本質的に解決することは簡単ではないと思います。

中国は、トランプ政権以前から米国が問題視する3つの不公正要因について、すでに政策の中に組み込んでいます。それでも貿易摩擦が続いているのは、現時点で中国自身が守るべき知的財産権が蓄積されておらず、国営企業優遇や補助金供与による産業保護なしに他国とまともに競争できないからです。

1980年代の日米貿易摩擦では日本の電気製品が攻撃対象となりましたが、当時の日本は多くのブランドを確立しており、守るべき知的財産権も生まれていました。しかし、今の中国には、世界を席巻するようなブランドは多くないのです。

中国の産業育成策「製造2025」政策は米国の目の敵にされていますが、中国が早くとも2025年ごろにならなければ、守るべき知的財産権が根付き、国際競争力のある民間企業が育たない、と解釈することもできます。

今後、中国が進める改革が実を結び、民間企業が競争によって磨かれ、より高い付加価値を生み出せるようになれば、米国が指摘する不公正さは改善されるでしょう。つまり、中国が経済成長の鈍化する「中所得国の罠」を脱して、世界にとって良い消費国となれば、貿易摩擦は解消されることになると思います。

仮に、今後10年程度のうちに中国が3つの不公正要因が解決できないならば、当面、米国の政治サイクルが重要になります。ドナルド・トランプ氏の中国への対応を追うと、米大統領に就任した2017年は中国への批判を抑えましたが、米中間選挙の年となった2018年は強く中国を批判して追加関税を発動し、米国の雇用を守ると宣言しました。

しかし、2019年は実力行使をちらつかせながらも話し合いで解決する手法に転換し、米国企業の知的財産権保護を獲得しようとしています。つまり、今後の中国への強硬姿勢は、トランプ氏の次の大統領選への布石の1つとして見ることもできます。

<文:チーフ・ストラテジスト 神山直樹>

(日興アセットマネジメント 執筆班)

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