1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. ライフ
  4. ライフ総合

障がいを持つ子の相続に潜むリスクとは?「親なきあと」に備えるために

MONEYPLUS / 2021年4月15日 18時30分

写真

障がいを持つ子の相続に潜むリスクとは?「親なきあと」に備えるために

障がいのある子を持つ親にとって悩ましいのは「親なきあと」のこと。相続対策にどのような準備が必要なのでしょうか。


障がいのある子どもの親にとって「親なきあとのために、この子にできる限りのことをしておいてあげたい」と思うのは当然のことです。

今回の相談者は、川田みちこさん(64歳)。ご家族は、長男(36歳)、知的障がいのある次男(34歳)です。ご主人は3年前に亡くなっています。長男は既に結婚し、自宅近くにマイホームを購入して暮らしています。みちこさんと次男は、ご主人が遺してくれた自宅に住んでいて、別にある貸駐車場の収益で生計を立てています。

遺された家族のためにと、ご主人は生前に遺言書を作成していました。家族3人で遺産分割協議(財産を分ける話し合いをすること)をしないで済むようにするためです。ご主人の遺言書は、「財産すべてを妻、みちこへ相続させる」という内容でした。この遺言書があったおかげで、スムーズにご主人の財産の承継が行われることになったのです。

判断能力が不十分な相続人の代理になる後見人とは?

もし遺言書がなく、相続人の中に今回の次男のように物事を判断することができない人(認知症も含む)がいるとします。そうすると、後見人を家庭裁判所に選任してもらい、その後見人が遺産分割協議に参加することになります。後見人とは、判断能力が不十分と考えられる人の代わりに財産や権利を守り本人を法的に支援する人です。

また、遺産分割協議が終わったあとも、次男が亡くなるまで後見人は次男の財産管理を続けることになるのです。この後見人は、家族が就けることもありますが、弁護士、司法書士などの専門家が就くことも多く、専門家が就くと次男が亡くなるまで報酬が発生します。2019年の日本人平均寿命は男性で81歳、次男は現在34歳、平均寿命まで生きるとするとあと47年。

47年間後見人へ報酬を支払わなければならなくなる点が、ご主人が後見人を就けることを避けたい理由でした。将来的に知的障がいのある次男に後見人が就くことになったとしても、その期間をできるだけ短くしたいという、ご主人の想いが遺言書によって叶う形になりました。

みちこさんが作成した遺言書の落とし穴

みちこさんもご主人が遺言書を書いたように、自分も遺言書を作成しようと考えていました。次のような内容です。

「私にもしものことがあれば、次男が一人で自宅に住み続けることが難しくなるだろう。幸いにも近くに住んでいる長男家族は、次男の面倒を見ることには協力的だ。

ならば、自宅は長男に相続させ、売却を含め今後について検討してもらうようにしよう。貸駐車場は、安定的な収入が見込まれる。生活資金として使えるように次男に相続させよう。そして預貯金はすべて長男へ。

次男が預貯金を相続しても管理ができないだろうし、次男の障害年金はほとんど使用せず次男名義の定期預金として残している。貸駐車場の収入を考えると、次男には十分な資金があるだろう。」

障がいのある子どもがいる家庭では、財産の残し方について同じように考える人も多いのではないでしょうか。しかし、この財産の遺し方にはリスクが潜んでいます。

「遺言書」では生前の問題はカバーしきれない

遺言書を作成していることは、遺された家族にとって手続きをスムーズに行うために必要なものです。ただし、遺言書は「亡くなったとき」にしか効力を発揮しません。

みちこさんが、亡くなる前に認知症や病気にかかり自宅に住むことができなくなったとき、自宅で次男と暮らしていくことは難しいでしょう。その時になって自宅を売却し、その代金で、みちこさんの施設費用や、次男の生活費に使おうと思っても、みちこさんが、認知症であれば自由に売却し、代金を使うことができません。

遺言書と併せて「任意後見契約」や「信託契約」を結んでおく

事前に対策をということであれば、遺言書と併せて「任意後見契約」や「信託契約」を長男と結んでおくという方法があります。

任意後見契約は、みちこさんが認知症等になった場合、財産の管理・処分や施設の入所手続きなどの法律行為を決まった誰かに頼んでおくというものです。みちこさんが、もし長男にそれをお願いしたいと考え、長男が承諾している場合はこの任意後見契約を公正証書で作成することになります。

任意後見契約は契約後すぐに効力が発生するわけではありません。みちこさんの判断能力がなくなり長男が後見を必要と判断した時点で家庭裁判所へ申し立てをし、「任意後見監督人」という、長男の財産管理等を監督する専門家が選任されることで効力が発生します。

また、信託契約は、財産を「信じて託す」という契約です。財産の管理・処分ができる点は任意後見契約と同様ですが、違う点として、原則、信託契約は契約を締結したあとすぐに効力が発生することです。任意後見契約の場合に必要な監督人は、みちこさんが望まない限り必要ありません。なお信託契約は、財産の取り決めをするだけなので、施設の入所手続き等の法律行為を行うことはできません。

任意後見契約・信託契約のどちらが良いとは言い切れません。家族や財産状況、想いや願いを聞いたうえで適した方法を選ぶと良いと思います。

判断能力のない人物に不動産の管理・運用は難しい

この遺言では、貸駐車場を次男へと考えています。「貸駐車場の安定した収入を次男に」という思いからです。遺言によって不動産の名義が次男に変われば安定的な収入を得ることができるでしょう。しかし、判断能力のない次男に貸駐車場の管理・運用は難しく、賃貸人と契約を結ぶことはできません。契約や費用の支払いなどの法律行為は後見人に就いてもらわないとできなくなるからです。つまり不動産を所有したことで新たな問題が出てくるのです。

長男家族が次男の面倒をみることに協力的であるのなら、遺言で貸駐車場も長男へ相続させるのも1つの方法です。その際に「貸駐車場の収入は次男のために使ってほしい」という想いを伝えておく。また、「信託契約」も備えには有効です。

信託契約に定めておくことにより、みちこさんが認知症になったとしても、長男が貸駐車場の管理を行うことができます。みちこさんが亡くなったあとの収入は次男へ。次男が亡くなった後は長男や長男の子どもに承継するなど、事前に定めておくこともできます。

お金を残してもおろせない? 金融機関の本人確認の壁

親の気持ちとして生活に困らないようにお金を残しておきたいという想いで障害年金を使わずにためている人も多いのではないでしょうか。また、すぐに使うことがないので定期預金にしている人もいらっしゃると思います。しかし、この定期預金を、本当に次男が必要になったときに解約することができるのでしょうか。最近の金融機関は本人確認が厳しく行われるところも増えてきました。預金を預ける時ではなく、解約するときが特に厳しいと感じます。

つまり、障がいのある子どものために預金を解約しようとしても、母親のみちこさんや長男では解約できないことがあるのです。これを避けるために、障害年金は、その子のためにしっかり使っていくことをお勧めします。それが不安であれば生命保険を活用するなどの方法もあります。

「将来この子にいくら残しておけばいいのか?」と思っている人も多いでしょうが、それぞれのご家庭の事情もありますので、ライフプランを考えて、できることから始めていきましょう。障がい者の親なきあとの悩みは切実です。ひとりで考えることはせず、親なきあとの相談は同じ悩みを持って活動している団体もありますので相談してみてはいかがでしょうか。

<相続診断士:藤井利江子>

(アクセス相続センター)

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング