F1開幕直前 今年のマシンにつけられたHaloってなに? 【世良耕太のモータースポーツ深層解説2018】
MotorFan / 2018年3月20日 17時45分
3月25日にオーストラリア・メルボルンで開幕する2018F1グランプリ。2018年は開幕戦のオーストラリアGPから最終戦アブダビGPまで、なんと全21戦で争われる。日本GPは第17戦10月7日決勝の予定。さて、今年のF1グランプリを、F1ジャーナリストの世良耕太氏にプレビューしてもらおう。マシンの注目点は、「Halo」である。 TEXT◎世良耕太(Kota SERA)
2018年のF1マシンは、ボディやタイヤがワイドになった2016年から2017年にかけてほど大きな変化はない。変化点はわずかだが、目を引く変化が1ヵ所だけある。
ハロ(Halo)だ(英語圏ではヘイローと発音している)。コックピットを覆うように取り付けられた頭部保護装置だ。2018年は全車にこの頭部保護装置の搭載が義務づけられた。幸いなことにF1では致命的なアクシデントは発生していないが、2009年にはF2で、2015年にはインディカー・シリーズで死亡事故が発生している。
F2では、前方でクラッシュした車両から外れたタイヤが後続車の頭部を直撃。ヘンリー・サーティースの命を奪った。インディカーでは、ウォールにクラッシュした車両から外れた大型の部品が、後ろを走っていたジャスティン・ウィルソンの頭部にあたり、命を奪う結果になっている。
100km/h、あるいは200km/hを超えるスピードで走っているとき、10kgクラスの部品が頭部を直撃したとしたら、いかにヘルメットを被っていようとダメージを防ぐことはできない。ならば、直撃しないように防御しようというわけだ。それがHaloである。F1直下のF2も2018年シーズンから装着。フォーミュラEも2018年冬から始まるシーズン5からHalo付きとなる。
HaloはF1を統括するFIA(国際自動車連盟)が指定する3社が製作し、チームに供給する。チタン合金をYの字に溶接して成形し、サバイバルセルに締結する。重さは約7kgだ。Haloの義務付けに合わせて最低重量は5kg引き上げられて733kgになったが、Haloの重量分を補っていないところが、車両設計側にとっては悩ましいところだ。
Haloは車体にボルトで留めて終わり、ではないからだ。約12tの垂直荷重を5秒間加えた際、サバイバルセルや取り付け部が壊れてはいけないとレギュレーションで定めている。アフリカ象2頭分に相当する荷重が掛かってもびくともしない車体強度を確保しなければならない。各チームの技術者は口をそろえて、「Haloの適用が2018年型マシンを設計するにあたって、最もチャレンジングだった」旨のコメントを残している。
それだけではない。リヤに向かう空気の流れを邪魔する格好になるので、空力性能に悪影響を与えないよう検証する必要もあった。レギュレーションではHaloにフェアリングを被せることが認められており、そのフェアリングにはごくわずかな範囲で空力的な処理を施すことが認められている。すでにシーズン前のテストの段階でチーム独自の独創的な処理が見られた。シーズンを通じて進化していくに違いない。
タイヤはピレリが1社供給することに変わりはないが、ドライタイヤはコンパウンドの種類が増え、5種類から7種類になった。追加されたのは最も軟らかいコンパウンドに位置づける「ハイパーソフト」と、最も硬いコンパウンドに位置づける「スーパーハード」だ。柔らかい順から記していくと次のようになる(カッコ内は識別色)。
ハイパーソフト(ピンク)
ウルトラソフト(パープル)
スーパーソフト(レッド)
ソフト(イエロー)
ミディアム(ホワイト)
ハード(アイスブルー)
スーパーハード(オレンジ)
ハードの識別色は2017年までオレンジだったが、「オレンジは最も硬いコンパウンドのイメージとして定着」しているとしてスーパーハードに譲り、ハードにはアイスブルーが割り当てられることになった。コースの特性に応じて、ピレリが選択する3種類のコンパウンドを持ち込むことに変わりはない(決められたセット数の範囲で、どのコンパウンドを何セット持ち込むかはチーム/ドライバーが決める)。
開幕戦オーストラリアGPに持ち込まれるコンパウンドは、ウルトラソフト/スーパーソフト/ソフトの3種類で2017年と同じだが、コンサバだった(ワイドタイヤ導入初年度だったので、トラブルを恐れて硬めのコンパウンドとしていた)2017年の反省から、2018年は全体的にソフト側の仕立てになっているよう。2018年のソフトはスーパーソフト相当、スーパーソフトはウルトラソフト相当と考えていい。メインとして使うのは、2017年より1ランク軟らかいウルトラソフトだ。タイヤのことだけを考えてもタイムアップは必至である。
2017年のICE(エンジン)とERS(エネルギー回生装置を構成する各ユニット)は、1ドライバーあたり年間4基まで使用が認められていた。2018年はICEとターボチャージャー、MGU-H(熱エネルギー回生システムを構成するモーター/ジェネレーターユニット)が年間3基、それ以外のERS系コンポーネントは年間2基に制限される。当然のことながら、信頼耐久性確保が課題となる。
2017年のコンストラクターズ選手権10位(つまり最下位)だったザウバーは、アルファロメオをタイトルスポンサーに迎え、チーム名を「アルファロメオ・ザウバーF1チーム」に改めて2018年シーズンを迎える。2017年は1年落ちのフェラーリ製パワーユニットとギヤボックスを搭載していたが、2018年は最新版を搭載。ポテンシャルは上がっている。
もっと大きく変わったのはトロロッソとマクラーレンで、トロロッソは2017年のルノーからホンダにパワーユニットをスイッチした。ホンダの側に立って説明すれば、パートナーをマクラーレンからトロロッソに切り替えたことになる。ホンダと別れたマクラーレンはルノーからパワーユニットのカスタマー供給を受ける。
2017年のホンダは、過去2シーズンと異なる新しいMGU-H&ターボまわりのレイアウトに変更した影響などから、オフシーズンのテストでトラブルが続発。それが尾を引いてシーズンを棒に振った感があった。その反省から、トロロッソとのパートナーシップが決まると早い段階から、同じ過ちを繰り返さないための開発に着手した。
その甲斐あってテストは順調に推移。少なくとも、信頼耐久性面で不安を抱えることなく、開幕戦オーストラリアGP(3月25日決勝)に臨めそうである。
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