じつは世界一タフなレース ポルシェ911GT3 Rの鈴鹿10時間耐久レース
MotorFan / 2018年9月4日 10時5分
鈴鹿10時間は『インターコンチネンタルGTチャレンジ(IGTC)』の一戦だ。参戦車両はFIA GT3である。耐久と言ってもル・マン24時間と違って「10時間じゃないか」と思う人もいるかもしれない。ところが、参戦したレーシングドライバーは口を揃えて「世界一タフなレース」という。ポルシェ911GT3を軸に、鈴鹿10時間の舞台裏を見てみよう。 TEXT&PHOTO●世良耕太(SERA Kota)
「スーパーGTで24時間走ったほうが全然楽ですよ」と言ったのは、D’station Racingのポルシェ911 GT3 R(7号車)で『鈴鹿10時間耐久レース』に参戦した藤井誠暢である。10時間走るより24時間走ったほうが楽だと、同じ911 GT3 RでスーパーGTに参戦する藤井は、経験に基づいてそう言ったのだった。
「おそらくスーパーGTのパッケージなら、鈴鹿10時間のパッケージより5秒速く走れます。スーパーGTの状態で10時間なら全然怖くありません。なぜなら、タイヤがグリップして何も起きないので、ずっとプッシュできるからです。でも、鈴鹿10時間の場合は相当気を遣ってタイヤをマネジメントしないと、走りきれません。猛烈に暑いことも含めて、世界一タフなレースだと思います」
初の鈴鹿10時間は、8月26日日曜日に決勝レースが行われた。日中の最高気温は35℃を超え、陽が落ちてからもなかなか30℃を下回らなかった。路面温度は50℃を超えた。藤井のチームメイトで、鈴鹿10時間のために駆けつけた(2度のル・マン24時間ウイナーの)アール・バンバーは、「スズカは最高でおもしろいんだけど、自分のすべての経験に照らし合わせて、このオーバーステアは最悪」だと言った。
タイヤがもたないのだ。それもポルシェに乗るドライバーに限らず、大多数のドライバーが同じ悩みを抱えていた。アウディR8 LMSをドライブしたあるドライバーは、自分のクルマの動きを後輪操舵のフォークリフトに例えた。リヤが落ち着かなくてどうしようもないという意味である。
鈴鹿10時間は『インターコンチネンタルGTチャレンジ(IGTC)』の一戦として行われた。全4戦が予定されており、第1戦はバサースト12時間(オーストラリア)、第2戦はスパ24時間(ベルギー)、第3戦が鈴鹿10時間で、第4戦は10月28日のラグナセカ8時間(アメリカ)である。参戦車両はFIA GT3だ。
鈴鹿10時間に関してはIGTCのレギュラー参戦組に加え、日本勢のスポット参戦が認められた。ポルシェのラインアップを例に挙げると、マンタイレーシングの911号車(ル・マンウィナーのロマン・デュマらワークスドライバーで固めている)と、クラフトバンブーレーシングの991号車、ブラックスワンレーシングの54号車がIGTCからの参戦組である。
藤井がバンバーとスヴェン・ミューラーのワークスドライバーと組むD’station Racingの7号車はスポット参戦組で、D’station Racingからは、スーパー耐久に参戦する星野敏と近藤翼にジョノ・レスターを加えた77号車もスポット参戦した。エントリーした35台中14台がスポット参戦だった。
タイヤはピレリのワンメイクだ。「これほど暑いコンディションで機能するよう開発されていない」とドライバーが説明するように、基本的には、全然もたない。「予選では2分2〜3秒で走れます。でも、決勝では無理です。出せるけど、出しません。前半を速いペースで走ったせいで後半の10周が2分10〜11秒になったら話になりませんから」と、藤井は状況を説明した。
ルールの制約上、10時間のレースは1時間×10スティントで分割して走ることになる。新品タイヤは10セットあるが、タイヤの性能劣化具合を考えると、1時間もたせるのは至難のわざだ。セッションの後半でも2分5〜6秒のペースで走れるよう、タイヤを労りながら走るのが鈴鹿10時間へのアプローチだ。「セッション終盤で5〜6秒を目指しますが、実際のところ8秒に収まればいい」と藤井は厳しい予測を立てた。
タイヤに神経を使わなければならないうえに、暑い。ドライバーは口をそろえて、「スズカは楽しいんだけど、暑くて厳しい」と言った。ポルシェ911 GT3 Rはエアコンを装備していない。ドライバーはクールスーツを着込んでクルマに乗り込むが、それでも暑い。
マンタイレーシングのガレージを案内してもらったが、ピット裏にあるドライバーの控え室は、水揚げしたマグロを保管しておく冷凍庫のように冷やされていた。乗り込む前に体の芯まで冷やしておき、乗り終わった後に急速にクールダウンさせるためだ。「2019年モデルの911 GT3 Rはエアコンを装備します」とポルシェのPR担当者は説明した。
マンタイ、クラフトバンブーのレギュラー参戦組の2台とスポット参戦組の2台をよく見ると、仕様が違う。マンタイの911号車とD’stationの7号車は2018年モデルで、クラフトバンブーの991号車とD’stationの 77号車は2017年モデルだ。2018年モデルはフロントバンパーコーナーにカナードが取り付けられているのが識別点である。
リヤアクスルの後方にエンジンを搭載する911 GT3 Rの強みはトラクションだが、引き換えにフロントの入りが弱い面があった。傾向としてはアンダーステアである。それを解消するため、2018年モデルはフロントバンパーコーナー部にカナードを追加するなどして、フロントのダウンフォースを増やした。結果、前後のバランスが良くなって、フロントの入りが良くなったという。
だがそれも、タイヤとの組み合わせ次第だ。スーパーGTで走る鈴鹿での正解が鈴鹿10時間でも正解であるとは限らず、2018年モデルか2017年モデルかでいえば、後者に分があったようだ。2018年モデルはダウンフォースを増やしている分ドラッグも大きく、鈴鹿サーキットでは2017年モデルに対し、最高速が4km/h劣ったという。
2018年仕様のD’station7号車に関していえば、スプリングを柔らかくしたりライドハイトを変えたり、セッションごとにセットアップを変更したりして、レースに向けて最適なセットアップを探りにいった。速いクルマを目指すのではなく、安定したクルマを目指す作業だった。そのうえで、ジェントルに運転することが求められた。
努力の甲斐もむなしく、藤井らがドライブしたD’station7号車はスタートから2時間半後、エンジントラブルでリタイアした。「クルマのバランスは非常に良かったので、悔やまれる」とリタイヤ時にステアリングを握っていたバンバーはコメントした。
ポルシェ勢の最上位はクラフトバンブー991号車の11位で、マンタイの911号車が12位となった。優勝したのはMercedes-AMG Team GruppeM RacingのメルセデスAMG GT3(888号車)で、2位はMercedes-AMG Team Strakka RacingのメルセデスAMG GT3(43号車)、3位はAudi Sport Team Absolute RacingのアウディR8 LMS(6号車)だった。
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