日韓関係悪化で浮かび上がる「ニッポンのモノづくり」の強さ

マイナビニュース / 2019年8月23日 9時16分

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●「ホワイト国」除外問題の全容
令和の時代に入り、米中貿易戦争の激化など国際情勢は一段と波乱の様相を呈し、その影響もあって日本の景気も足踏み気気味です。平成の時代は厳しい経済環境が続いていただけに、「令和の日本経済は大丈夫なのか」と悲観的になりがちです。

しかし現在の日本経済は世間がイメージしている以上に強さを取り戻していると声を大にして言いたいと思います。従来の常識を打ち破るような新しい変化が生まれ始めており、今後そうした動きがしっかりと広がれば、日本経済は荒波を乗り越え、令和の時代に本格復活を遂げることができるでしょう。

本連載では、筆者が長年にわたって日本経済と数多くの企業を取材してきた経験をもとに、「実は日本経済はこんなに強いんだ」という独自の視点で令和時代の日本経済を展望します。

○半導体関連素材など、韓国向け輸出の管理強化

日本政府は韓国向け輸出について2019年7月、半導体製造に使うレジスト、フッ化水素、フッ化ポリイミドの3品目の管理強化に踏み切り、次いで8月に入って韓国を「ホワイト国」から除外することを決めました。

このニュースは連日のように大きく報道されていますが、改めて簡単に整理すると、上記の3品目は韓国側の輸入後の最終用途などについて安全保障の面から不適切とみられる事案があったため、従来の「包括許可」から「個別許可」に切り替えたものです。

また「ホワイト国」とは、安全保障貿易管理の面で信頼度が最も高いと認めて輸出管理の手続きを優遇する国のことで、日本は韓国を含む27カ国を「ホワイト国」に指定していました。わかりやすく言えば、「この国は輸出品を軍事転用したり他国に横流したりするようなことはしない」と信頼して輸出管理の手続きを大幅に簡素化しているということです。

ところが報道によると、日本から韓国への輸出品の一部が第三国に流出している疑いが指摘されるといった事態が起きていました。このため日本政府はすでに数年前から韓国政府に対し輸出管理についての協議を呼び掛けていましたが、韓国側はそれに一切応じてこなかったということです。このように信頼関係が損なわれてしまったため、日本政府は韓国を「ホワイト国」から除外したのです。
○経済的影響は日本にも及ぶ?

日本の「ホワイト国外し」に反発して、韓国も日本をホワイト国から外すことを決定しました。しかし韓国は前述の輸出品の扱いに対する疑惑に何ら応えておらず、問題のすべてをいわゆる歴史問題に絡めて日本に強く反発しています。

周知のように、徴用工問題、慰安婦問題、さらには韓国海軍による自衛隊機へのレーダー照射などに、今回の輸出管理問題が加わって、日韓関係の悪化は決定的ともいえる次元に突入した感があります。このため、経済的な影響を心配する声も出始めています。実際、韓国からのツアーやチャーター便(一部定期便含む)のキャンセルが相次ぎ、特に西日本では韓国人観光客の減少が目立っているそうです。

また半導体関連3品目の輸出管理強化によって、韓国のサムスン電子などの半導体生産に支障が出れば、同社から半導体を調達している日本の電機メーカーなどにも影響が及ぶとの懸念も指摘されています。

しかしこの議論には誤解も交じっているようです。上記の3品目の韓国向け輸出がストップしてサムスンなどの半導体生産が完全に止まってしまうとか、それに伴い日本の電機メーカーも半導体の調達ができなくなるなどといった話が一時はメディアで飛び交いましたが、実際には輸出契約ごとに安全保障上の問題がなければ許可されるのです。

従来より手続きに日数が少しかかることはあっても、「輸出ストップ」になるわけではありません。現に、3品目のうちレジストの輸出1件について、日本政府はすでに許可を出しましたし、さらにこのほど2件目も許可したとの報道もあります。

●日本に依存する韓国半導体
このことを前提にしたうえで話を進めますと、今回の問題を別の角度から見ると、浮かび上がってきたのが「世界トップとなった韓国の半導体産業は日本の強さの上に成り立っている」という事実です。

前述の3品目ですが、いずれも半導体の製造過程で不可欠な素材です。このうちレジストは、半導体素材(シリコンウエハー)の表面に塗布して光を当て回路を焼き付けるのに使われる感光材のことで、日本経済新聞によればこの分野では東京応化工業や信越化学工業など日本企業が世界シェアの90%以上を占めています。

またシリコンウエハーに回路を作った後に表面の薄膜を取り除くための洗浄剤として使われるフッ化水素(エッチングガス)では昭和電工など日本企業の世界シェアが44%、スマホなどのディスプレー用樹脂材料となるフッ化ポリイミドでは94%(三菱ガス化学など)に達しています。

半導体を作るうえで不可欠な素材はこの3品目だけではありません。半導体は桁外れに微細で超精密な数多くの工程を経て製造されるため、多様な素材や材料はきわめて高い品質が求められますが、この分野では日本企業が世界で高いシェアを握っているのです。
○世界の半導体を支える日本の「隠れた強さ」

最も基本的な素材であるシリコンウエハーにおいて、信越化学工業とSUMCOの日本企業2社で世界シェアの6割を占めているのをはじめ、世界の半導体材料市場全体で日本企業のシェアは50%、特に先端材料の分野では80%に達しているそうです(日本経済新聞)。

さらに、半導体を生産するための各工程の機械設備(半導体製造装置)の分野でも日本企業が活躍しています。米調査会社の世界半導体製造装置メーカー売上高ランキングによると、上位10社のうち日本企業は5社を占めています。そのほかは米国企業が4社、オランダ企業が1社です。

こうしてみると、韓国はもちろん世界の半導体メーカーは日本企業なしには半導体を作ることはできないと言っても過言ではありません。これは電子部品や化学、素材、精密機械などの日本企業が時間をかけて高い技術力を磨いてきた結果であり、「他に代替がきかない」という強みを発揮しているわけです。

その結果、これらの企業は価格競争に陥ることもなく高い利益率を確保できています。日本はかつて世界の半導体市場を席巻していましたが、今や韓国に取って代わられています。そのため、日本の半導体産業が丸ごと凋落したというイメージが強くありますが、実はその陰で世界の半導体を支える存在になっているのです。これが日本の製造業の「隠れた強さ」でもあります。

逆に言えば、韓国の半導体が意外に基盤の弱い産業であることがわかると思います。韓国は今回の事態に対応して半導体材料の自国生産や第三国からの調達などの方針を打ち出していますが、いずれもきわめて高い技術が求められるものばかりであり、そう簡単に実現できるものではありません。

そして日本のこうした「隠れた強さ」は、実は半導体関連だけではないのです。これについては次号で詳しく見ていきます。

○筆者プロフィール: 岡田晃(おかだあきら)
1971年慶應義塾大学経済学部卒業、日本経済新聞入社。記者、編集委員を経て、1991年にテレビ東京に異動。経済部長、テレビ東京アメリカ社長、理事・解説委員長などを歴任。「ワールドビジネスサテライト(WBS)」など数多くの経済番組のコメンテーターやプロデューサーをつとめた。2006年テレビ東京を退職、大阪経済大学客員教授に就任。現在は同大学で教鞭をとりながら経済評論家として活動中。
(岡田晃)

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