紀南に宇宙ビジネスを根付かせよう - 宇宙シンポジウム in 串本 第2回 「スペースワン」の太田社長が語った、"串本ロケット"の勝算と決意

マイナビニュース / 2019年9月12日 9時0分

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民間の手によって衛星打ち上げ用ロケット発射場の建設が進む和歌山県串本町で、2019年8月25日、「宇宙シンポジウム in 串本」が開催された。

発射場の建設を進めるロケット会社「スペースワン」の太田信一郎社長をはじめとする有識者が、600人を超える来場者に向けて、超小型のロケットや衛星がもつ可能性から、ロケットが和歌山にもたらす価値などについて議論。今年4月からは発射場の建設も本格化。新たな時代に向けて、本州最南端の町は熱い盛り上がりをみせているが、一方で課題もある。

この連載の第1回では、スペースワンのロケットに期待を寄せる、東京大学の中須賀真一教授、宇宙ベンチャー企業「ALE」の岡島礼奈社長による講演について紹介した。

第2回となる今回は、実際に串本町に発射場を建設し、打ち上げサービスを展開するロケット会社、スペースワンの太田信一郎社長の講演から、同社のロケット事業や現時点での計画、展望などについて紹介する。

○スペースワン設立と、自社独自の発射場建設の背景

基調講演の最後は、実際に射場を建設するスペースワンの太田信一郎社長が登壇した。太田氏は官僚出身で、特許庁長官などを務めたのち、電源開発副社長などを経て、現在に至る。

スペースワンは、キヤノン電子、IHIエアロスペース、清水建設、そして日本政策投資銀行の4社が出資して設立された会社で、まず2017年8月に「新世代小型ロケット開発企画」として立ち上がり、超小型ロケットに関する調査などを実施。その成果を受け、事業化することを決定し、2018年7月に事業会社として新たに「スペースワン」が発足した。

ちなみに社名の由来は、太田氏によると「ナンバーワンを目指すという意味を込めた」という。

事業化を決定した背景にあったのは、第1回で紹介したように、小型・超小型衛星の打ち上げ手段の少なさ、不自由さである。中須賀氏、岡島氏も訴えたように、従来、小型・超小型衛星の打ち上げは、大型衛星との相乗りか、他の小型・超小型衛星と混載したまとめ打ちくらいしか方法がなかった。そのため、衛星一つひとつが希望する時期、軌道に打ち上げることが難しかった。

太田氏はこの現状を知り、「使い勝手が悪いロケットしかない」と感じ、小型・超小型衛星の打ち上げに適したロケット、すなわち「お客様が、衛星を飛ばしたい時期に飛ばしたい軌道に打ち上げられるロケット」が求めらていると判断し、事業化を決定。太田氏は「ここにビジネス・チャンスがあると思っている」と語る。

また、設立のきっかけには日本政府の動きもあったという。2016年、「人工衛星等の打上げ及び人工衛星の管理に関する法律」、いわゆる「宇宙活動法」が成立し、2018年11月に施行された。この法律は、衛星打ち上げ用ロケットの打ち上げなどにおけるルールを定めたもので、これまでの明確なルールがなかったときと比べ、どこまでやって良いのか、やれないのかという線引きができたため、新たにロケット・ビジネスに参入しやすくなったという。太田氏は「この政府の動きには大いに背中を押された」と述べた。

そして同社が、和歌山県・串本町にロケット発射場の建設の要請をしたのは、まだ企画会社だったころの2017年9月のことだったという。

当初同社では、すでに日本には種子島や内之浦に宇宙航空研究開発機構(JAXA)のロケット発射場があることなどから、国内、また国外も含め、既存の射場を借りることも考えたという。

しかし、まず借りられるかどうかわからないこと、また、もし借りられても自由に使えるとは限らず、利便性の高いサービス展開はできないと考えられたことから、自社専用の発射場を新たに建設することが必要不可欠と判断したと語った。

発射場の建設は今年4月から始まっており、射点を中心に、その周囲にロケット組立棟、保管庫などの施設を建設。2021年中ごろまでに完成させ、ロケットの運用を開始したいという。

○「競争を勝ち抜ける勝算は十分にある」

打ち上げに使うロケットは、全長約18m、打ち上げ時質量約23t。固体ロケットの3段式で、4段目には軌道変更用液体ステージ(PBS:Post Boost Stage)を搭載する。これは日本の小型固体ロケット「イプシロン」と同じ構成であり、スペースワンのロケットは、いわばイプシロンを小さくしたようなものといえよう。打ち上げ能力は太陽同期軌道に150kg、地球低軌道に250kg。

現在は設計中で、2020年から試験・製造に着手。2021年度から打ち上げサービスを始め、2020年代中ごろには年間20機を打ち上げたいとしている。

太田氏は、「小さなロケットによる小さな衛星の打ち上げビジネスは、世界的に有望な市場であると考えている」とし、また、すでに国内外で開発競争が激化しているとともに、米国のロケット・ラボのように商業サービスを開始しているところもあると紹介。そのなかでも、「この競争を勝ち抜ける勝算は十分にある」とし、「そのためにあらゆる努力を惜しまず、万全を尽くしたい」と決意を語った。

スペースワンは、事業内容こそベンチャーだが、他のベンチャー企業とは異なり、すでに大企業として君臨している企業が出資して設立された会社であり、資金面はまず心配はない。また、そのうちの一社、IHIエアロスペースは高いロケット技術と実績をもっている。さらに、キヤノン電子は小型衛星の開発、製造ビジネスに参入しており、"身内"の中である程度の打ち上げ需要も確保できる見通しがある。資金面、研究・開発、そして顧客確保で苦労する会社が多いだけに、スペースワンのこの状況は強みであり、太田氏が「勝算がある」と語るのも頷けよう。

また、太田氏は最後に、「何よりも、安全確保が第一であるということを肝に銘じて事業を進めたい」と強調。この講演に前後して、田嶋町長は「地元からはロケットの事故などに対する不安の声もある」と語っており、そうした声を意識したものだろう。

太田氏は、日本の固体ロケット技術は、糸川英夫氏のペンシル・ロケット以来60年以上の歴史があることから、信頼性は高いとしたうえで、さらに宇宙活動法により、打ち上げには許認可や万が一の際の補償などを定めた、きちんとしたルールあるとして、安心・安全であることをアピールした。

(次回に続く)

著者プロフィール
鳥嶋真也(とりしま・しんや)
宇宙開発評論家。宇宙作家クラブ会員。国内外の宇宙開発に関する取材、ニュース記事や論考の執筆などを行っている。新聞やテレビ、ラジオでの解説も多数。

著書に『イーロン・マスク』(共著、洋泉社)があるほか、月刊『軍事研究』誌などでも記事を執筆。
(鳥嶋真也)

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