吉川明日論の半導体放談 第110回 海外シリコンウェハメーカーの話

マイナビニュース / 2019年12月3日 8時0分

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書き始めた時は1回で終わるものと思っていたが、最近ウェハ関係のニュースがいくつか報道され、書き進めるといろいろなことが気になって結局、いろいろと分けて書くことになってしまった。もう1話だけお付き合いいただきたい。

半導体デバイスの世界市場ではすっかり存在感を失った日本ブランドであるが半導体ウェハの市場では日本ブランド2社が半数以上の市場シェアを握っている。この寡占体制は随分と長く続いているが3位以下のブランドではいろいろなことが起こっている。各主要メーカーの系譜を追っていくことから始めよう。

半導体ウェハメーカーの系譜

半導体ウェハの製造が外注となり、ウェハ市場が形成され始めたのは1960-70年代である。半導体デバイスの市場が急速に形成されて、デバイスメーカーがデバイスの開発・製造に専念できるようクリスタル/ウェハの専門委託会社が発生した。

と言っても、いきなりウェハ製造会社が設立されたのではなく、化学や金属といったすでに成熟した企業母体から生まれ、その後M&Aが繰り返され現在のブランドが形成された。

下記が現在の半導体ウェハブランドの主要プレーヤーたちである。市場シェア別に並べたつもりだが数字は省いてある。前述のように信越半導体とSUMCOとでシェアの半分以上を占める。これらのメーカーの系譜を簡単にたどってみることにしよう。

信越半導体(日本)
SUMCO(日本)
GlobalWafers(台湾)
Siltronic(ドイツ)
SK Siltron(韓国)
その他

○信越半導体

半導体ウェハ業界のキングである。世界的に事業を展開する超優良企業である信越化学のグループ企業の1つで、カリスマ経営者 金川会長のもとに世界中の従業員が一糸乱れぬ動きをする独自の企業カルチャーを持つ。
○SUMCO

日本財閥系の住友金属と三菱マテリアルのシリコン部門の大型合併にコマツ電子が加わった混成チームである。各地に製造拠点を持ってる。世界市場で300mmウェハーを大量に供給するサプライヤーとして信越半導体と双璧を成している。
○GlobalWafers

シリコン業界の女王とも言われるドリス・スーが率いる台湾のメーカー。シリコンウェハ市場参入の大きな足掛かりとなったのは東芝セラミックスから独立したコバレントマテリアルが台湾のSAS(Sino-American Silicon Products)グループの傘下となり、そのもとで最新鋭の新潟工場を管轄するグローバルウェーハズ・ジャパンが設立されたことだ。

同社はその後も日本のシリコン関連企業をいくつか取り込んだが、その規模を飛躍的に拡大させたのが米国の大手SunEdison Semiconductor(旧MEMC)を買収したことである。米MEMCは半導体ウェハの老舗で、GlobalWafersはこの買収によってMEMCが持つ技術的ノウハウと世界中の製造拠点(結晶引き上げ工場、ウェハ工場を含む)を手に入れた。

最近では韓国工場の拡張工事を行うなど、トップ2社を猛追している。また最近SiCウェハで新興勢力となっている米GTAT社との提携も発表した。
○Siltronic

1953年にドイツで創立されたシリコン業界での老舗企業。ドイツのWacker化学社が最大の株主。パワーデバイスに適したFZ(Float Zone)シリコンを得意技術とする。

パワー半導体で大きなシェアを持つ同じドイツのInfenion社の強力なバックアップがあり、Samsung社ともジョイントベンチャーでシンガポールに300mmのウェハ工場を設立している。
○SK Siltron

韓国LGのグループ企業であったLG Siltronが2017年にSK Hynix系のSK Siltronに買収されることにより、規模が大きくなった。半導体立国韓国で国産で唯一のクリスタル/ウェハメーカーである。最近、化学大手DuPont社のSiCウェハ製造事業の買収を発表した。
○その他

上記の他にもアプリケーションに特化した6-8インチ製品を扱う小規模なウェハメーカーが存在する。MEMSセンサーなどに特化した特殊なウェハを提供するフィンランドのOkmetic社やEpiウェハに強みを持つ台湾のEpisil社などがある。
半導体ウェハビジネスの経済学

同じ半導体業界でもデバイスとウェハではまったく違う経済学が成立している。

私はデバイスのビジネス(それもマイクロプロセッサーという特殊な分野)に長く身を置いたのでウェハ業界に入りたての頃は大いに戸惑った。下記のようなものがウェハビジネスの特徴であると思われる。

ウェハ製造技術はかなり成熟しているので(これはシリコン材料に限っての話だが)、基本的に大きな技術革新がない。マイクロプロセッサーのように世代交代によって商品価値を上げていく手法が通じない。現在の大口径ウェハは300mmであるが、かつてはそれより大きな450mmウェハの研究が業界を挙げて進められていたが技術的制約、経済性の理由から開発はたち切れになった。現在技術革新はシリコンウェハではなく化合物半導体の分野で盛んにおこなわれている。
シリコンベースでは4、5、6、8、12インチのウェハ市場があるが、これらは主に製造されるデバイスの種類ごとにほぼ決まっている。マイクロプロセッサー、メモリー、CMOSセンサーなどのダイサイズが大きく最先端のプロセスを使用する場合は12インチ、パワーデバイスのようなサイズが小さいものは6-8インチと言うのが相場である。先ごろ、Infineonが業界で初めて12インチでパワーデバイスを製造したが、ほかのアナログデバイス、パワーデバイスの大手各社も12インチでの製造を進めており、トレンドになりつつある。
ウェハ価格は主に需要と供給のバランスで決定される。ウェハ業界の製造能力はデバイス製造ファブのように巨大投資で級数的に増加はしていない。
基本的に顧客の製品ごとのカスタム仕様で作られているので製品の顧客間の転用はほとんど無理である。ただし、製造ラインのモニター/テスト用あるいは、再使用のウェハなど細かい仕様にこだわらないアフター市場があり、これらはメーカーが直接顧客に販売する場合もあるが、多くはブローカーなどが取引している。

政治的影響を受ける半導体ウェハビジネス

最近の報道で目立ったのは韓国の動きである。日韓の半導体材料をめぐる貿易問題はデジタルインフラを支える半導体サプライチェーンの戦略的重要性を浮き彫りにした。半導体輸出大国である韓国にとって、デバイス製造に欠かせないサプライチェーンの多くの部分を輸入に頼っている状態は頭の痛い問題であろう。

その意味では日本の大手2社に多くを依存する半導体ウェハ市場は、これから益々政治的影響を受けるものと予想される。前述のように、今回GlobalWafersの韓国での新工場に文大統領がわざわざ訪れたのも非常に象徴的な出来事であった。

最近成長が著しい化合物半導体の市場でも韓国がらみで動きがあった。韓国のウェハメーカーのSK Siltronが化学大手のDuPont社からSiCウェハ製造事業を買収したと言う報道である。

半導体の市場がコンピューターから自動車などに拡大し、米中日との関係が微妙に変化する中で韓国は独自の道を探求し始めたようだが、世界市場に関係する半導体サプライチェーンへのアプローチはそう簡単ではなさそうだ。

また半導体サプライチェーンについて着々と国内技術を積み上げる大国がある。中国である。中国は5G、自動運転などで世界市場を牽引する未来像を探っているが、ここでもそれを支える半導体のサプライチェーンが大きな問題となる。国家資本にサポートされた自国産業の育成は確かに実績を上げている。紫光集団のDRAM参入と並行して中国は300mmウェハの自国生産能力を確実に上げている。

著者プロフィール
吉川明日論(よしかわあすろん)
1956年生まれ。いくつかの仕事を経た後、1986年AMD(Advanced Micro Devices)日本支社入社。マーケティング、営業の仕事を経験。AMDでの経験は24年。その後も半導体業界で勤務したが、2016年に還暦を迎え引退。現在はある大学に学士入学、人文科学の勉強にいそしむ。
(吉川明日論)

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